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第七章 真っ暗聖女、村に戻る
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言われて気づく。『ケイナーン』という名前に私は覚えがあった。
「光に愛されて、ずっと光ってたっていう『聖女』ケイナーン様!」
「……もっと他に、覚え方がなかったかしらね? 確かに光って大変だったのだけど」
呆れた様に言う彼女は、城に残っていた先代聖女ケイナーンの肖像画に二十年ほど歳を重ねた姿そのものだった。
「でも、先代の聖女様は百年前の方では……?」
でも、全然お婆さんって感じでは無い。その言葉にケイナーンは笑って、
「お役目を終えた時、女神様に一つだけ願いを叶えてもらえるの。そして、私の願いは『長寿』だった」
彼女は、当時を思い出す様に目を閉じる。
「私ね、その時は若くて、よく考えないで願ってしまったのよ。聖女という地位もあり、ある程度の金銭の自由も得た。じゃああとは『長寿』であれば完璧ねって……でも時が経ち、私が愛した人も、私を愛してくれた人も皆、先に逝ってしまって……」
私はケイナーンの辛さを思い、唇を噛む。
「一人、また一人と見送るたびに気力を失い、とうとう神殿に閉じこもってしまった私に、今の神官長が言ってくれたのよ。『あなたを縛り付けていた人はもう誰もいない。あなたは何をしても自由なのですよ』って」
あのおじいちゃん神官長様が、そんな事を……。
「それで、じっくりと考えたの。聖女に選ばれてからこっち、私に自由なんてなかった。でも私が聖女として活躍していた頃を直接知る者は皆居なくなって、今なら姿を消してももう追われたりしない。やっと自由になったんなら、私のやりたい事はなんだろうって……そこで思いついたの。王都から離れて、ずっとずっと遠くの知らない場所で、聖女ではない一人の『ケイ』として生きてみたいって」
「それでこの村に?」
私の問いに、ケイナーンは窓の外へ目をやった。そこには、子供が走り回り、遠くには畑に実りが揺れ、青い空が高く広がっていた。
「最初は別の村にいたのよ。歳を取るのが緩やかな私はそれに気づかれそうになっては別の村へ、別の村へと渡り歩いてここに来た。そして出会ったの、あなたと」
ケイナーンは外からこちらに視線を戻し、眩しいものを見るかの様に目を細めた。
「治療院の扉の前に、籠に入れられて置かれていた小さな小さなあなた。一目見て分かったわ、この子が次の聖女になるのだと。私も一度は聖女として女神様の加護を得た身……光の魔力と親和性が高い子はわかるのよ」
そこで一呼吸置いて、ケイナーンは私の様子を見守る。私は、続けてほしいという意味を込めて頷いた。
「幸い、女神様が本格的に目覚めるまでまだ日がある事も私にはわかっていた。だからあなたが聖女だと気づかれるまで時間を稼ぐ事にしたわ。……聖女だとわかれば、すぐに王都に送られて自由を失い、実際のお役目の時が来るまでは様々な政治の道具にされるから」
急に明かされた事実に戸惑っているのは確かだし、怖いとも思っている。でも私の手を、ルルタの手が優しく包んでくれるから、大丈夫になってしまう。
「きっと私は、誰かが私にして欲しかった事をして、満足しているだけなの。ごめんなさいね」
ケイナーンの声には悲しみが詰まっていた。だから私は、ルルタの暖かさに支えられながら目一杯に笑った。
「私は、ケイおばさんの気持ち、すごく嬉しいよ」
あえてケイナーンではなく、私は『ケイ』にそう伝えたかった。
「置いていかれたのがこの村で良かった、育ててくれたのがこの村で良かった」
ケイナーンが両手を広げる。私は子どもの頃のようにその手の中に飛び込んだ。
「私、メイちゃんを守るわ」
「当然、僕もね」
ケイナーンとルルタの言葉に、全身がふわりと安心で満たされる。
