上 下
50 / 72
第十三章 聖女と魔女

4

しおりを挟む
 ケイが次に目を開けた時に見たのは、えらく美形揃いの男性たちだった。
「聖女様! 目が覚めたのですね!」
「3日も高い熱が続いて、心配いたしました!」
 
 あの女神やってくれたなと思う中で、ケイは次々声をかけられながら、とりあえず記憶喪失を装った。聖女の従者だという男性達は皆、ケイを心配し、言うままに何でも揃えてくれたのでその間に情報収集を続けた。

 ケイが代わりになったこの少女は、ケイナーンという名だった。
 ロウデル伯爵家の末娘にして、魔力が高く、美しく、我儘なご令嬢。
 彼女の魂がどこへ消えたのかは知らない。知ればケイが気に病むと思ったのだろう、シアは教えてくれなかった。

 ケイナーンは、隣国の王子に振られたことになっていた。けれど、女神の力なのか魔女になり世界を滅亡させかけたことについては無かった事にされて、ちゃんと聖女のままだった。何が原因なのか、後方から常に光が差すという謎仕様だったのは正直参ったけど。

 少しして聖堂でシアの分身体と再び話しをした時には、まあ、めちゃくちゃに謝られた。謝られたからと言って何も変わらないので、とりあえず何が起きていて、どう事態を収集するべきかを話し合った。
 聖女というのは、女神シウナクシアの魔力と親和性が高く、人の身でもその力の一端を宿せる者。大陸を旅しながら、魔力の澱みを浄化して回るのが仕事だという。

「うーん、なんか効率が悪い気がする」
 ケイは、今のイケメンをゾロゾロ連れた諸国漫遊スタイルにいまいち納得がいかなかった。
「現場を知るのは悪いことじゃ無いんだけど、何年もかけて対処しているうちに、最初に回った地域ではまた魔力が滞ってって、無限ループじゃない?」
『でも、ずっとこうして来たのよ?』
「この大陸はシアの体から出来てるんでしょ? だとしたら、魔力の滞りってシアの体の歪みのせいなんじゃないの?」

 馬鹿みたいな思いつきだな、とその時は思った。でもケイはその思いつきを一度試してみることにした。

「はい、じゃあ背中から押しますね」
『え、ちょっと、いた、痛いわっ』
 身を捩り逃げようとするシアを捕まえて、ケイはゆっくり、ゆっくりとシアの分身体を揉みほぐした。最初は指が入らなかった肩も、何度か繰り返すうちに柔らかくほぐれていった。
 内に入り込んでいた肩を広げ、関節の可動域をぐぐっと伸ばし、首の辺りの緊張を緩めながら、ケイは今まで覚えた全部で、シアの体を整えた。

『嘘、魔力の巡りが整って、大地が浄化されてる……しかもすっごく体が軽いわ!』
 嬉しそうに笑うシアに、ケイナはなんだか達成感と充足感でいっぱいだった。学んだこと、頑張ったことは無駄じゃなかったって、そう思えて。

 それからは、取り巻きを徐々に減らして、聖堂に籠る様になった。現地にいかなくてもちゃんとお役目が果たせるんだと証明してから、シアから神官にも神託を下してもらって、聖女のお役目は変わることになった。
 過去の文献から、今までの方法は消した。あんな手間のかかる事を後世に残してもなと思ったから。

 方法がよほどに合っていたのか、一年程度でうまく大陸の浄化が終わり力を返したら、後ろから光が刺す不具合も消えた。そして女神はケイの望み『長寿』を叶えると、長い眠りについた。

 そしてケイはたった一人だけ最後まで残っていてくれた、この国の第二王子と結婚し、子供が産まれ、孫ができて、夫を看取り……いつの間にかこちらの世界にいる時間が、前の世界を超えてしまった。

 流れる走馬灯を見ながら呟く。

「罰が当たったのかもしれないね」
 ケイは、ずっと自分が入れ替わった魂のことを思い出さなかった。思い出さない様にしていた。

 自分の中に存在があることを知らないわけでは無かったのに。
 彼女はずっとケイを通して世界を見ていたんだろう。……自分の人生が奪われる様を見続けるのは、どれだけ辛いことだっただろうか。

 だけど、その責を負うのは、ケイと女神シウナクシアだ。メイナではない。

 ケイはだから、自分を誘う鮮やかな思い出に背を向ける。

 シアに、女神シウナクシアのもとへ行かなくては。

ただ、一心にそう思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。 政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。 まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。 私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡ 【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】 恋愛要素の強いファンタジーです。 初投稿です。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】討伐対象の魔王が可愛い幼子だったので魔界に残ってお世話します!〜力を搾取され続けた聖女は幼子魔王を溺愛し、やがて溺愛される〜

水都 ミナト
ファンタジー
不本意ながら聖女を務めていたアリエッタは、国王の勅命を受けて勇者と共に魔界に乗り込んだ。 そして対面した討伐対象である魔王は――とても可愛い幼子だった。 え?あの可愛い少年を倒せとおっしゃる? 無理無理!私には無理! 人間界では常人離れした力を利用され、搾取され続けてきたアリエッタは、魔王討伐の暁には国を出ることを考えていた。 え?じゃあ魔界に残っても一緒じゃない? 可愛い魔王様のお世話をして毎日幸せな日々を送るなんて最高では? というわけで、あっさり勇者一行を人間界に転移魔法で送り返し、厳重な結界を張ったアリエッタは、なんやかんやあって晴れて魔王ルイスの教育係を拝命する。 魔界を統べる王たるべく日々勉学に励み、幼いながらに威厳を保とうと頑張るルイスを愛でに愛でつつ、彼の家臣らと共にのんびり平和な魔界ライフを満喫するアリエッタ。 だがしかし、魔王は魔界の王。 人間とは比べ物にならない早さで成長し、成人を迎えるルイス。 徐々に少年から男の人へと成長するルイスに戸惑い、翻弄されつつも側で支え続けるアリエッタ。 確かな信頼関係を築きながらも変わりゆく二人の関係。 あれ、いつの間にか溺愛していたルイスから、溺愛され始めている…? ちょっと待って!この溺愛は想定外なのですが…! ぐんぐん成長するルイスに翻弄されたり、諦めの悪い勇者がアリエッタを取り戻すべく魔界に乗り込もうとしてきたり、アリエッタのウキウキ魔界生活は前途多難! ◇ほのぼの魔界生活となっております。 ◇創造神:作者によるファンタジー作品です。 ◇アリエッタの頭の中は割とうるさいです。一緒に騒いでください。 ◇小説家になろう様でも公開中 ◇第16回ファンタジー小説大賞で32位でした!ありがとうございました!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

処理中です...