上 下
38 / 72
第十一章 真っ暗聖女、聖女の騎士

3

しおりを挟む
「初めまして、聖女メイナ。私はこの粗野な王太子の妃、エウジェルムです」
「は、初めまして、メイナです。お会いできて光栄です」
 私は、ルルタに横抱きにされたままで答える。
 下ろしてもらいたかったが、ルルタが笑顔のまま手を離してくれなかった。
 ……ただただ恥ずかしい。

「光に愛された聖女様にお会いできるなんて、こちらこそ光栄です。そしてルルタ殿下、聖女様を下ろしてくださいな、失礼でしょう」
「嫌だ」
 拗ねた子供の様に言うルルタ。まるで、手放せば盗られてしまうとでも思っているみたいに。

「ルル様……というか、あの……、ウル?」

 私は思い切ってそう声をかけた。瞬間、ルルタは目を見開き、次にイウリスに射抜くような鋭い視線を投げた。
「兄上、何を話しました?」
 ルルタの目の奥で、光がバチバチと弾ける。
「いや、ほら、アレだ……今はこんな所で時間をとっている場合じゃないだろう、な?」
 イウリスがちょっと後ろに下がろうとした所で、いつの間にか背後に回り込んでいたエウジェに捕まる。
「あなた、まさか大事な場面をご自分だけでご覧になったのではありませんよね?」
「ちが、違うぞエウジェ。……ルルタも落ち着け!」
 イウリスは自分の肩に食い込んでくるエウジェの指に、慌てて声を上げた。
 それを横目に、ルルタは私を真っ直ぐに見る。
「ねえメイ、何をどこまで聞いたの?」
「あの、ルル様がウルだって事まで……」

「そこが一番良い所ではございませんか!」
 ギリリっという音がして目をやると、一層強く肩を掴まれたイウリスが鈍い呻き声を噛み殺していた。

「エウジェルム様、なんだかよくわかりませんが、お止めになってください! イウリス殿下の顔が赤黒くなってきていらっしゃいます!」
「聖女様がそう言うのでしたら、仕方ありませんね」
 エウジェはあっさりと手を離し、ため息をついた。イウリスは痛むのだろう肩を撫でながら、それでもエウジェの横顔を見て嬉しそうにしている。

「ごめんね、びっくりしたでしょ?」
 ルルタがそう言って私に微笑みかける。それは初めてルルタと二人きりになった夜にかけてくれた言葉と同じだった。そう思ったら、肩からするっと力が抜けた。

「聞きたい事が沢山あるんです」

 ルルタに、ウルに。

「そうだね、僕も全部片付けて、君と話したい事が沢山あるんだ」
 私を名残惜しそうに腕の中から解放し地面に立たせると、ルルタは私と向かい合う。
 そして、しっかりと私と目を合わせ、

「だからその為に必要な力を君に返すよ。聖女メイナ」
 
 ゆっくりとルルタは私の唇にキスを落とした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クそッたレなセかイのナかデ-異世界にもルクハラはあったとさ

社会不適合者
ファンタジー
『異世界は素晴らしいところだ』なんて無責任な台詞、誰が言ったんだ? 元の世界でも虐げられる存在であった肥満体型の羽原木隆一(はばらぎりゅういち)は、そんな現世での生活から逃れたい一心で睡眠薬を大量に服用し、自殺を図った。次の人生は良いモノにしようと夢見て。 が、次の人生として放り出された異世界でも同じような位置づけだった! といった感じでアンチ『異世界物語』というわけではありませんが、少し視点を変えてみました。

三択楼の番人

とかげのしっぽ
ファンタジー
家を飛び出し、桜婆ちゃんの元を訪れた柚子は、不思議な世界へ迷い込む。 職業選択に悩んでいた少女の奇妙で切ない物語。 昔書いたファンタジー小説です。

亜空間魔法の使い方~この魔法、こんな使い方があるんですよ?

いいたか
ファンタジー
「ポーターは戦闘をしない」 これは当たり前のことであった。 しかし、誰もが予想をしなかった。 亜空間魔法にこんな使い方があるなんて! びっくり仰天の追放劇! ドラゴンを単騎で討伐出来るポーターは他に居るのか!? 一方で元パーティメンバーは...? 小説家になろう様、カクヨム様、アルファポリス様、ノベルアップ+様で掲載中。 隔週更新!

平和な異世界で競馬をはじめさせられました!

青井群青
ファンタジー
現代世界で競走馬の牧場従業員であった主人公はある日牧場まるごと異世界に転移してしまう。 転移先は長い戦乱が終わったばかりの平和になった異世界であった。

年上彼女と年下彼氏

naku0519
恋愛
これは彼と私の日常の何気ない会話です。 〰️章設定〰️ くが×ロンチー寸劇:原作。 未:cocomuに投稿されていないお話。 〰️イメージ元〰️ ろんち:@ronchimanzou くが:@kugA_0519_ ーコラボ連動台本ー マーク👉【c】cocomu投稿済み 【コラボ】年上彼女と年下彼氏(♂:1♀:1)|泣クさんの台本 http://cocommu.com/script/2a3182693f98479d9e6b117d761d062a #cocommu #ここみゅ

お姉様、ご自分が婚約破棄されたからと言って私の婚約者を奪わないで下さい

水月 潮
恋愛
シャルロット・ルーキエ公爵令嬢の姉・レジーヌは王太子・ダミアンと婚約しているが、レジーヌが彼の愛するマーシャ・オランド子爵令嬢を虐めたという理由で学園の卒業パーティーで婚約破棄される。 その数日後、両家の話し合いの場が設けられ、ダミアンとレジーヌの婚約は白紙に戻ることになった。 婚約破棄されたレジーヌは、自分にはもうまともな嫁ぎ先がないことを嘆き、ルーキエ公爵家の女当主としてシャルロットの婚約者であるエリック・ミュラ侯爵令息と結婚して、ずっと公爵家にいたいと主張する。 ちょっと待って下さい、お姉様。 ご自分が婚約破棄されたからと言って、私の婚約者を奪わないで下さい!

心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」  幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。  ──どころか。 「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」  決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。  この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。

【第一部完結】 龐統だが死んだら、魔法使いになっていた。どうすればいいんだ?

黒幸
キャラ文芸
中国・三国時代に三英傑の一人・劉備玄徳に仕えた軍師がいた。 惜しまれつつもこの世を去ったその者の名は龐統、字は士元。 主君の身代わりを務め、壮絶な死を遂げたはず……だったのに生きていた!? 露出狂変態巨乳女と旅をする羽目になった龐統の明日はどっちだ?

処理中です...