異世界ハンター生活日記

宇宙猫

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プロローグ

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 夏の日差しが木々の間から差し込み、小風でサラサラと擦れる音が、幻想的な雰囲気を作る自然豊かな森林。
 そこには、大小様々なベニヤ板、小屋、土管、骨組みだけの大きな建物、前輪を失い、大きな木の元で派手に損傷し、擱座するジープなどの障害物が置かれ、本物の戦場のような装いをしていしました。

 その中で、私こと黒恵を含めた彼らは、サバイバル・ゲームサバゲーの、夏に行われる定例会に、参加していました。
 サバイバル・ゲームとは、何か?
 開始前に設けられた、初心者向けの説明によると、
 ・サバゲーとは、BB弾が発射できる「モデルガン」(通称「エアソフトガン」)を使用して、一定の「場所」や「ルール」のもと、撃ち合って遊ぶゲーム。
 ・1970~1980年代に、日本で始まったと言われている。また、1980年代に当時米国で流行っていたペイントボールゲームがあり、専用の道具を使用した、ペイントボールゲームではなく「エアソフトガン」を使用した、この遊びをサバイバルゲームと称している。
 そんな感じの事を、話していました。
 個人的には、サバイバル・ゲームの始まりが日本、という事に驚きました。
 普通に、アメリカが発祥かとばかり、思っていました……。

 そして今回は、そのサバゲー専用に作られたリアル感あふれる森林フィールドで、カウンター戦(または復活戦)、というゲームルールで遊んでいます。
 カウンター戦とは、何か?
 これも、ゲーム開始前のルール説明によると、
 ・殲滅戦の応用パターン。
 ・復活があるルールで、フラッグ(開始位置)に、復活人数を確認するカウンターに、ヒットした時にフラッグまで戻って、ちゃんとカウンターを押すと、戦線に復帰できる。
 というものらしいです。
 因みに殲滅戦とは、時間内に相手チームを倒せば勝ちというシンプルなゲームルール。
 つまりは、サーチ・アンド・デストロイということ。
 分かりにくかったらすみません、自力で調べてください。

 私はくじ引きで、青チームになり、開始のホイッスルの音と同時に、スナイパーライフル狙撃銃を持って、自然豊かな森の戦場へと足を踏み入れました。

「うぅぅぅぅぅるぅあぁぁぁぁぁー!!!」

 開始直後、上半身裸の男が大きな雄叫びをあげ、両手に持ったアサルトライフルを、振り回すようにしながら走っていきました。
 少し驚きながらも、私は同じ味方スナイパーが進む方向へ、走って行きます。

 間もなくして、森の中を通る風のそよぎと共に、射撃音が響き渡りました。

 その音は多種多様で、電動ガン特有の機械音や、エアコッキングガンの圧縮された空気がBB弾を圧力で押し出す音が、耳を澄ませば聞き取れます。
 当たれば、痛いです。

 サバゲー開始から1分も経たぬうちに、森林フィールド内に、その射撃音が所々で、響き始めました。私よりもすごい速さで猪突猛進して行った、アサルトライフル持ちの人達などが、撃ち合っているのでしょう。
 念の為、近くのベニヤ板数枚で作られた障害物に隠れます。
 べ、別に流れ弾が来ないかとか、近くに敵がいて狙われているんじゃないかとか思ってませんし……。

 障害物越しに周囲を見回し、前方6m程近くで射撃音のする方向を見て警戒していた無防備な敵にお帰り願ったあと、少し前進して、低木の細かな枝でモサモサした所へと場所を移します。

 その後も2名ほどアサルトライフル持ちが来たので、腰に持っていたファイブセブン5-7を乱射してお帰り頂くと、別の場所から、味方が「ヒットォォー!!」という声をあげて、敵のBB弾が当たり被弾したプレイヤーが両手を上にあげて戦闘不能状態を示し、急ぎ足で自陣フラッグ方面へと走って行きました。
 これは、ヒットコールと呼び、被弾したプレイヤーは自己申告で、ヒットを申告します。
 守らない人の事を「ゾンビ」といい、その行為を「ゾンビ行為」と言うようです。それが発覚した際は、フィールドへの出入り禁止処置などで、対処されるらしいです。

