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第十四章 女神と魔女

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 真剣な顔で、ルルタは私の手を取ってそう言ってくれた。

「ふふっ」
 私は笑う。ああ、どうやったら伝わるんだろう。どんな言葉よりも嬉しいだなんて。
「これから先、ずっと私にも見えない私を、代わりに見ていてくれる?」
「もちろん、喜んで」
 ルルタは答えると、私の指先に唇を落とす。それから手の甲に、掌に、手首に。
 そうやって少しずつ、私自身が私の形を忘れないようにとでもいうように唇で辿る。

 伝わる気持ちで私は胸がいっぱいになる。

「どうあっても、僕の方に君を手放すつもりが無いって事、忘れないで」
 私は返す言葉を選べずに、何度も頷く。
 それから、気持ちを入れ替える様に大きく深呼吸。

「院長、もう大丈夫です!」

 両手を大きく振りながら壁際のカルスに声をかける。
「よし、じゃあやるか!」

 殊更明るい声を返し、カルスが駆け寄ってくると、先ほどとは違う色の瓶を取り出し、今度は私に中身を景気良く振り掛けた。
 その勢いに思わず身を竦める。

「これで、今度はメイナだけが見えている状態だ。あからさまな罠だと思うだろうが、向こうにだって時間はないはずだ。出てこないわけにもいかない。怖いだろうが、出てきたら魔女のなすがままに任せるんだ」
 カルスの言葉を聞きながら、ルルタは渋々私から距離を取り、聖堂に並ぶ椅子の後ろに身を隠した。

 私はどうしていれば良いのかがわからず、とりあえずいつも聖堂に居る時と同じ様に、祈る姿勢をとる。

 私は餌、美味しい餌だ。どうか食いついて……。

 しばらくそうしてじっとしていると、女神像の辺りの空間に小さな穴が開いた。
 初めは黒い煙が立ち上った様に見え、それがやがて手足を形取り、次に長い髪がゆらりと揺れた。

 現れた魔女ケイナーンは首を傾げた。
「なあに、あなたもう逃げないの?」
 優雅に私に手を伸ばす。探る様に私の頬を撫でた。

「……何か企んでいるんでしょう? でも」
「ああっ」
 ずぶり。魔女ケイナーンの指が私の胸に沈む。氷のような冷たさがそこから広がって、酷く気持ちが悪い。
 奥歯を噛み締めて私はそれに耐える。
「貴女の中に入ってしまえば、どうにでもなるわ」
 勝ち誇った様な魔女ケイナーンの声。

 冷たくて苦しくて、私は小さな頃に川に落ちた時を思い出していた。あの水の冷たさと、息苦しさと、心細さ。

 私の中に全て受け入れるまでが、ただ、長く感じられた。
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