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第九章 真っ暗聖女、いつか見た光
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ルルタの心は、しん、と静まり返っていた。
目の前には、ケイナーンが予想していた通り魔物の群れが見える。
魔物というのは、闇が凝って出来た獣のような姿をしている。その核となるのは実際の獣であり、濃く吹き溜まった魔力の流れに触れた獣が、飲み込まれて生まれる。
神官の浄化の力でも、その姿は元に戻す事はできず、命を奪わずに済ませる方法は無い。
暮れ始めた薄暗い大地に、そんな闇色の獣の群れが一つ、また一つ。
低く唸り声を上げるもの、蹄で大地を蹴るもの、そのどれもが目の前に立つちっぽけな人間、ルルタに対して敵意を抱いているのがわかる。
それでも、ルルタに恐怖は欠片も無かった。
「悪いね、僕には女神がついているから」
気軽な調子でそう口にして、ルルタは笑う。メイナには決して見せられない、ぞっとするような冷たい笑み。
「さっさと片付けよう」
拳を握りルルタは走り出す。その動きに合わせる様に一つの群れが動いた。
低く唸り、牙を光らせ、ルルタを囲もうとするのは黒い狼達。
大きく口を開きグルゥと唸ると、ルルタの柔らかな喉笛に食いつこうと一斉に大地を蹴って飛び掛かる。
けれどルルタの姿はすでにそこには無く、勢いを殺すことができなかった狼達は無様にぶつかり合った。慌てた様に頭を巡らせ獲物の行方を追う。
やっと頭上にルルタの姿を見つけた狼達を、次の瞬間に目を眩ませる閃光と、他の群れが怯む程の轟音が襲った。
声一つ上がらなかった。そうして、閃光が去った後の大地には黒く焦げた狼の骸が転がり、ゆっくりと塵になって消える。
「さあ、次」
ルルタの声を理解した訳ではないだろう。先ほどの光と音に、獣だった頃の恐怖心が蘇ったのか魔物の群れは統率を失い、散り散りになろうとする。
「今更、逃すわけがない」
その一言を置いて、ルルタは一気に魔物との距離を詰める。ギャアギャアと声を上げる黒い大砂蜥蜴の尾を掴むとそのまま引き摺り倒し、その巨体で周辺の魔物を足止めした。
再びの閃光、眩い光が疾走る。
大砂蜥蜴を中心に魔物が倒れ、また塵になり消えた。
「血まみれ王子なんて言う奴らは、現地に来てみればいいんだ」
返り血なんて浴びる事はない。魔物は塵になり大地に還ると流れる魔力の一部になるだけ。
ルルタは残っている魔物の群れを眺めて拳を握った。力を込めるたびに、光が飛び散る。
一刻も早く、カタをつけて戻りたかった。だってきっとメイナが笑顔で迎えてくれるから。そう考えると、ルルタは自然と微笑んでしまう。
「早くメイの所に帰らなきゃね」
ルルタは残りの群れへと歩き出した。その足取りは、魔物と対峙するにはどこまでも軽かった。
目の前には、ケイナーンが予想していた通り魔物の群れが見える。
魔物というのは、闇が凝って出来た獣のような姿をしている。その核となるのは実際の獣であり、濃く吹き溜まった魔力の流れに触れた獣が、飲み込まれて生まれる。
神官の浄化の力でも、その姿は元に戻す事はできず、命を奪わずに済ませる方法は無い。
暮れ始めた薄暗い大地に、そんな闇色の獣の群れが一つ、また一つ。
低く唸り声を上げるもの、蹄で大地を蹴るもの、そのどれもが目の前に立つちっぽけな人間、ルルタに対して敵意を抱いているのがわかる。
それでも、ルルタに恐怖は欠片も無かった。
「悪いね、僕には女神がついているから」
気軽な調子でそう口にして、ルルタは笑う。メイナには決して見せられない、ぞっとするような冷たい笑み。
「さっさと片付けよう」
拳を握りルルタは走り出す。その動きに合わせる様に一つの群れが動いた。
低く唸り、牙を光らせ、ルルタを囲もうとするのは黒い狼達。
大きく口を開きグルゥと唸ると、ルルタの柔らかな喉笛に食いつこうと一斉に大地を蹴って飛び掛かる。
けれどルルタの姿はすでにそこには無く、勢いを殺すことができなかった狼達は無様にぶつかり合った。慌てた様に頭を巡らせ獲物の行方を追う。
やっと頭上にルルタの姿を見つけた狼達を、次の瞬間に目を眩ませる閃光と、他の群れが怯む程の轟音が襲った。
声一つ上がらなかった。そうして、閃光が去った後の大地には黒く焦げた狼の骸が転がり、ゆっくりと塵になって消える。
「さあ、次」
ルルタの声を理解した訳ではないだろう。先ほどの光と音に、獣だった頃の恐怖心が蘇ったのか魔物の群れは統率を失い、散り散りになろうとする。
「今更、逃すわけがない」
その一言を置いて、ルルタは一気に魔物との距離を詰める。ギャアギャアと声を上げる黒い大砂蜥蜴の尾を掴むとそのまま引き摺り倒し、その巨体で周辺の魔物を足止めした。
再びの閃光、眩い光が疾走る。
大砂蜥蜴を中心に魔物が倒れ、また塵になり消えた。
「血まみれ王子なんて言う奴らは、現地に来てみればいいんだ」
返り血なんて浴びる事はない。魔物は塵になり大地に還ると流れる魔力の一部になるだけ。
ルルタは残っている魔物の群れを眺めて拳を握った。力を込めるたびに、光が飛び散る。
一刻も早く、カタをつけて戻りたかった。だってきっとメイナが笑顔で迎えてくれるから。そう考えると、ルルタは自然と微笑んでしまう。
「早くメイの所に帰らなきゃね」
ルルタは残りの群れへと歩き出した。その足取りは、魔物と対峙するにはどこまでも軽かった。
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