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第九章 真っ暗聖女、いつか見た光
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少女はウルと名乗った。
ウルは、各地を回って神官や聖騎士達の手の回らない地域で魔物の対応をする冒険者だった。
だから本当は中々こちらの村まで来ることは出来ないはずなのに、あの日以来、近くまで来たからついでにと言って時々は顔を出してくれるようになった。
私はウルが来ることが楽しみで仕方なかった。
村にも友達と呼べる人はいたし、養護院で一緒に育った仲間や、村の子供達だっていたけれど、ウルはその誰とも違った。
綺麗で、強くて、いろんな事を知っている。
会う度に私が行ったことのない村や、街の話。大陸の端まで行けば見られると言う海のこと、王都の賑わい、時々は一緒に戦う神官達、魔物のこと、たくさん話をしてくれた。
村の子供達みんなが憧れの視線を送る。だけどいつだってウルは、私だけに会いに来てくれた。
それが嬉しかった。でも、いつからか会う度に綺麗になっていくウルの輝きから隠れるみたいに、私の体は段々と黒い影の様な物が付き纏う様になり……気がつけば顔も見えなくなって……。
その日、私は久しぶりに遊びに来てくれたウルと一緒に、村の丘に寝っ転がってぼーっと空を見ていた。空は暗く、雨までは降りそうもないけれど、どことなく憂鬱な気分を誘う。
だからだろうか、我慢していた気持ちがぽろりと口から溢れてしまった。
「村のおばさん達は、『光に愛されているから』って言ってくれるけど、やっぱりこんな姿、気持ち悪いよね……」
村の人には心配かけるからと強がっているけど、私はこの姿がやっぱり不安でしょうがなかった。
「治療院のみんなも、悪い気配は無いから大丈夫って言ってくれてるし、患者さん達も気にしないで来てくれるけど……他の村の子供達に『真っ暗お化け』って揶揄われると、落ち込んじゃう」
その言葉に、横に転がっていたウルはごろりと体ごとこちらを向いた。
顔はもう見えないはずなのに、いつでもウルは私の目をまっすぐ見てくれる。
「そんな事いう奴が馬鹿だ。メイはずっと綺麗だし、大陸一可愛いのに」
慰めてくれている、というよりなんとなく怒った様にウルが言うので、私は簡単に気分が良くなってしまう。
「ありがとう、そんな事言ってくれるのはウルだけ。ウルが女の子じゃ無かったらお嫁にもらってほしかったくらいだよ」
「本当に?」
私の軽口に、何故かウルが真剣な表情になる。そんなことはあり得ないとわかっていたけど、私はうんうん、と頷く。
するとウルは目を閉じて、少し何かを考えている様だった。
「メイは、私の事、いつまでだったら待てる?」
「ウルだったら、いつまででも待つよ」
「じゃあ、必ず迎えに行くから信じて待ってて。約束ね」
こつん、と私と額を合わせて言うウル。その拙くて幼い約束に、私は頷いた。
嬉しそうに笑うウルの、その目の奥で光がチカチカと瞬いていた。
……だけど、その日を最後にウルの姿を見る事はなかった。
ウルは、各地を回って神官や聖騎士達の手の回らない地域で魔物の対応をする冒険者だった。
だから本当は中々こちらの村まで来ることは出来ないはずなのに、あの日以来、近くまで来たからついでにと言って時々は顔を出してくれるようになった。
私はウルが来ることが楽しみで仕方なかった。
村にも友達と呼べる人はいたし、養護院で一緒に育った仲間や、村の子供達だっていたけれど、ウルはその誰とも違った。
綺麗で、強くて、いろんな事を知っている。
会う度に私が行ったことのない村や、街の話。大陸の端まで行けば見られると言う海のこと、王都の賑わい、時々は一緒に戦う神官達、魔物のこと、たくさん話をしてくれた。
村の子供達みんなが憧れの視線を送る。だけどいつだってウルは、私だけに会いに来てくれた。
それが嬉しかった。でも、いつからか会う度に綺麗になっていくウルの輝きから隠れるみたいに、私の体は段々と黒い影の様な物が付き纏う様になり……気がつけば顔も見えなくなって……。
その日、私は久しぶりに遊びに来てくれたウルと一緒に、村の丘に寝っ転がってぼーっと空を見ていた。空は暗く、雨までは降りそうもないけれど、どことなく憂鬱な気分を誘う。
だからだろうか、我慢していた気持ちがぽろりと口から溢れてしまった。
「村のおばさん達は、『光に愛されているから』って言ってくれるけど、やっぱりこんな姿、気持ち悪いよね……」
村の人には心配かけるからと強がっているけど、私はこの姿がやっぱり不安でしょうがなかった。
「治療院のみんなも、悪い気配は無いから大丈夫って言ってくれてるし、患者さん達も気にしないで来てくれるけど……他の村の子供達に『真っ暗お化け』って揶揄われると、落ち込んじゃう」
その言葉に、横に転がっていたウルはごろりと体ごとこちらを向いた。
顔はもう見えないはずなのに、いつでもウルは私の目をまっすぐ見てくれる。
「そんな事いう奴が馬鹿だ。メイはずっと綺麗だし、大陸一可愛いのに」
慰めてくれている、というよりなんとなく怒った様にウルが言うので、私は簡単に気分が良くなってしまう。
「ありがとう、そんな事言ってくれるのはウルだけ。ウルが女の子じゃ無かったらお嫁にもらってほしかったくらいだよ」
「本当に?」
私の軽口に、何故かウルが真剣な表情になる。そんなことはあり得ないとわかっていたけど、私はうんうん、と頷く。
するとウルは目を閉じて、少し何かを考えている様だった。
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「ウルだったら、いつまででも待つよ」
「じゃあ、必ず迎えに行くから信じて待ってて。約束ね」
こつん、と私と額を合わせて言うウル。その拙くて幼い約束に、私は頷いた。
嬉しそうに笑うウルの、その目の奥で光がチカチカと瞬いていた。
……だけど、その日を最後にウルの姿を見る事はなかった。
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