異世界ハンター生活日記

宇宙猫

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第1章

第5話

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「次の方、どうぞ!」

 待ちに待った私の番。冒険者らしくなってきてワクテカが止まりません!
 1番カウンターは紳士的な男性の人が受付をしていました。
 神様みたいな雰囲気をしているからか、好印象な雰囲気をしています。

「まず、冒険者タグを見せてもらっても宜しいでしょうか?」

 クエストを受けるのは冒険者タグの開示から始まります。
 慌てて、首にかけていた冒険者タグを胸元から抜き取りました

「はい、これですね。どうぞ」

 ちょっと汗っぽかったので服で軽く拭くと、温もりのある冒険者タグを受付の男性に渡します。

「黒恵様。レベルⅠですね。クエストは『草むしり』、『買い物代行』、『店番、手伝い』等々ありますが何にしますか?」

 優しく案内してくれるのは嬉しいですが、ちょっとなめられてるみたいで嫌ですね……。

「すみません。出来れば魔物の討伐のクエストはありませんか?」

 口には言えないものですが、P-90───現代兵器がどの程度この周辺に住む魔物達に通用するかを試したいのです。
 P-90に使われる5.7mm弾は150メートル先のボディアーマー(NIJ規格レベルIIIA以下のもの)を貫通する性能を持つ故に大体の魔物に通用するはずですし、実銃射撃もハワイで経験済み。サバゲーでもそのコンパクトさから気に入り、M40A5同様に愛銃として扱っていましたから、取り回しもある程度心得ています。
 せっかくこの世界でオーバースペックなものを持っているのに雑用系クエストで小遣いを稼ぐのは手持ち無沙汰というもの。
 これから兵器、銃器を導入していくに伴い、今のうちから沢山お金を稼いでおきたいのが本音です。

「魔物の討伐のクエストはレベルⅡ相当のクエストです。まずはレベルⅠの簡単なクエストを受け、慣れていくのが常道です。この業界は自信のある方ほど、無理をして命を落とします。ここは無難に少しずつこなしていくのをお薦めします」

 自殺志願者を思いとどませる様な迫力で、受付の男性は答えました。
 こちらとて、お金が欲しいという容易な考え以上に、この世界の命運をも左右する事態の収拾を任された身です。
 そんないらん踏み台段飛びしてでも進みたいじゃんアゼルバイジャン…… ダメっぽそうだけど、もう一押し行ってみてダメだったら大人しく引き下がりますけど。

「もちろん分かってます。私も馬鹿ではありません。自分の実力がどのぐらい通用するか、それを知りたいのです!どうか!お願いします!」

 受付の男性に負けない迫力で対抗する。私の背中には下手をすれば10億人いるかいないかと命が託されているようなもの。
 近代兵器とこの重要な役割を舐めてもらっては世も末です。

「……分かりました。ですが条件があります」

 三分弱お互いに睨み合ったあと、受付の男性の方が先に折れました。
 鼻息荒く勝ち誇る様子を参りましたよと両手を上げて降参の意を表します。

「それで、条件とはなんですか?」

 受付の男性は、ずいっと前に出た私を見て深く溜息を吐きました。
 同じような人間は多くいるのでしょう、「仕方ない」と小言を言うのが聞こえた。
 普通なら突っかかりたいところですが、せっかくのチャンスを不意にするのも野暮なのでやめておきます。

「あなたの実力を過小評価している訳ではありませんが、安全の為、私も同行します。ギルド職員の身ではありますが冒険者レベルⅢの資格を有しています。あなたの身の危険を感じた時に助けに出るだけで、基本戦闘には参加しませんのでご安心を」

 右肩のポケットから冒険者タグを出してみせました。
 確かに冒険者レベルⅢです。

「分かりました」 

 立会人がいるのは心強い。私の実力を間近で見れば、青二才が自信だけは一人前にやってきたという考えを改めさせるチャンスです。

「では、レベルⅡの昇格クエストに使われる、ロイスローという四足歩行の魔物の討伐クエストを受けてもらいます」

 そう言うと、1枚の紙を渡されます。そこにはロイスローの絵と、特徴が事細かに書かれていました。

ロイスロー。

 そう総称される犬型四足歩行の魔物は、肉食であり、防壁外で畑を耕す人や家畜を襲う魔物のようです。その上単体でいる事はほとんどなく、常に2、3匹のムースを組んでいるとの事です。
 主に東門と北門を抜けた先にある広い平野部の森沿いや畑近くに出現するらしい。
 報酬は1匹につき、小銀貨1枚と大銅貨5枚(1500円相当)。
 倒した証にロイスローの尻尾を取り、それを小銀貨1枚(1000円相当)に交換するシステムもある様ですが、今回は討伐数の指標として扱うようです。

「では、タグに受注手続きを行いますので、しばらくお待ちください」

 魔道具なのか、墨を使って書く羽根ペンとは異なる、万年筆の様な筆を取り出します

 冒険者タグの何も書いてない裏面を表にして型に嵌め固定すると、何も無い表面に文字を書いていき、それが終わると返却されました。
 タグを見ると、受注したクエスト内容が簡易ながら書いてありました。

