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第十五章 真っ暗聖女と白く輝く結婚を
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ゆっくりゆっくりと進む先、聖堂の中には、見知った顔が並んでいる。
イウリスとエウジェルム、国王陛下と神官長、そうして今回の結婚式により恩赦を受け、後々は私の側付きに戻る事が決まったラウミと、村の代表として立っているカルス。
そこに前聖女ケイナーンことケイの姿がないのが残念だった。
ケイはあの騒動の中で、弱った体であったのに、イウリスとエウジェの元から姿を消してしまったと聞く。封印が緩んでいることに気づかず、みすみす魔女をのさばらせた事を気に病んだのだろうと二人には言われた……。
村には養い親だと思える人はたくさんいたけれど、その中でも一番私を大事にしてくれた人。
何処かで生き延びていてくれたらと、望むのは酷だろうか。
顔を上げる。正面で仄かに白く輝く女神像が私たちを迎えてくれた。
なかなか回復しないのか、あれから今日まで神域に私が喚ばれることは無かった。
大陸の魔力の巡りは滞りがない事から、もしかしたら回復のためにしばらく眠っているだけなのかもしれないとも思う。
神の時間と人の時間は等しくは無い。もしかしたら、私が生きている内には、もうお会いすることもないのかもしれない。
神官長が私達二人に祝福の言葉を授けてくれる。
私は、サイン一つで結婚を済ませたあの日を、まるで遠い事のように思い出す。それから、小さな頃のウルとした拙いけれど大切な約束も。
向かい合い手を取り合う。誓いの口づけはできない代わりに、ルルタが私の額に唇で触れる。
幸せで胸が一杯になる。ほんの少し、涙として溢れてしまうくらいに。
振り返ると、聖堂の外には騎士達の姿も。
魔物溢れの対処に出た中、聖騎士は誰も欠けずに戻ってきた。彼らが普段の訓練の賜物だと胸を張っていたと聞き、私はそんな彼らとルルタを誇らしく思った。
この後は聖堂を出て、馬車で城下をぐるりと巡る。少し前まではこの姿で王子妃なんてと思っていたけれど、民に愛される『真っ暗聖女』として、私も胸を張って行こうと思う。
手に手を取って歩き出す。神殿の天窓から差し込む光が、まるで祝福するように私達の周りをキラキラ踊る。
それは、一生忘れえない美しい光景だった。
私の中に居る『魔女』ケイナーンも、この光景を見ているだろうか。
詳しいことはわからないけれど、百年ケイの中に閉じ込められ、今度は私の中から出られない。起こした騒動は決して許されることではないけれど、でもどうしたってここから先、誰よりも一緒なのだから、幸せなのも綺麗だと思うのも楽しいと感じるのも、一緒に分かち合えるといい。そんなふうに思った。
『馬鹿ね、とんだお人好しだわ、この娘』
呆れたような声がした。
『こんな居心地の悪い体に留まるなんて、嫌よ。それなら連れて行って』
辺りを見回す。誰にもこの声は聞こえていない様だった。
『ほら、私と一緒の方が気が楽だっただろう?』
次の声はケイ。こちらも誰にも聞こえていない。私だけが不思議そうな顔で辺りを見るばかり。
「どうしたの、メイ?」
私は説明に困って、先ほどまで正面に立っていた女神像を振り返る。
「あっ!」
私の声に、ルルタも同じ様に女神像をふり仰ぎ、揃って声を失った。
いつの前にか、女神像の両脇には、二人の女性の彫像が寄り添うに現れていた……。
イウリスとエウジェルム、国王陛下と神官長、そうして今回の結婚式により恩赦を受け、後々は私の側付きに戻る事が決まったラウミと、村の代表として立っているカルス。
そこに前聖女ケイナーンことケイの姿がないのが残念だった。
ケイはあの騒動の中で、弱った体であったのに、イウリスとエウジェの元から姿を消してしまったと聞く。封印が緩んでいることに気づかず、みすみす魔女をのさばらせた事を気に病んだのだろうと二人には言われた……。
村には養い親だと思える人はたくさんいたけれど、その中でも一番私を大事にしてくれた人。
何処かで生き延びていてくれたらと、望むのは酷だろうか。
顔を上げる。正面で仄かに白く輝く女神像が私たちを迎えてくれた。
なかなか回復しないのか、あれから今日まで神域に私が喚ばれることは無かった。
大陸の魔力の巡りは滞りがない事から、もしかしたら回復のためにしばらく眠っているだけなのかもしれないとも思う。
神の時間と人の時間は等しくは無い。もしかしたら、私が生きている内には、もうお会いすることもないのかもしれない。
神官長が私達二人に祝福の言葉を授けてくれる。
私は、サイン一つで結婚を済ませたあの日を、まるで遠い事のように思い出す。それから、小さな頃のウルとした拙いけれど大切な約束も。
向かい合い手を取り合う。誓いの口づけはできない代わりに、ルルタが私の額に唇で触れる。
幸せで胸が一杯になる。ほんの少し、涙として溢れてしまうくらいに。
振り返ると、聖堂の外には騎士達の姿も。
魔物溢れの対処に出た中、聖騎士は誰も欠けずに戻ってきた。彼らが普段の訓練の賜物だと胸を張っていたと聞き、私はそんな彼らとルルタを誇らしく思った。
この後は聖堂を出て、馬車で城下をぐるりと巡る。少し前まではこの姿で王子妃なんてと思っていたけれど、民に愛される『真っ暗聖女』として、私も胸を張って行こうと思う。
手に手を取って歩き出す。神殿の天窓から差し込む光が、まるで祝福するように私達の周りをキラキラ踊る。
それは、一生忘れえない美しい光景だった。
私の中に居る『魔女』ケイナーンも、この光景を見ているだろうか。
詳しいことはわからないけれど、百年ケイの中に閉じ込められ、今度は私の中から出られない。起こした騒動は決して許されることではないけれど、でもどうしたってここから先、誰よりも一緒なのだから、幸せなのも綺麗だと思うのも楽しいと感じるのも、一緒に分かち合えるといい。そんなふうに思った。
『馬鹿ね、とんだお人好しだわ、この娘』
呆れたような声がした。
『こんな居心地の悪い体に留まるなんて、嫌よ。それなら連れて行って』
辺りを見回す。誰にもこの声は聞こえていない様だった。
『ほら、私と一緒の方が気が楽だっただろう?』
次の声はケイ。こちらも誰にも聞こえていない。私だけが不思議そうな顔で辺りを見るばかり。
「どうしたの、メイ?」
私は説明に困って、先ほどまで正面に立っていた女神像を振り返る。
「あっ!」
私の声に、ルルタも同じ様に女神像をふり仰ぎ、揃って声を失った。
いつの前にか、女神像の両脇には、二人の女性の彫像が寄り添うに現れていた……。
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