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第十章 真っ暗聖女、二人の王子

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 渋々、私はイウリスと黒神官に挟まれて部屋を出る。目隠しも拘束も無いので隙を見て逃げられないかと思ったものの、両側から無言の圧力がかかっていて、身が竦む。

 こんな時に隠された聖女の力が目覚める、なんて事もなく、私は売られてゆく森羊達の気持ちってこんな感じだったのだろうかと、遠くを見た。

 ルルタはもう戻ってきただろう。居なくなっている私に気づいて探してくれているのかな……。
 思い出すのはいつも優しく笑ってたルルタの顔。

 そして、『信じて待ってて』と言ったウルの笑顔と瞳の奥の光。

「ルルタなら来ないぞ」
 私の気持ちを見透かすように、イウリスがこちらに目も向けずに言い捨てる。
「ルル様に何かしたんですか?」
「そうではない。ルルタなら、あの場所から一番近い転移門を使うと考えるだろう。だからそこを避けた。転移に必要な魔力の補充が必要だったのは予想外だったが、コイツが魔法士を連れて来ていたからな、もうすぐ港へ向かえる」
 イウリスは逸る気持ちを抑えつけるように拳を握る。一刻も早く王太子妃の無事な姿を見たいのだろう。

「どのような方なのですか」
 こうなれば焦っても仕方がない。好機が巡るのを待ちつつ私はイウリスに問いかけた。 
「我が妃か、そうだな、まず国中の宝石を集めても敵うことのない輝く瞳、艶やかな白金しろがねの髪、美しいとどれだけ言っても足りぬかんばせ、時に気が強く俺を叱咤する所も良い」
「素敵な方なんですね」
 私の言葉に、
「分かってくれるか! ルルタは自分の女神が1番だと言い張り、俺の言葉など聞いてもくれん」
「女神様ですか」
 そんなに熱心な女神シウナクシアの信者だったのかと感心する私に、イウリスは首を傾げ一言。

「お前のことだろう? ルルタの恩人で初恋の女神というのは。時期が来れば迎えに行けるのだと、俺にも、なんなら婚約者として内定しかかっていたラウミも、そらんじられるほどに聞かされたが?」

 私は思わず足を止める。表情はわからずとも、完全に思考が停止している私の様子を見て、イウリスはあからさまに『やってしまった』という顔になった。

 何か言おうとイウリスが口を開きかけたところで、

「こんな時になにをほのぼのと話しているんです、転移門に着きましたよ」
 黒神官が呆れた顔で遮った。

 これから先に待つもの、この国を飲み込もうとする悪意。
 
 考えないといけない事が山のようにあるのに。
「なんで今そんな事言うんですか……」

 私は泣きそうな声を上げた。
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