「って!痛い痛い!ヒット!ヒットォォォ!」

 そして、裏とりをされたのか、私も左から撃たれ、ヒットコールを連呼しながら、まるでうさぎのように小刻みに飛びました。
 銃撃が暗み、私を撃った相手が次の獲物を探して走るのを見送ると、じんじんと痛む左肩をさすりながら、これでゾンビ出来る人へいろんな意味でちょっと尊敬します……。
 普通なら、撃つのをやめてほしいからヒットコールすると思うんですけどね……。

「お、黒恵ちゃんもヒットしたか。痛いだろ?」

 カウンターのある開始地点近くまで急いで戻ってくると、ふとそう声をかけられました。
 さっきの上半身裸で突撃していった男性も、最初の時だけだったのか、迷彩服を着ています。 

「はい、敵に側面を急襲されました。まだちょっと痛いです……」

 そう言って、被弾した左肩をさすりながらも、クスッと笑いました。
 この人は、「青柳 安沢」さん。
 ロシアのアサルトライフル、AKシリーズの銃が好きという彼は、持っている銃もAKです。
 開始の突撃で十回あれば八、九回は雄叫びを上げますが、大声で何を言っているか分からないので以前聞いてみました。
 ロシア語で万歳を意味する「ypaaa(ウラー)」と言っているようで、ロシア版バンザイ突撃といったところらしいです。

「んじゃ、ここで話し合ってサボるのもなんだ、そろそろ前線に戻ってあばれようじゃぁ~ないか」

 青柳さんはそう言うと、AK-47のダミーコッキングレバーをガシャンと引き、にやけた顔でまた前線へ走って行きました。
 私もそれを追うように、カウンターを一押しすると、急いで戦場へと戻ります。

 それからすこし走ると、前線から少し後方にあった隠れられそうな茂みを見つけ、そこに伏せた状態で、M40A5 スナイパーライフル狙撃銃を構えて、スコープ越しの索敵を行います。
 時間がたった前線は、敵も味方も、ところどころに設けられた障害物に、うまく身を隠して、戦線を維持する為に銃を持つ腕や、照準を定める為に顔を出した瞬間を撃ち合うという、拮抗状態に陥っていました。
 戦線に戻ってきた味方は、戦力を見て押し込むか迎え撃つかを各々が判断します。

 時折、運悪くヒットした味方がカウンターを押しに戻る中、その穴を埋めるべく、こちらも数名を前線から離脱させたりして、どっちつかずな撃ち合いが続くばかり。
 ですが、流石カウンター戦です。先にも言いましたが、殲滅戦と違い復活があるゲームルールなので、数を減らしてもまた戻ってくるのが、なかなかに大変です。
 まあ、その分多くの人を撃てるというのはありますが(ニッコリ)。

 開始から早くも、30分弱が経過しつつある現在は、赤チームが、若干の劣勢に立たされていました。
 最初は青チームが劣勢でしたが、味方の善戦のおかげで、前線が赤チーム寄りに傾いていました。

 勢いに乗って私も少し前進し、かの横から急襲された低木の近くに潜みました。
 ちょうど低木の中に入れそうな感じだったので、潜ってみると、見事にフィット。
 恐らく、見ていても、迷彩で偽装された頭とM40A5が背景と同化して見えないと思います。

