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【番外編】君がいたから
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「その後もしばらくは、護衛も兼ねておりましたのでドレスは控えておりましたが、イウリス様も安心できるくらいにはお強くなりましたので」
「きっと素敵だったでしょうね、ぜひ見てみたかったです」
「まだ時々は鍛錬に混ざっているから、見る機会もあると思うぞ」
イウリスの言葉に、エウジェが肘で脇腹を小突く。
「見に行ったらご迷惑ですか?」
メイナに聞かれてエウジェが、うっと言葉に詰まる。それから、ふうっと一つ息を吐いて頷いた。
「次の時には、お声がけいたします」
「ありがとうございます!」
無邪気に喜ぶメイナ。そこに遠くから声が届く。
「メイ!」
「ルル、鍛錬は終わったの?」
駆け寄り、メイナの隣に腰を下ろすルルタ。
「今日は、皆、気合が入っていてね、早く終わったんだ」
笑顔のルルタに、イウリスは騎士達の気遣いを思う。
早くメイナの元に行きたいというルルタの気持ち、闘気というか殺気というか、を汲んでくれたんだろう。
「美味しそうな焼き菓子だね! 慌てて来ちゃったから手が汚れてるんだ、良かったら食べさせて欲しいな」
そのルルタの言葉に、メイナはふわりと頬を染める。
「え、だって、イウリス殿下もエウジェ様も居るのに?」
メイナがそう言いつつちらりと見ると、二人揃って『見てないですよ』とばかりに、そっぽを向いてくれる。
「鍛錬の後だから、甘いものが欲しいんだよね、駄目?」
甘える様なルルタの声に、メイナが勝てるはずもなく。
「は、はい、どうぞ」
メイナは請われるままに、切り分けた焼き菓子をルルタの口に運ぶ。「ありがとう、美味しいよ」
「ぅ」
向かいから聞こえた小さな呻き声にメイナは目を向ける。
その声は、メイナとルルタが揃っている時にイウリスとエウジェの方から時々聞こえる。気を悪くしたのではないかと思い、メイナは目を伏せた。
「品のない行為でした、次からは慎みます……」
「いいえ! いいえメイナ様。ご存じないことかと思いますが、王族の間では普通に愛情表現として行われているのです」
「そうだぞ、な、ルルタ!」
「そうですね」
そう言われて、メイナは目を丸くする。
「そう、なのですか」
三人揃って頷いた。
「だから、ね、もう一口」
ルルタにねだられて、メイナは恥ずかしいなと思いながらも、普通の事ならと次の一口を差し出した。
仲睦まじいルルタとメイナを微笑ましく眺めながら、イウリスがエウジェにだけ聞こえる様に囁く。
「これからもずっと最愛の妃で、友で、師匠だ」
その言葉に、エウジェは優しい声で返す。
「私にとっても殿下は、最愛の方ですよ」
そう言い、エウジェは品良く微笑んだ。
真っ先に自分を『綺麗』と言ってくれた人。エウジェにとっては、イウリスは誰よりも素敵な王子様だったから。
「ずっと、最初から……」
そうエウジェが付け足すと、イウリスはテーブルの下のエウジェの指にそっと指を絡めた。
「きっと素敵だったでしょうね、ぜひ見てみたかったです」
「まだ時々は鍛錬に混ざっているから、見る機会もあると思うぞ」
イウリスの言葉に、エウジェが肘で脇腹を小突く。
「見に行ったらご迷惑ですか?」
メイナに聞かれてエウジェが、うっと言葉に詰まる。それから、ふうっと一つ息を吐いて頷いた。
「次の時には、お声がけいたします」
「ありがとうございます!」
無邪気に喜ぶメイナ。そこに遠くから声が届く。
「メイ!」
「ルル、鍛錬は終わったの?」
駆け寄り、メイナの隣に腰を下ろすルルタ。
「今日は、皆、気合が入っていてね、早く終わったんだ」
笑顔のルルタに、イウリスは騎士達の気遣いを思う。
早くメイナの元に行きたいというルルタの気持ち、闘気というか殺気というか、を汲んでくれたんだろう。
「美味しそうな焼き菓子だね! 慌てて来ちゃったから手が汚れてるんだ、良かったら食べさせて欲しいな」
そのルルタの言葉に、メイナはふわりと頬を染める。
「え、だって、イウリス殿下もエウジェ様も居るのに?」
メイナがそう言いつつちらりと見ると、二人揃って『見てないですよ』とばかりに、そっぽを向いてくれる。
「鍛錬の後だから、甘いものが欲しいんだよね、駄目?」
甘える様なルルタの声に、メイナが勝てるはずもなく。
「は、はい、どうぞ」
メイナは請われるままに、切り分けた焼き菓子をルルタの口に運ぶ。「ありがとう、美味しいよ」
「ぅ」
向かいから聞こえた小さな呻き声にメイナは目を向ける。
その声は、メイナとルルタが揃っている時にイウリスとエウジェの方から時々聞こえる。気を悪くしたのではないかと思い、メイナは目を伏せた。
「品のない行為でした、次からは慎みます……」
「いいえ! いいえメイナ様。ご存じないことかと思いますが、王族の間では普通に愛情表現として行われているのです」
「そうだぞ、な、ルルタ!」
「そうですね」
そう言われて、メイナは目を丸くする。
「そう、なのですか」
三人揃って頷いた。
「だから、ね、もう一口」
ルルタにねだられて、メイナは恥ずかしいなと思いながらも、普通の事ならと次の一口を差し出した。
仲睦まじいルルタとメイナを微笑ましく眺めながら、イウリスがエウジェにだけ聞こえる様に囁く。
「これからもずっと最愛の妃で、友で、師匠だ」
その言葉に、エウジェは優しい声で返す。
「私にとっても殿下は、最愛の方ですよ」
そう言い、エウジェは品良く微笑んだ。
真っ先に自分を『綺麗』と言ってくれた人。エウジェにとっては、イウリスは誰よりも素敵な王子様だったから。
「ずっと、最初から……」
そうエウジェが付け足すと、イウリスはテーブルの下のエウジェの指にそっと指を絡めた。
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