上 下
40 / 72
第十一章 真っ暗聖女、聖女の騎士

5

しおりを挟む
 唇が触れ合っていた。

 最初は何が何だかわからなかったけど、触れ合う唇が熱くて、自分の身に起きている事が直ぐにわかった。
 イウリスもエウジェも居るのにと、私は慌てて体を離そうとするがルルタの手がそれをさせてくれない。

 どうしよう、混乱して息の仕方がわからない。
 私は苦しくなってルルタの胸を叩く。それでようやく顔を離してくれた。

 一生懸命に息を吸って、吐いて。それから真っ赤になっているだろう顔を両手で押さえてから私は気づいた。
「あれ……なんで、見えるはずがないのに唇の位置がわかったんですか?」
 私の問いに、ルルタが笑う。
「だって、僕にはずっとメイの顔が見えてたからね」
 あっさりそう言われて、私は動きが止まった。

「な、なんで黙ってたんですか!」
「ごめんね、僕だけにしかメイの顔が見えないのが嬉しくて、つい」
 今まで見えていないと思っていたあんな顔もこんな顔も全部見られていたんだと思うと、私は頭を抱えて座り込みたくなった。

「でも、僕だけで独り占めも、もう終わりだね」
 ルルタは私の手を取った。手の甲の『聖女の証』が今まで以上に強く光っていた。でもそれ以上に大きな変化があった。
「私の手が、見える」

「こちらをどうぞ」
 横からスッと、エウジェが美しい細工の手鏡を差し出してきた。私は、恐る恐る鏡面を覗き込む。
 私が片手で自分の顔に触れてみると鏡に映る姿も同じ動作をした。
「私、こんな顔をしてたんだ……」
 治癒術士として動き回る為に自分で短く切って整えていた髪。ほんのりと頬に赤みの差す白い肌、木の実の様にころんと丸い瞳。何処か他人みたいで、何処か見覚えのある顔。

「急に、どうして?」
 ルルタの口付けがきっかけだとは思うけど、何故そうなったのかが分からない。
「メイの中に、加護が完全な形で戻ったから」
「え? 『光に愛される』加護ならずっとありましたよ」
 私の言葉に首を振るルルタ。
「女神の加護があれば本来、光の魔力を大地から受けて、それを浄化にも治癒にも使える。しかも普通の治癒術士や神官の何倍も強い力をね」
「でも私の治癒の力は人並みで、まして浄化なんて使えた事がないです」

「そう。メイには、加護が半分しか無かったんだ。で、残りの半分は僕の所にあった」
 予想もしていなかったルルタの言葉に、私は驚き目を見開く。
「だから僕はシウナクシア神に願ったんだ」
 ルルタは跪き、私の手を掬い上げると、自分の額に押し当てる。
 この国では騎士の誓いを示す姿だった。

「どうしても必要になる時が来るまでは、この力は僕が預かるから、メイを守らせてほしいって」

 そう言い見上げるルルタの瞳。

 そこにはもう光が疾る事は無く、それでも目を離せなくなるような美しい色をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クそッたレなセかイのナかデ-異世界にもルクハラはあったとさ

社会不適合者
ファンタジー
『異世界は素晴らしいところだ』なんて無責任な台詞、誰が言ったんだ? 元の世界でも虐げられる存在であった肥満体型の羽原木隆一(はばらぎりゅういち)は、そんな現世での生活から逃れたい一心で睡眠薬を大量に服用し、自殺を図った。次の人生は良いモノにしようと夢見て。 が、次の人生として放り出された異世界でも同じような位置づけだった! といった感じでアンチ『異世界物語』というわけではありませんが、少し視点を変えてみました。

三択楼の番人

とかげのしっぽ
ファンタジー
家を飛び出し、桜婆ちゃんの元を訪れた柚子は、不思議な世界へ迷い込む。 職業選択に悩んでいた少女の奇妙で切ない物語。 昔書いたファンタジー小説です。

亜空間魔法の使い方~この魔法、こんな使い方があるんですよ?

いいたか
ファンタジー
「ポーターは戦闘をしない」 これは当たり前のことであった。 しかし、誰もが予想をしなかった。 亜空間魔法にこんな使い方があるなんて! びっくり仰天の追放劇! ドラゴンを単騎で討伐出来るポーターは他に居るのか!? 一方で元パーティメンバーは...? 小説家になろう様、カクヨム様、アルファポリス様、ノベルアップ+様で掲載中。 隔週更新!

平和な異世界で競馬をはじめさせられました!

青井群青
ファンタジー
現代世界で競走馬の牧場従業員であった主人公はある日牧場まるごと異世界に転移してしまう。 転移先は長い戦乱が終わったばかりの平和になった異世界であった。

年上彼女と年下彼氏

naku0519
恋愛
これは彼と私の日常の何気ない会話です。 〰️章設定〰️ くが×ロンチー寸劇:原作。 未:cocomuに投稿されていないお話。 〰️イメージ元〰️ ろんち:@ronchimanzou くが:@kugA_0519_ ーコラボ連動台本ー マーク👉【c】cocomu投稿済み 【コラボ】年上彼女と年下彼氏(♂:1♀:1)|泣クさんの台本 http://cocommu.com/script/2a3182693f98479d9e6b117d761d062a #cocommu #ここみゅ

お姉様、ご自分が婚約破棄されたからと言って私の婚約者を奪わないで下さい

水月 潮
恋愛
シャルロット・ルーキエ公爵令嬢の姉・レジーヌは王太子・ダミアンと婚約しているが、レジーヌが彼の愛するマーシャ・オランド子爵令嬢を虐めたという理由で学園の卒業パーティーで婚約破棄される。 その数日後、両家の話し合いの場が設けられ、ダミアンとレジーヌの婚約は白紙に戻ることになった。 婚約破棄されたレジーヌは、自分にはもうまともな嫁ぎ先がないことを嘆き、ルーキエ公爵家の女当主としてシャルロットの婚約者であるエリック・ミュラ侯爵令息と結婚して、ずっと公爵家にいたいと主張する。 ちょっと待って下さい、お姉様。 ご自分が婚約破棄されたからと言って、私の婚約者を奪わないで下さい!

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」  幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。  ──どころか。 「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」  決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。  この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。

【第一部完結】 龐統だが死んだら、魔法使いになっていた。どうすればいいんだ?

黒幸
キャラ文芸
中国・三国時代に三英傑の一人・劉備玄徳に仕えた軍師がいた。 惜しまれつつもこの世を去ったその者の名は龐統、字は士元。 主君の身代わりを務め、壮絶な死を遂げたはず……だったのに生きていた!? 露出狂変態巨乳女と旅をする羽目になった龐統の明日はどっちだ?

処理中です...