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第八章 真っ暗聖女、企みを知る

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「しっかり掴まってて!」
「はい!」
 私は、揺れる馬上でぎゅっとルルタの背中に密着し、腰に手を回していた。
 なるべく大きな声で返すが、うっかりすると舌を噛みそうで怖い。

 あれから、ケイナーンに授けられた『手』に従って、私たちは動き出した。

 私とルルタは必死に馬を走らせている。
 カルスとラウミの王都潜伏組は、なんとかまだ動いている神殿の諜報部から入ってくる情報をこちらに知らせ、またこちらからの動きの報告を聞きながら全体を見るという役割。
 
 私は、馬の揺れに必死に耐えながらも、ケイナーンが話してくれた『手』の事を思い出していた。



「魔力の流れを正す方法は、一つだけじゃないの。女神様の神域で分身体に施術するのが一番効率がいいけれど、他にもできる事はあるのよ」

 そう言って微笑んだケイナーンは、部屋の奥から地図を引っ張り出した。そこに描かれている大地は、私がいつも神域で会っていた、治療を受けるためにゆったりと身を横たえる女神の姿そのもの。
 その地図にはいくつかの印があった。印が集中しているのは確かに人で言う心臓の辺り。でもそれ以外にも印がある。

「私たちの今いる村はこの辺り」
 ケイナーンが指で示したのは女神の親指の先辺りだった。そこから指を滑らせて、親指の付け根から少し内側に当たる場所をトントンと叩く。そこには、心臓の場所の次に大きな印が書かれていた。
「そしてここが、巡りを整える為の大事な場所。何度か教えたでしょう?」
 私はそう言われて思い出す。もともと、治癒の力では対処できない時の方法として揉み治療を始め、色んな治療を教えてくれたのはケイナーンだった。そしてその中に、魔力で作った髪の毛の様に細い『針』を刺して体の調子を整える方法があった。

 どこを整えるかによって、刺す場所は変わってくる。その場所の中でも、胸の支えを取るのに最適な場所が、親指付け根の少し内側。

「もしかして、あの『針』と同じことを?」
「そう、その為にこの杖を使うといいわ。私が聖女時代に使っていたものだから、光の魔力を通しやすいのよ」
 手渡された杖は随分古いものの筈なのに、丁寧に磨き上げられ美しく輝いていた。ぎゅっと握ると手に馴染み、まるでずっと自分の物だった様に錯覚する。

「ただし、その場には魔物が湧いていると考えた方がいいわね。大きな魔力の流れが纏まる場所でもあるから」
「そこは、僕がなんとかします」
 ルルタはそう言いながら、小さなブローチをケイナーンに渡した。
「状況はこの魔法道具でお知らせします。設置した伝信の窓は開けたままにしておきますから、ケイナーン様はカルスにこちらの状況を伝えてもらえますか? カルスも聞こえていたな?」
『了解! メイナを頼む!』
「言われなくても!」
 カルスの言葉にそう返すルルタ。その声が私の竦みそうな足を動かしてくれる。
「メイナ、治療院で使う馬の場所はわかるわね? その馬で行きなさい」
「はい!」
 ケイナーンが私の頭を撫でて、にこり、笑みを見せる。

「行こう、メイ」
 私は頷いて、差し出されたルルタの手を取った。
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