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18・愛しています
しおりを挟むジルの、のあたりでもう泣き声になってしまったので、ジルはびっくりしたように顔を上げ、泣いている私を見て本当に驚いたようだった。
「ジルの、馬鹿。自分の気持ちを押し付けるだけで。どうしてたった一言でも『愛してる』って……言ってくれなかったの」
「リゼット、何故……だって、貴女は……」
「私こそ、閨だけを必要とされているのかと思って悲しかった」
思い切ってそう言うと、ジルの目が驚きに見開かれた。
「確かに最初は、それしか方法がないと思って結婚したわ。でもそれは、相手がジルだったからです。愛とか恋とか……そういう気持ちは分からなかったけど、でもジルなら嫌じゃないから、って。それなのに、昼と夜とで別人のようにそっけなくて……。ジルには別に私じゃなくても、思い通りになる女でさえあればいいのかって、悲しかった……」
「リゼット、私は」
今度は私が首を振り、ジルを遮って話し続ける。
「一度でもそれを言ってくれていたら、あんなに苦しいことなんか無かったのに」
ジルが茫然とした表情を浮かべた。私はまだ涙が止まらなかったけれど、ジルの目から視線を逸らさずに言う。違う、本当に言わなくちゃいけないのは……。
「さっき、分かったんです。……タルボット卿に触れられたとき。―――ジルじゃなきゃ嫌だ、って」
「……リゼット?」
「ジルが、好きです」
ジルは口を半開きにしたまま、呆けたように私を見つめて動かなかった。
「……ジル?」
―――困らせてしまった? こんな生意気なことを言っては、いけなかったかしら?
急に不安になったところで、ジルが両手で私の肩を掴んだ。
「私で、いいのですか。十六も年上の、貴族でもない私で」
「……子供のころから言ってたでしょう? 『ジルのお嫁さんになる』って」
ジルがくしゃりと笑って、私をもう一度抱き寄せた。
「……あの日、私の顔を見ても分からなかったじゃないですか」
「だって、ジル……あんなに変わってるんですもの」
私も笑った。ジルの腕に包まれて、ようやくジルと気持ちが通じ合った安心感がこみ上げてくる。
そのとき、もう一つ大切なことを思いだした。
「それに、ジル。私……」
首をかしげるジルに、私は両手をお腹に当ててみせた。
「まだ、確かではないんですけど……」
「リゼット……!」
言い終えないうちにジルにぎゅっと抱きしめられ、顔じゅうに何度も何度も口づけを浴びせられた。くすぐったいけれど、さっきまでの私なら、ここまでジルが喜んでくれるとは到底信じられなかった。それを思うと、嬉しくてまた泣きそうになってしまう。
「ジル……」
名前を呼んだ私の唇は、今度こそ長い口づけで塞がれた。ゆっくりと確かめるように舌を絡め、両手が抱いた私の身体をなぞる。
「ん……」
身体を撫で回した手が、お腹の上で止まった。ジルの大きな掌が包むようにお腹に当てられ、そのままそっと、ベッドに押し倒される。
「リゼット、愛しています。……許してくれるなら、これからは何度でも言わせてほしい」
「ジル……、んぅ……」
返そうとした言葉はジルに直接吸い取られてしまったけれど……。覆いかぶさるジルの重みと温かさに、私はどうしようもないほどの幸せを感じた。
「愛している」
何度目かの低い囁きと同時に、開いた胸元にジルが唇をつける。
「あっ……」
私はその度に、ひくんと身体を震わせた。ジルの囁きと口づけと、どちらに反応しているのか……もう自分でも分からない。
「愛しています、リゼット」
「あんっ……、ジル……」
「どうしました?」
胸の間に顔を埋めたジルが囁くと、息がかかるだけでまた震えてしまう。
―――どうして? なんだかいつもと違う。吐息と口づけだけで、こんな……。
「ぁあっ!」
胸元を押し開いたジルが、零れ出た胸の頂を口に含んだ。そのとたんに私の背を快感が駆け上がり、早くも甘い痺れの予感さえする。
「いいのですか」
ジルが私を見上げて聞き、私は頷くのがやっとだった。その間も大きな手がそっとドレスを脱がせていく。
「ジル……私……」
「いつもより感じやすいようですね」
目を細めて言われ、私は頬を染めた。誰に聞かなくても、理由は分かっている。ジルが、私を愛していると言ってくれたから。そして私の気持ちも同じだからだ。
「ジルだから、です」
「……っ、貴女はそんな……っ! ああ、せっかく抑えていたのに!」
「あっ!」
言うが早いかドレスを取り去られ、私は生まれたままの姿にされた。両手をつなぎ合わせたままジルが身体を下げて、私のお腹に恭しく口づける。
「ここに、いるのですね。私達の子が」
「ジル……」
「明日、病院に行きましょう」
「はい。……あ、ジル……」
ジルの唇はお腹だけでなく、腰から脚へと移っていった。
「ああっ、んっ……!」
「ここも、こんなに感じるのですね? ではここは……?」
「ああんっ、ジル……! だめ……!」
ジルが触れるところ全てが気持ちいい。ジルが私の膝を折って、内腿に舌を這わせた。
「あ、ああっ、ジル!」
「ここも、いいのですね?」
ジルの囁きに、脚の間からこぷりと熱いものが溢れてくるのを感じる。当然、それはジルにも見えているはずで……。
「ああっ、もう言わないで……!」
「……聞くまでもありませんね」
溢れた蜜を掬い、痛いほどに尖りきった蕾に塗り付ける。
―――もうだめ、どうしたらいいの? 感じすぎて、幸せすぎて、おかしくなってしまいそう。
「あ、ぁ――――――っ!」
「リゼット、もう無理です」
ジルには珍しい、追い詰められたような声がした。と思ったら、すぐにジルの熱く硬いものが触れて……一気に押し入ってくる。
「は……あぁっ……!」
「リゼット、愛しています」
その瞬間、瞼の裏に眩しい光が散って……、私は何も分からなくなった。
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