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第十一章 真っ暗聖女、聖女の騎士
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唇が触れ合っていた。
最初は何が何だかわからなかったけど、触れ合う唇が熱くて、自分の身に起きている事が直ぐにわかった。
イウリスもエウジェも居るのにと、私は慌てて体を離そうとするがルルタの手がそれをさせてくれない。
どうしよう、混乱して息の仕方がわからない。
私は苦しくなってルルタの胸を叩く。それでようやく顔を離してくれた。
一生懸命に息を吸って、吐いて。それから真っ赤になっているだろう顔を両手で押さえてから私は気づいた。
「あれ……なんで、見えるはずがないのに唇の位置がわかったんですか?」
私の問いに、ルルタが笑う。
「だって、僕にはずっとメイの顔が見えてたからね」
あっさりそう言われて、私は動きが止まった。
「な、なんで黙ってたんですか!」
「ごめんね、僕だけにしかメイの顔が見えないのが嬉しくて、つい」
今まで見えていないと思っていたあんな顔もこんな顔も全部見られていたんだと思うと、私は頭を抱えて座り込みたくなった。
「でも、僕だけで独り占めも、もう終わりだね」
ルルタは私の手を取った。手の甲の『聖女の証』が今まで以上に強く光っていた。でもそれ以上に大きな変化があった。
「私の手が、見える」
「こちらをどうぞ」
横からスッと、エウジェが美しい細工の手鏡を差し出してきた。私は、恐る恐る鏡面を覗き込む。
私が片手で自分の顔に触れてみると鏡に映る姿も同じ動作をした。
「私、こんな顔をしてたんだ……」
治癒術士として動き回る為に自分で短く切って整えていた髪。ほんのりと頬に赤みの差す白い肌、木の実の様にころんと丸い瞳。何処か他人みたいで、何処か見覚えのある顔。
「急に、どうして?」
ルルタの口付けがきっかけだとは思うけど、何故そうなったのかが分からない。
「メイの中に、加護が完全な形で戻ったから」
「え? 『光に愛される』加護ならずっとありましたよ」
私の言葉に首を振るルルタ。
「女神の加護があれば本来、光の魔力を大地から受けて、それを浄化にも治癒にも使える。しかも普通の治癒術士や神官の何倍も強い力をね」
「でも私の治癒の力は人並みで、まして浄化なんて使えた事がないです」
「そう。メイには、加護が半分しか無かったんだ。で、残りの半分は僕の所にあった」
予想もしていなかったルルタの言葉に、私は驚き目を見開く。
「だから僕はシウナクシア神に願ったんだ」
ルルタは跪き、私の手を掬い上げると、自分の額に押し当てる。
この国では騎士の誓いを示す姿だった。
「どうしても必要になる時が来るまでは、この力は僕が預かるから、メイを守らせてほしいって」
そう言い見上げるルルタの瞳。
そこにはもう光が疾る事は無く、それでも目を離せなくなるような美しい色をしていた。
最初は何が何だかわからなかったけど、触れ合う唇が熱くて、自分の身に起きている事が直ぐにわかった。
イウリスもエウジェも居るのにと、私は慌てて体を離そうとするがルルタの手がそれをさせてくれない。
どうしよう、混乱して息の仕方がわからない。
私は苦しくなってルルタの胸を叩く。それでようやく顔を離してくれた。
一生懸命に息を吸って、吐いて。それから真っ赤になっているだろう顔を両手で押さえてから私は気づいた。
「あれ……なんで、見えるはずがないのに唇の位置がわかったんですか?」
私の問いに、ルルタが笑う。
「だって、僕にはずっとメイの顔が見えてたからね」
あっさりそう言われて、私は動きが止まった。
「な、なんで黙ってたんですか!」
「ごめんね、僕だけにしかメイの顔が見えないのが嬉しくて、つい」
今まで見えていないと思っていたあんな顔もこんな顔も全部見られていたんだと思うと、私は頭を抱えて座り込みたくなった。
「でも、僕だけで独り占めも、もう終わりだね」
ルルタは私の手を取った。手の甲の『聖女の証』が今まで以上に強く光っていた。でもそれ以上に大きな変化があった。
「私の手が、見える」
「こちらをどうぞ」
横からスッと、エウジェが美しい細工の手鏡を差し出してきた。私は、恐る恐る鏡面を覗き込む。
私が片手で自分の顔に触れてみると鏡に映る姿も同じ動作をした。
「私、こんな顔をしてたんだ……」
治癒術士として動き回る為に自分で短く切って整えていた髪。ほんのりと頬に赤みの差す白い肌、木の実の様にころんと丸い瞳。何処か他人みたいで、何処か見覚えのある顔。
「急に、どうして?」
ルルタの口付けがきっかけだとは思うけど、何故そうなったのかが分からない。
「メイの中に、加護が完全な形で戻ったから」
「え? 『光に愛される』加護ならずっとありましたよ」
私の言葉に首を振るルルタ。
「女神の加護があれば本来、光の魔力を大地から受けて、それを浄化にも治癒にも使える。しかも普通の治癒術士や神官の何倍も強い力をね」
「でも私の治癒の力は人並みで、まして浄化なんて使えた事がないです」
「そう。メイには、加護が半分しか無かったんだ。で、残りの半分は僕の所にあった」
予想もしていなかったルルタの言葉に、私は驚き目を見開く。
「だから僕はシウナクシア神に願ったんだ」
ルルタは跪き、私の手を掬い上げると、自分の額に押し当てる。
この国では騎士の誓いを示す姿だった。
「どうしても必要になる時が来るまでは、この力は僕が預かるから、メイを守らせてほしいって」
そう言い見上げるルルタの瞳。
そこにはもう光が疾る事は無く、それでも目を離せなくなるような美しい色をしていた。
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