 そう、うまく隠れている事を信じ、スコープ越しの索敵を始めます。
 すると、ミニミM249 ライトマシンガン軽機関銃持ちの敵が、所々に設けられた遮蔽物の合間から、迎撃の態勢を取って、前進し過ぎていた味方へと向けて牽制射撃をしました。味方はそれを紙一重で避け、近くの遮蔽物へと身を隠します。
 ですが、突出しすぎて近くの味方は殆どいない、孤立状態になってしまいました。味方2名ほどが、障害物を伝いに応援に向かいますが、途中で集中砲火を受けて、全滅してしまいます。
 その影響で、青チームの包囲網に穴が開き、そこから津波のように押し寄せた赤チームの突撃に、あっという間に味方が包囲されてしまいます。
 赤チームの攻勢に私も追いつけず、M40A5を見境なく撃ちまくりました。
 マガジンにある弾を最後まで撃って、最終的に十数発は発射したつもりですが、やはりヒットさせたのはわずか5人。
 急いでマガジンを交換すると、サイドアームのMP7を接近していた敵二名ほどに向け連射。なんとかお帰り頂くと、覚悟を決め、低木の中にM40A5を置き、FN 5-7一挺だけで前線へ単身突撃します。

 チームメンバーにガンスリンガーやバーサーカーとたまに言われるこの突撃は、いきなりで横か地面か分かりませんが、とにかく強烈な閃光と衝撃で、失敗に終わりました。
 その衝撃を受け、身長の割には低体重の私は、土や植物と一緒に吹き飛ばされました。
 大きく弧を描きながら空中で、横三回転を決めた後、ゴロゴロと地面を転がり、木に打ち付けられて止まりました。
 目の前にいた敵は、咄嗟に私に銃を向けましたが、撃とうとはしません。
 逆に銃を力なく落とし、真っ青な顔をしてどこかにいって行ってしまいました。

 一瞬の出来事に何が何だか分からず、状況を確認する為にも、立ち上がろうとしましたが、体を動かしたくても動きません。

「う……うぅ……」

 強烈な痛みに思わず呻き、息を吸えば、口の中から鉄の様な匂いが、鼻をつきます。痛みは、足から手までほぼ全身に広がっていて、何処に傷を負ったのか分からず、次第に意識が朦朧としていきました。
 ああ、これが死なのか……。そう確信した私は、16年と少しの歳月の記憶を少しずつ思い出してしまいました。
 音を聞きつけ駆けつけた味方が、肩を叩き自分の名前を大声で叫ぶ様子を、焦点が定まらず、ぼやける視界に捉えたまま、記憶の糸はテレビを切ったときのようにプツリと途絶れたのです。

 ──────

「ん……んん……」

 目が覚めると、私は脂汗でびっしょりの状態で、ハンモックの上で寝ていました。
 野営の為、モンスターに見つからないようにと、木に絡ませたカモフラージュネット。その合間から、陽の光が差し込み、下着姿の彼女の体を照らします。
 懐かしい、現実世界の最期の記憶です。

「あ、起きられた様ですね。黒恵様、おはようございます」

 ちょうど、カモフラージュネットの外から望遠鏡を片手に持ち、迷彩柄の戦闘服を着た、狼耳の女の子がやって来ました。
 彼女は獣人族の一つ、狼族でも珍しい白狼族で、頭には獣耳、お尻の少し上の尾てい骨部分からは、銀色の尻尾が生えています。
 耳や尻尾に限らず、セミロングの髪1本まで、銀色をしていて、とても綺麗です。
 彼女は、私が約二年前に異世界に転生して、初めて出会った仲間。名をルーアといいます。

「うー……おはよう。ルーア」

 中途半端にズレた下着を直し、目を右手で擦り、左腕で伸びをしながら、ルーアに答えます。

「はい!おはようございます!朝食の準備をしますね!」

 そう言って、ルーアは朝食の準備をする為に、外に出ていきました。
 私自身も、ハンモックから降りて、身支度を始めます。
 アメリカ陸軍の迷彩服。ACUの、OCPパターンを使用した戦闘服に袖を通し、ベルトキットを腰に付け、後に着る装備や武器を持って、カモフラージュネットの外に出ました。
 その後に、永く語られる、私たち軍団レギオンの元へと。
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