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20・自分でもわからない 前
しおりを挟む「―――アメリア、どうかしたのか?」
長椅子に戻ってお互いに本を広げていたが、アメリアはさっき見た小さな本が、やはり気になっていた。
「いいえ、大したことでは……」
「言いたくないことは言わなくても構わないが、君さえ良ければ、何でも話してほしい」
膝の上の分厚い本をぱたんと閉じて、ヴィルフリートは柔らかく微笑んだ。言わなくていい、というのはもちろん本心だが、出来ることならずっと目の届くところに置いて、一日中だって眺めていたい。アメリアは気づいていないが、ヴィルフリートの膝上の本はもう何度も読んだものだ。今日はそれを読むふりをしてページを繰りつつ、実のところはアメリアを眺めていたのだった。
まったく自分でも呆れてしまう。『番』とは、こんなに……、どうにもならないほど惹かれてしまうものなのか。眺めているだけで、隣にいるだけで幸せで、時間すら忘れてしまう。
正直に言えばもちろん雄として、出来ることならアメリアのすべてを手に入れたい。だがそれでアメリアを泣かすくらいなら、ヴィルフリートは己の腕だって落とすだろう。
今のところ、日々少しずつアメリアが打ち解けて、笑顔が増えてきていることが、ヴィルフリートのささやかな幸せなのだった。
「何か、気になることがあるのか?」
ヴィルフリートに重ねて問われ、アメリアは戸惑った。でもヴィルフリートが誠実な人だということは、この数日で良く分かっている。アメリアは思い切って口を開いた。
「あの、さっき落ちた中に、小さな本がありました」
「……ああ、最後に戻した本だね。何の本だった?」
「いえ、私も見てはいないのです。ただ……」
アメリアはギュンター子爵のに呼ばれた際、王宮でよく似た本を見たこと、それにはいわゆる「竜の花嫁」のことが書かれていたらしいことを話した。
「ちょっと待っていてくれ」
ヴィルフリートは先ほどの棚へ行き、件の本を抜き出して、その場で開いてみた。そしてひとつ頷くと元の棚へ戻し、戻ってくるとアメリアに向かい合う。
「アメリア、子爵の持っていた本は、おそらく王家の先祖が書いたものだ。君の想像通り『竜の花嫁』について書いてあるのだと思う」
「王家の方が……?」
「ああ。そしてここにあるのも、同じ者が書いたと思われる。そしてこちらの本には、私のような『竜の特徴』をもつ者……つまり『竜の末裔』に関することが書いてある」
アメリアは目を瞠った。それはつまり、王家の秘事が書かれているということでは。
「それは……すみません、私はとんでもないものを」
「いいんだ、アメリア」
ヴィルフリートは何でもないように言う。
「君はもう、私の花嫁になった。つまり、こんな僻地にいても……君は王家の一員、もはや関係者だ」
「ヴィルフリート様……」
「だから知りたければ、あの本を読んだってかまわない。私にそれを止めることは出来ない」
ヴィルフリートはそこで少し辛そうに眉を寄せた。
「アメリア、君は自分の意志に関係なくここへ連れて来られ、初めて会った男の妻にと決められた。君には悪いと思っている」
「そんな、私は……」
慌てて口を開いたアメリアに、ヴィルフリートはゆるくかぶりを振ってみせた。
「いいんだ、アメリア。私には、君がここにいてくれるだけでも奇跡だ。だから私に気を遣わなくていい。その代わり、どうか嘘をつかないでくれ。辛ければ、悲しければそう言ってほしい」
「ヴィルフリート様……」
何も言えなくなってしまったアメリアに、ヴィルフリートはゆっくり頷いて続けた。
「ああ、あの本のことだったね。君は読みたければ読んでもいい。だが、私の気持ちを言って良いなら……まだ読んでほしくない」
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