「では、私も準備しますので席でお待ちください」

 カウンターを離れ近くの席に座って待つと、受付の男性が近くの女性を呼んで入れ替わっていった。
 今のうちに装備の確認をしておく。
 P90が一挺に、マガジンが装弾しているのを合わせて合計1+4個の250発。
 予備に2個あるので十分足りるでしょう。そうでなかったらそれまでです。

「お待たせしました。今回はよろしくお願いします」

 20分ほど待つと、準備が整ったようで受付の男性から声をかけられました。
 武器は……同じ遠距離武器であるボウガンの様子。
 でもP90の比べ物にすなならないアンダースペックなものです。

「よろしくお願いします!」

無理を言ってOKしてくれた相手に、大きく頭を下げました。
私の輝かしい一歩の立証人になってもらう意味も含め、この方には色々とお世話になりそうです。

「よろしくお願いします。では、東門へ行きましょうか」

「はい!」

 ギルドを出て、受付の男性の背中を付いていくように黒恵が続く。
 長く続く露店街の人混みを、慣れているのかスルスルと抜けて、大きな広場に出て窮屈なところから開放されたところで、男性が思い出したように止まりました。

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はマウエズと申します。以後お見知りおきを」

「はい!マウエズさんですね。では私も改めて。黒恵と申します。将来的には世界一の軍団レギオンの団長を務める予定なので、よろしくお願いしますね♪」

 お互いに短く自己紹介を終えると、また東門に繋がる道へと歩くのを再開します。
 ギルド周辺から遠ざかり、露店が道の横にないからか、比較的広い道ように感じました。

「そういえば、黒恵さんはこの"村"に来た時、町みたいだと思いませんでしたか?」

 歩いている途中。微妙にピリピリする緊張感を少しでも和らげるためにマウエズさんが質問をしました。
 確かに、遠目で遠近法があったからか、村に入った時に感じた違和感は今も同じでした。

「あー……そうですね。個人的な考えですと、村から町に発展している最中と考えますが、合ってますか?」

 首を左右に傾けながらマウエズに聞く。特に確証も無いので質問口調です。

「はい。その通りです。前までは農業や林業などで細々と活動していたこの村ですが、新しい街道の整備で中間地点として使われる事になったのです。それから冒険者や商人を中心に多くの人が集まって来ていて、活気づいているんです」

「なるほど~たまたま寄った所ですがいい場所なんですね」

 その分宿屋も多くある様子ですし、ここでしばらく活動していく中で、特に困る事も無さそうです。

「そういえば、もう宿屋は確保しましたか?」

「いえ、とりあえずクエストでお金を集めてから探そうかと。ここに来た時点で一文無しにも等しかったので」

 一文無しでは流石にきついです。屋根がある部屋はおろか、十分な栄養さえ摂取出来なければある程度オワゲーな感じなので、ある程度懐を温めてから挑まないと足を見られて……シクシク。

「なるほど。でしたら後でいい所を紹介しましょうか?銀貨1枚、小銀貨5枚(1500円)で一日分の部屋が取れますよ」

 おお、銀貨1枚と小銀貨5枚。安いのか高いのか分かりませんが一匹狩れば一日雨風に困ることにはなくなったので嬉しい。

「良いのですか?すみません、何から何まで」

 さっきまで、自殺志願者を思いとどませる様な必死さは何処へ……。
 自信過剰だとは取られていそうですが、少なくとも無駄に自信のある人よりかは違うと思われたと信じたいです。

「まあ……結果次第ですが、私の先行投資と考えて下さい」

「はい……まあ、私は全力を出すだけです。犠牲になってくれるロイスローの方々には申し訳ないですが、これも生きる為。致し方ない犠牲コラテラル・ダメージです」

「う、うん。そろそろ東門だね」

 あ、聞き流された……まあいいか。

「身の危険を感じたら無理に進まず1度後退して立て直してください。私は基本戦闘には参加しませんので、自力で頑張って下さいね」

 東門に着いた所で、再度注意を受ける。神様にステータスの底上げにP90があれば大丈夫です。
 ですが、これが初戦闘なため、慎重に行くことに越したことはありません。

「当然です。自分の身を自分で守れなくて何が冒険者ですか。マウエズさんを失望させないよう、頑張ります」

 グッと拳を握りしめ、早く撃ちたいという欲求が暴走しかけているのを抑えます。
 やっぱり何か初めての事をするのって、興奮とか緊張とかしないですか?私は……楽しみで仕方がありません!

「あ、あとこれを」

 マウエズさんからペットボトル(一般的な500mlサイズ)ぐらいの大きさの瓶を渡されました。中には透明な液体が入っている様です。 

「これは何ですか?」

 水かと思い、栓を開けて飲むような仕草をしましたがマウエズさんにまずは話を聞け、と止められました。

「ギルドでは魔物を退治した後に、死体は埋めるか燃やすか等で処理する必要がある事を冒険者に呼びかけていて、この魔法水は死体に一、二滴垂らすだけで処理が出来るからオススメしてる魔法水なんです。一応飲めるから非常時にはいいけど、あくまで用途はモンスター処理用だからね」

 最後のところを強く言い、「では、行きましょうか」と門を潜っていきました。

「ありがとうございます!では私も行きます!」

 魔法水をベルトキットの小物入れに入れると、門を抜けた私はP90を持って走り出す。
 それは特に意味も無く、目前に広がる平原を一直線に疾走する姿は猪突猛進と言っても間違いではありませんでした。
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