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1・プロローグ
しおりを挟む純白のドレスを着て、寝台に横たわる一人の娘。
艶やかな栗色の髪は解き流されている。
ふっさりと長い睫毛に縁取られた瞼は固く閉じているが、ごく薄く化粧を施された淡いピンクの唇は僅かに緩んで、深い眠りの中にいる娘の吐息が聞こえてくるかのようだった。
彼は眠る娘の横に立ち、淡い黄水晶のような瞳で、食い入るようにその姿を見つめていた。ふと頭を振って、瞳と同様に淡く黄みがかった、透明感のある髪を後ろへ払う。
顕になった顔は、例え美の女神でも文句のつけようがないほどに整っていた。
敢えて言うなら色味が少ないせいか、表情に乏しいように見えることだろうか。
それでも彼の瞳には、今まで見せたことのない、熱を帯びた何かが浮かんでいた。
―――こうやって、目の前で眠る娘を見下ろすことも、もう何度目になるだろう。その都度別の娘だったが、いつもならひと目見ただけで、違う、この娘ではないと分かったものだ。
それなのに。今回は……何なのだろう。まるで、ほかの者には見えない内側から光る何かが、娘から放たれているようだ。
初めての感覚に、彼は戸惑っていた。
そっと手を伸ばし、陶器のようになめらかな頬に触れてみる。
ぞくり、と今まで体験したことのない震えが彼の体を駆け抜け、彼は慌てて手を引いた。
―――何だ、この感覚は?
閉ざされたごくごく狭い彼の世界で、このような感覚を味わうことは、今まで一度もなかった。
―――これがそうなのか? この娘が私の……?
吸い寄せられるように、もう一度手を伸ばした。今度は、絹糸のような髪に触れてみる。
―――なんと柔らかいのか。
下腹に甘くざわめく感覚を感じ、彼は確信した。
彼女は、―――彼女こそ、彼のものだった。
今ここで、このまま欲望のままに手折ってしまっても、誰も彼を責める者はいない。この城の主は彼だ。たとえ彼女とて、彼を責めることはできない。
だが、彼女はきっと泣くだろう。そのような姿を見たいとは思わなかった。
だから、彼は耐えた。身の内から湧き上がる、凶暴と言ってもいいほどの激しい衝動に。
名残を惜しむように、いま一度、ひと筋の髪を指先で絡め取り……白い額に、そっと口付ける。甘い香りが、彼の鼻腔を満たした。
名残を惜しむように、ゆっくりと髪を放し……。
そして彼は部屋を出ていった。
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