上 下
61 / 72
第十五章 真っ暗聖女と白く輝く結婚を

2

しおりを挟む
 ゆっくりゆっくりと進む先、聖堂の中には、見知った顔が並んでいる。

 イウリスとエウジェルム、国王陛下と神官長、そうして今回の結婚式により恩赦を受け、後々は私の側付きに戻る事が決まったラウミと、村の代表として立っているカルス。

 そこに前聖女ケイナーンことケイの姿がないのが残念だった。
 ケイはあの騒動の中で、弱った体であったのに、イウリスとエウジェの元から姿を消してしまったと聞く。封印が緩んでいることに気づかず、みすみす魔女をのさばらせた事を気に病んだのだろうと二人には言われた……。
 村には養い親だと思える人はたくさんいたけれど、その中でも一番私を大事にしてくれた人。
 何処かで生き延びていてくれたらと、望むのは酷だろうか。

 顔を上げる。正面で仄かに白く輝く女神像が私たちを迎えてくれた。

 なかなか回復しないのか、あれから今日まで神域に私が喚ばれることは無かった。
 
 大陸の魔力の巡りは滞りがない事から、もしかしたら回復のためにしばらく眠っているだけなのかもしれないとも思う。
 神の時間と人の時間は等しくは無い。もしかしたら、私が生きている内には、もうお会いすることもないのかもしれない。



 神官長が私達二人に祝福の言葉を授けてくれる。
 私は、サイン一つで結婚を済ませたあの日を、まるで遠い事のように思い出す。それから、小さな頃のウルとした拙いけれど大切な約束も。

 向かい合い手を取り合う。誓いの口づけはできない代わりに、ルルタが私の額に唇で触れる。

 幸せで胸が一杯になる。ほんの少し、涙として溢れてしまうくらいに。

 振り返ると、聖堂の外には騎士達の姿も。
 魔物溢れの対処に出た中、聖騎士は誰も欠けずに戻ってきた。彼らが普段の訓練の賜物だと胸を張っていたと聞き、私はそんな彼らとルルタを誇らしく思った。
 
 この後は聖堂を出て、馬車で城下をぐるりと巡る。少し前まではこの姿で王子妃なんてと思っていたけれど、民に愛される『真っ暗聖女』として、私も胸を張って行こうと思う。

 手に手を取って歩き出す。神殿の天窓から差し込む光が、まるで祝福するように私達の周りをキラキラ踊る。

 それは、一生忘れえない美しい光景だった。

 私の中に居る『魔女』ケイナーンも、この光景を見ているだろうか。
 詳しいことはわからないけれど、百年ケイの中に閉じ込められ、今度は私の中から出られない。起こした騒動は決して許されることではないけれど、でもどうしたってここから先、誰よりも一緒なのだから、幸せなのも綺麗だと思うのも楽しいと感じるのも、一緒に分かち合えるといい。そんなふうに思った。
 
『馬鹿ね、とんだお人好しだわ、この娘』
 呆れたような声がした。
『こんな居心地の悪い体に留まるなんて、嫌よ。それなら連れて行って』
 辺りを見回す。誰にもこの声は聞こえていない様だった。
『ほら、私と一緒の方が気が楽だっただろう?』
 次の声はケイ。こちらも誰にも聞こえていない。私だけが不思議そうな顔で辺りを見るばかり。

「どうしたの、メイ?」
 私は説明に困って、先ほどまで正面に立っていた女神像を振り返る。
 
「あっ!」
 私の声に、ルルタも同じ様に女神像をふり仰ぎ、揃って声を失った。

 いつの前にか、女神像の両脇には、二人の女性の彫像が寄り添うに現れていた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。 政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。 まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。 私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡ 【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】 恋愛要素の強いファンタジーです。 初投稿です。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...