39 / 72
第十一章 真っ暗聖女、聖女の騎士
4
しおりを挟む
ウルの世界は、いつでも真っ暗だった。
強い痛みに呻きながら苦しむ自分を、ウルはまるで他人事の様に遠く感じていた。
痛くて、苦しくて、目が開けられない。真っ暗な世界。
でも、世界はいつだって真っ暗で辛いから、じゃあ、何にも変わらないじゃないかとウルは思った。
その日、いつものように各地の魔物を斃しながら辺境の村へと向かった所で、ウルは岩蛇の吐く毒を浴びたのだ。
同行していたのは少ない金で依頼を受けている冒険者ばかりで、自分の身体が商売道具の彼らが当然身を挺してまで庇ってくれることはない。
「岩蛇の毒を目に受けてしまったのです、どんな手段を使ってもいい、どうか治療を!」
近くの村の治療院まで担ぎ込んで、そんな風に懸命に訴えてくれる者が居ただけでももう十分だと思った。
それに目が見えなくなれば、きっと身を削って魔物を斃す様な事は望まれなくなる。
「もういい、一人にして」
もう全部どうでもいいとウルは思った。この目が見えなくなる事も、自分という存在が誰にも認められなくなる事も。
その時、痛みを堪える為に自分の肩を掴んでいたウルの手に、暖かな何かが触れた。両手をそっと包み込まれる。
それは誰かの手だった。多分、治癒術士だろう。
要らぬ事だと振り払おうとしたけど、触れ合った額越しに暖かさが伝わってきて動きを止めた。
じんわりと優しく染み込んでくる様な、そんな暖かさだった。それはウルの事を本当に心から癒したいと祈り、願う気持ちでもあった。
痛みの中でなんとか目を開くと、ぼんやりとだけれど真剣な眼差しが見える。
そうしてどれだけの時間が経っただろう。絶え間なく注ぎ込まれる治癒の力と優しい祈り。
緩やかに痛みが引いてきて、ウルは徐々に自分の視界が色を取り戻してきていることに気がついた。
ああ、光だ。
ウルはそう思った。真っ暗だった世界が色づいて、輝いて見えた。
そんな鮮やかに輝く世界の中に、その時、ウルだけの女神が居た。
強い痛みに呻きながら苦しむ自分を、ウルはまるで他人事の様に遠く感じていた。
痛くて、苦しくて、目が開けられない。真っ暗な世界。
でも、世界はいつだって真っ暗で辛いから、じゃあ、何にも変わらないじゃないかとウルは思った。
その日、いつものように各地の魔物を斃しながら辺境の村へと向かった所で、ウルは岩蛇の吐く毒を浴びたのだ。
同行していたのは少ない金で依頼を受けている冒険者ばかりで、自分の身体が商売道具の彼らが当然身を挺してまで庇ってくれることはない。
「岩蛇の毒を目に受けてしまったのです、どんな手段を使ってもいい、どうか治療を!」
近くの村の治療院まで担ぎ込んで、そんな風に懸命に訴えてくれる者が居ただけでももう十分だと思った。
それに目が見えなくなれば、きっと身を削って魔物を斃す様な事は望まれなくなる。
「もういい、一人にして」
もう全部どうでもいいとウルは思った。この目が見えなくなる事も、自分という存在が誰にも認められなくなる事も。
その時、痛みを堪える為に自分の肩を掴んでいたウルの手に、暖かな何かが触れた。両手をそっと包み込まれる。
それは誰かの手だった。多分、治癒術士だろう。
要らぬ事だと振り払おうとしたけど、触れ合った額越しに暖かさが伝わってきて動きを止めた。
じんわりと優しく染み込んでくる様な、そんな暖かさだった。それはウルの事を本当に心から癒したいと祈り、願う気持ちでもあった。
痛みの中でなんとか目を開くと、ぼんやりとだけれど真剣な眼差しが見える。
そうしてどれだけの時間が経っただろう。絶え間なく注ぎ込まれる治癒の力と優しい祈り。
緩やかに痛みが引いてきて、ウルは徐々に自分の視界が色を取り戻してきていることに気がついた。
ああ、光だ。
ウルはそう思った。真っ暗だった世界が色づいて、輝いて見えた。
そんな鮮やかに輝く世界の中に、その時、ウルだけの女神が居た。
0
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
クそッたレなセかイのナかデ-異世界にもルクハラはあったとさ
社会不適合者
ファンタジー
『異世界は素晴らしいところだ』なんて無責任な台詞、誰が言ったんだ?
元の世界でも虐げられる存在であった肥満体型の羽原木隆一(はばらぎりゅういち)は、そんな現世での生活から逃れたい一心で睡眠薬を大量に服用し、自殺を図った。次の人生は良いモノにしようと夢見て。
が、次の人生として放り出された異世界でも同じような位置づけだった!
といった感じでアンチ『異世界物語』というわけではありませんが、少し視点を変えてみました。
亜空間魔法の使い方~この魔法、こんな使い方があるんですよ?
いいたか
ファンタジー
「ポーターは戦闘をしない」 これは当たり前のことであった。 しかし、誰もが予想をしなかった。 亜空間魔法にこんな使い方があるなんて!
びっくり仰天の追放劇! ドラゴンを単騎で討伐出来るポーターは他に居るのか!?
一方で元パーティメンバーは...?
小説家になろう様、カクヨム様、アルファポリス様、ノベルアップ+様で掲載中。
隔週更新!
平和な異世界で競馬をはじめさせられました!
青井群青
ファンタジー
現代世界で競走馬の牧場従業員であった主人公はある日牧場まるごと異世界に転移してしまう。
転移先は長い戦乱が終わったばかりの平和になった異世界であった。
年上彼女と年下彼氏
naku0519
恋愛
これは彼と私の日常の何気ない会話です。
〰️章設定〰️
くが×ロンチー寸劇:原作。
未:cocomuに投稿されていないお話。
〰️イメージ元〰️
ろんち:@ronchimanzou
くが:@kugA_0519_
ーコラボ連動台本ー
マーク👉【c】cocomu投稿済み
【コラボ】年上彼女と年下彼氏(♂:1♀:1)|泣クさんの台本
http://cocommu.com/script/2a3182693f98479d9e6b117d761d062a #cocommu #ここみゅ
お姉様、ご自分が婚約破棄されたからと言って私の婚約者を奪わないで下さい
水月 潮
恋愛
シャルロット・ルーキエ公爵令嬢の姉・レジーヌは王太子・ダミアンと婚約しているが、レジーヌが彼の愛するマーシャ・オランド子爵令嬢を虐めたという理由で学園の卒業パーティーで婚約破棄される。
その数日後、両家の話し合いの場が設けられ、ダミアンとレジーヌの婚約は白紙に戻ることになった。
婚約破棄されたレジーヌは、自分にはもうまともな嫁ぎ先がないことを嘆き、ルーキエ公爵家の女当主としてシャルロットの婚約者であるエリック・ミュラ侯爵令息と結婚して、ずっと公爵家にいたいと主張する。
ちょっと待って下さい、お姉様。
ご自分が婚約破棄されたからと言って、私の婚約者を奪わないで下さい!
心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
【第一部完結】 龐統だが死んだら、魔法使いになっていた。どうすればいいんだ?
黒幸
キャラ文芸
中国・三国時代に三英傑の一人・劉備玄徳に仕えた軍師がいた。
惜しまれつつもこの世を去ったその者の名は龐統、字は士元。
主君の身代わりを務め、壮絶な死を遂げたはず……だったのに生きていた!?
露出狂変態巨乳女と旅をする羽目になった龐統の明日はどっちだ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる