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4・まずは、キスから
しおりを挟む「だってダリア、さっき君が言ったじゃないか。『交わる』っていうのは、夫婦とか恋人同士でするものだと」
ああ、ちゃんと覚えててくれたんだ。あたしはジュリオ様に頷く。
「普通はそうです。―――でも、このままじゃここを出られないから」
ジュリオ様は俯いた。もちろんジュリオ様だって、手をこまねいていたわけじゃない。他に手がないか、出来る限りの魔法を試みてくれた。ところが炎も風も、ジュリオ様の使える簡単な転移魔法も、すべて効かなかったのだ。
「ごめん、僕が不甲斐ないばかりに……」
「ううん、たぶんそういう問題じゃないんです。きっとここは、そうする以外ないんだと」
「悔しいけど、そうかもしれない。でも、君はそれでいいの?」
「仕方ないです。……その代わり、ここを出られたら忘れて下さい」
あたしの心配をしてくれる、その気持ちは嬉しいけど。正直言って、もうぐだぐだ言わないで欲しい。せっかくの決心がゆらいでしまう。
「うん、分かったよ。―――どうしたらいい?」
はああ、やっぱりそうなりますよね。
ああもう、『逞しい恋人が震えるあたしをそっと押し倒して、優しく激しく……』なんて夢は、忘れろということですね。
頑張れダリア、やるしかない!
あたしは人生最大のため息をついて、顔を上げた。
「ジュリオ様、あたしの言うとおりにしてください」
「……まずは、キスしましょう」
「ええっ」
「一般的に、そういう順番らしいです。……お願いですからもう、いちいち驚かないでもらえますか」
そんなに驚かれたら、気力がもたないもの。あたしは残り少ない気力を振り絞って、ジュリオ様に顔を近づけた。
「目をつぶって……?」
ジュリオ様の反応を待つ余裕なんてないし、ロマンチックもへったくれもない。ただ胸の音が、嵐のように轟き渡っているだけだ。
ジュリオ様の唇は少し冷たかった。
「んっ……!」
ちょっと、ジュリオ様のバカ。そんな可愛い声でビクッと震えたりして、それは普通、あたしがするところでしょうが。
それにしても、どう見てもこの反応は初めてだよね。あたしでさえ、キスくらいは初めてじゃないのに。どれだけ箱入りなんでしょうか。そう思ったら、ほんのちょっとだけ余裕が出た。まだ目を見開いているジュリオ様に、無理に笑ってみせる。
「ジュリオ様、そんなに緊張しないで」
触れるだけの軽いキスを、何度も何度も。
あたしは壁に寄りかかったジュリオ様の脚をまたいで、膝立ちになって肩に手を置いている。手の下の強張った身体から、少しずつ力が抜けてくるのがわかった。
そう、上手にできているのかは分からないけれど、あたしも前にこうされて……骨抜きになったんだよね。もっとも、その時の相手は、田舎娘のあたしをからかっただけだったんだけど……。
ああ、いけない、そんな余計なことを思い出してる場合じゃない。
あたしは思い切って、ジュリオ様に抱きついた。農場の山羊のミルクを毎日飲んでいるせいか、はっきり言ってあたし……胸大きいんだ。恥ずかしくて頭がおかしくなりそうだけど、もうそんなこと言ってる場合じゃない。ぎゅっと目をつぶって、思いきり胸を押し付けた。
ジュリオ様、いくら何でも、それが何かぐらいわかるでしょう? はたしてジュリオ様は、ぴくっと身体を震わせる。よかった、認識してもらえたみたい。
「ね、ジュリオ様。あたしの腰に手を回して?」
「えっ、こっ……、こう?」
「はい。……倒れないように、ちゃんと抱いててくださいね?」
おずおずと腰に手が回された。続けて何か言おうとしたジュリオ様に、唇をまた押し付ける。もう、胸どころか身体中がドキドキして壊れてしまいそう。
「んーっ!」
軽く開いていた唇の間から舌を忍び込ませると、ジュリオ様が驚いて声を上げた。でも、あたしが実際に経験してるのはここまで。自信を持ってできるのはこれが最後なんだから、止めるわけにはいかない。
前歯の表面をそっとなぞり、舌の先を絡める。ジュリオ様はその度に「んっ」とか「ふっ」とか小さく声を漏らしていたけど、少なくとも、嫌ではなさそう……かな?
そっと口を離すと、二人の口から糸が伝った。あたしがそれを指先で拭うと、ジュリオ様は真っ赤になった。
―――可愛いな。
一瞬そんなことを考えてしまい、あたしもドギマギしてしまった。待って、違うでしょ。それは逆なんじゃ……? でも、潤んだ瞳であたしを見るジュリオ様、いつもの何倍も綺麗に見えるんだもん……。
いや、それよりも、問題はこの先。恥ずかしいけど、やっぱり脱がなきゃダメだよね……? そうだ、ジュリオ様に先に脱いでもらえば!
「あの、ジュリオ様……」
「……え」
ひえっ、薄明かりに白い頬がほんのり上気したジュリオ様、ヤバいです! 何なのこの人、あたしたち村の娘より何倍も色っぽい気がするんですけど!?
あたしは口を開いたまま、次の言葉が出なくなってしまった。「脱いで」って、たった一言だけなのに……!
うう、でもこのままじゃ帰れない。頑張れダリア、女は度胸! やるしかないのよ!
あたしは思いきってジュリオ様のローブの紐を解いた。下のシャツのボタンを外すときにはさすがに手が震えてしまったけど……、ジュリオ様のほうがもっと震えてるのってどうなんだろう?
「ああ……」
シャツをはだけると、ジュリオ様が声を洩らした。恥ずかしそうに視線を逸らして俯く。
だーかーらー、それは本来あたしが! ううん、それどころじゃない。これからあたしがしようと思ってることの方が、もっともっと恥ずかしいんだからね……!
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