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第十一章 真っ暗聖女、聖女の騎士

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 ウルの世界は、いつでも真っ暗だった。

 強い痛みに呻きながら苦しむ自分を、ウルはまるで他人事の様に遠く感じていた。
 痛くて、苦しくて、目が開けられない。真っ暗な世界。

 でも、世界はいつだって真っ暗で辛いから、じゃあ、何にも変わらないじゃないかとウルは思った。
 
 その日、いつものように各地の魔物を斃しながら辺境の村へと向かった所で、ウルは岩蛇の吐く毒を浴びたのだ。
 同行していたのは少ない金で依頼を受けている冒険者ばかりで、自分の身体が商売道具の彼らが当然身を挺してまで庇ってくれることはない。

「岩蛇の毒を目に受けてしまったのです、どんな手段を使ってもいい、どうか治療を!」
 
 近くの村の治療院まで担ぎ込んで、そんな風に懸命に訴えてくれる者が居ただけでももう十分だと思った。

 それに目が見えなくなれば、きっと身を削って魔物を斃す様な事は望まれなくなる。

「もういい、一人にして」
 もう全部どうでもいいとウルは思った。この目が見えなくなる事も、自分という存在が誰にも認められなくなる事も。

 その時、痛みを堪える為に自分の肩を掴んでいたウルの手に、暖かな何かが触れた。両手をそっと包み込まれる。
 それは誰かの手だった。多分、治癒術士だろう。
 要らぬ事だと振り払おうとしたけど、触れ合った額越しに暖かさが伝わってきて動きを止めた。
 じんわりと優しく染み込んでくる様な、そんな暖かさだった。それはウルの事を本当に心から癒したいと祈り、願う気持ちでもあった。

 痛みの中でなんとか目を開くと、ぼんやりとだけれど真剣な眼差しが見える。

 そうしてどれだけの時間が経っただろう。絶え間なく注ぎ込まれる治癒の力と優しい祈り。
 緩やかに痛みが引いてきて、ウルは徐々に自分の視界が色を取り戻してきていることに気がついた。

 ああ、光だ。

 ウルはそう思った。真っ暗だった世界が色づいて、輝いて見えた。
 そんな鮮やかに輝く世界の中に、その時、ウルだけの女神が居た。
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