それが嬉しくて……。
だからこそ、私もどんな方法を使ってでも、みんなを守りたいと、そう思った。
「光に愛されて、ずっと光ってたっていう『聖女』ケイナーン様!」
「……もっと他に、覚え方がなかったかしらね? 確かに光って大変だったのだけど」
呆れた様に言う彼女は、城に残っていた先代聖女ケイナーンの肖像画に二十年ほど歳を重ねた姿そのものだった。
「でも、先代の聖女様は百年前の方では……?」
でも、全然お婆さんって感じでは無い。その言葉にケイナーンは笑って、
「お役目を終えた時、女神様に一つだけ願いを叶えてもらえるの。そして、私の願いは『長寿』だった」
彼女は、当時を思い出す様に目を閉じる。
「私ね、その時は若くて、よく考えないで願ってしまったのよ。聖女という地位もあり、ある程度の金銭の自由も得た。じゃああとは『長寿』であれば完璧ねって……でも時が経ち、私が愛した人も、私を愛してくれた人も皆、先に逝ってしまって……」
私はケイナーンの辛さを思い、唇を噛む。
「一人、また一人と見送るたびに気力を失い、とうとう神殿に閉じこもってしまった私に、今の神官長が言ってくれたのよ。『あなたを縛り付けていた人はもう誰もいない。あなたは何をしても自由なのですよ』って」
あのおじいちゃん神官長様が、そんな事を……。
「それで、じっくりと考えたの。聖女に選ばれてからこっち、私に自由なんてなかった。でも私が聖女として活躍していた頃を直接知る者は皆居なくなって、今なら姿を消してももう追われたりしない。やっと自由になったんなら、私のやりたい事はなんだろうって……そこで思いついたの。王都から離れて、ずっとずっと遠くの知らない場所で、聖女ではない一人の『ケイ』として生きてみたいって」
「それでこの村に?」
私の問いに、ケイナーンは窓の外へ目をやった。そこには、子供が走り回り、遠くには畑に実りが揺れ、青い空が高く広がっていた。
「最初は別の村にいたのよ。歳を取るのが緩やかな私はそれに気づかれそうになっては別の村へ、別の村へと渡り歩いてここに来た。そして出会ったの、あなたと」
ケイナーンは外からこちらに視線を戻し、眩しいものを見るかの様に目を細めた。
「治療院の扉の前に、籠に入れられて置かれていた小さな小さなあなた。一目見て分かったわ、この子が次の聖女になるのだと。私も一度は聖女として女神様の加護を得た身……光の魔力と親和性が高い子はわかるのよ」
そこで一呼吸置いて、ケイナーンは私の様子を見守る。私は、続けてほしいという意味を込めて頷いた。
「幸い、女神様が本格的に目覚めるまでまだ日がある事も私にはわかっていた。だからあなたが聖女だと気づかれるまで時間を稼ぐ事にしたわ。……聖女だとわかれば、すぐに王都に送られて自由を失い、実際のお役目の時が来るまでは様々な政治の道具にされるから」
急に明かされた事実に戸惑っているのは確かだし、怖いとも思っている。でも私の手を、ルルタの手が優しく包んでくれるから、大丈夫になってしまう。
「きっと私は、誰かが私にして欲しかった事をして、満足しているだけなの。ごめんなさいね」
ケイナーンの声には悲しみが詰まっていた。だから私は、ルルタの暖かさに支えられながら目一杯に笑った。
「私は、ケイおばさんの気持ち、すごく嬉しいよ」
あえてケイナーンではなく、私は『ケイ』にそう伝えたかった。
「置いていかれたのがこの村で良かった、育ててくれたのがこの村で良かった」
ケイナーンが両手を広げる。私は子どもの頃のようにその手の中に飛び込んだ。
「私、メイちゃんを守るわ」
「当然、僕もね」
ケイナーンとルルタの言葉に、全身がふわりと安心で満たされる。
それが嬉しくて……。
だからこそ、私もどんな方法を使ってでも、みんなを守りたいと、そう思った。
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