竜の末裔と生贄の花嫁

砂月美乃

文字の大きさ
上 下
20 / 50

20・自分でもわからない 前

しおりを挟む
 
「―――アメリア、どうかしたのか?」

 長椅子に戻ってお互いに本を広げていたが、アメリアはさっき見た小さな本が、やはり気になっていた。

「いいえ、大したことでは……」
「言いたくないことは言わなくても構わないが、君さえ良ければ、何でも話してほしい」

 膝の上の分厚い本をぱたんと閉じて、ヴィルフリートは柔らかく微笑んだ。言わなくていい、というのはもちろん本心だが、出来ることならずっと目の届くところに置いて、一日中だって眺めていたい。アメリアは気づいていないが、ヴィルフリートの膝上の本はもう何度も読んだものだ。今日はそれを読むふりをしてページを繰りつつ、実のところはアメリアを眺めていたのだった。

 まったく自分でも呆れてしまう。『つがい』とは、こんなに……、どうにもならないほど惹かれてしまうものなのか。眺めているだけで、隣にいるだけで幸せで、時間すら忘れてしまう。
 正直に言えばもちろん雄として、出来ることならアメリアのすべてを手に入れたい。だがそれでアメリアを泣かすくらいなら、ヴィルフリートは己の腕だって落とすだろう。
 今のところ、日々少しずつアメリアが打ち解けて、笑顔が増えてきていることが、ヴィルフリートのささやかな幸せなのだった。


「何か、気になることがあるのか?」

 ヴィルフリートに重ねて問われ、アメリアは戸惑った。でもヴィルフリートが誠実な人だということは、この数日で良く分かっている。アメリアは思い切って口を開いた。

「あの、さっき落ちた中に、小さな本がありました」
「……ああ、最後に戻した本だね。何の本だった?」
「いえ、私も見てはいないのです。ただ……」

 アメリアはギュンター子爵のに呼ばれた際、王宮でよく似た本を見たこと、それにはいわゆる「竜の花嫁」のことが書かれていたらしいことを話した。

「ちょっと待っていてくれ」

 ヴィルフリートは先ほどの棚へ行き、件の本を抜き出して、その場で開いてみた。そしてひとつ頷くと元の棚へ戻し、戻ってくるとアメリアに向かい合う。

「アメリア、子爵の持っていた本は、おそらく王家の先祖が書いたものだ。君の想像通り『竜の花嫁』について書いてあるのだと思う」
「王家の方が……?」
「ああ。そしてここにあるのも、同じ者が書いたと思われる。そしてこちらの本には、私のような『竜の特徴しるし』をもつ者……つまり『竜の末裔』に関することが書いてある」


 アメリアは目を瞠った。それはつまり、王家の秘事が書かれているということでは。

「それは……すみません、私はとんでもないものを」
「いいんだ、アメリア」

 ヴィルフリートは何でもないように言う。

「君はもう、私の花嫁になった。つまり、こんな僻地にいても……君は王家の一員、もはや関係者だ」
「ヴィルフリート様……」
「だから知りたければ、あの本を読んだってかまわない。私にそれを止めることは出来ない」

 ヴィルフリートはそこで少し辛そうに眉を寄せた。

「アメリア、君は自分の意志に関係なくここへ連れて来られ、初めて会った男の妻にと決められた。君には悪いと思っている」
「そんな、私は……」

 慌てて口を開いたアメリアに、ヴィルフリートはゆるくかぶりを振ってみせた。

「いいんだ、アメリア。私には、君がここにいてくれるだけでも奇跡だ。だから私に気を遣わなくていい。その代わり、どうか嘘をつかないでくれ。辛ければ、悲しければそう言ってほしい」
「ヴィルフリート様……」

 何も言えなくなってしまったアメリアに、ヴィルフリートはゆっくり頷いて続けた。

「ああ、あの本のことだったね。君は読みたければ読んでもいい。だが、私の気持ちを言って良いなら……まだ読んでほしくない」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【完結】言いたくてしかたない

野村にれ
恋愛
異世界に転生したご令嬢が、 婚約者が別の令嬢と親しくすることに悩むよりも、 婚約破棄されるかもしれないことに悩むよりも、 自身のどうにもならない事情に、悩まされる姿を描く。 『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません』

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

デブだから婚約破棄?!上等だ、お前なんかこっちから願い下げだ!!

ともどーも
恋愛
「俺、デブは嫌いなんだ。新しく聖女になったミアと婚約するから、お前、用済みな」 「はぁ……?」  貴族御用達のレストランで突然、婚約者に捨てられた。  私はクローヴィア・フォーリー(20)  フォーリー伯爵家の長女だ。    昔は金髪青眼の美少女としてもてはやされていた。しかし、今はある理由で100キロを越える巨体になっている。  婚約者はいわゆる『デブ専』を公言していたにも関わらず、突然の婚約破棄。  しかも、レストランに浮気相手を連れてきて私を誹謗中傷とやりたい放題。  フフフ。上等じゃない。  お前なんかこっちから願い下げよ!  後で吠え面かくなよ!! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 14話で完結です。 設定はゆるいです💦 楽しんで頂ければ幸いです。 小説家になろう様にも同時掲載しております。

鬼の王と笑わない勇者

モンスターラボ
ファンタジー
「俺、笑えないんだ。」 勇者にしてはやる気がない。何を見ても、何をされても、感情が動かない。だが、彼には鬼に対抗する唯一の武器、笑いの剣が宿っていた。この剣は、持ち主が笑うことで真の力を発揮するという伝説の武器。しかし、笑えないゼクスにとっては、ただの鉄の塊だった。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

処理中です...