21 / 72
第七章 真っ暗聖女、村に戻る
1
しおりを挟む
「え?」
私は慌てて視線を巡らせるが、どこにも女神の姿は無い。
「シア様?」
『メイナ、良く聞きなさい』
私は姿の見えないままの、女神の真剣な声に、思わず膝をついた。
『危機が迫っています。こうなるまで気づかなかったのは、私の落ち度。せめて最後の力であの村へ送ります。……貴女の騎士と共に逃げてください』
「逃げるって、シウナクシア様! 急にどうして?」
『ああ、メイナ。私の聖女。……どうか無事で』
女神の声が段々と小さくなり、私の視界いっぱいに光が満ちて、弾けた。
そうして、転移の門を通った時のような不思議な浮遊感に包まれて……。
「メイちゃん、メイちゃん!」
懐かしい声がする。村に帰りたいとばかり考えていたから、幻聴が聞こえているんだろうか。
私は、幻でもいいからしばらくこのままこの声を聞いていたいと思った。
「メイナ!」
ところが、耳元で大きな声で呼ばれて、私は思わず飛び起きる。
「あれ、ここは?」
私は辺りを見回した。聞こえた声は幻ではなかったようで、見知った顔があった。
「ケイおばさん!」
そこには、小さな頃から私たち孤児や村の子達の面倒をみてくれていた女性、ケイが心配そうに私を見ていた。
そうだ、女神が『村へ送る』と言っていた。じゃあここは本当に、私の生まれ育った村……。
「とりあえず、おかえりメイナ」
村では毎日のように聞いていた声に、私は安堵が全身に広がってゆくのを感じた。
「『女神の間』が光り出したから来てみたら、メイちゃんとその子が居たんだよ」
その子、と言いながらケイが私の後方を指差したのでそちらを見て、私は息を飲んだ。
「ルル様!」
そこにはルルタが目を閉じ横たわっていた。慌てて口元に耳を近づけてみると、規則正しい呼吸の音が聞こえて、私はほっとする。
続いてルルタの額に触れて体の状態を確認。意識を失っているだけで異常はないようだった。
「ルル様が無事でよかった」
「その人、メイちゃんの旦那さんかい?」
旦那さん、なんて言われて私はどう返して良いか戸惑う。そういえばそうなのだけど、違うような?
「ええ、そうです」
割り込んできた声。私の横に、いつの間にか起き上がったルルタが居た。
「ルル様、起き上がって、大丈夫ですか?」
「うん、体は大丈夫。……急に転移したみたいだから、驚いてはいるんだけどね」
そう言い微笑むルルタの横顔をケイがじっと見る。
「随分と男前を捕まえてきたねえ」
私が照れつつも頷くと、ケイは私の背中をばんばんと叩いて嬉しそうに笑った。
『真っ暗聖女』と呼ばれていた私のことを、ずっと心配していてくれた一人だったから、結婚したということを喜んでくれているのだろう。
その気持ちが嬉しい、と同時にいつかガッカリさせる事になるかと思うとちょっと申し訳なかった。
「それにしても、なんでこんな事になってるのかな?」
ルルタに聞かれて、私は女神の言葉を思い出す。
「ここへ飛ばされる直前に、私、女神様に『危機が迫ってるから、騎士と一緒に逃げて』って言われたんですけど」
「危機が? ……ちょっと待ってね。確かめてみる」
ルルタは、胸元の宝石をあしらった飾りを外し、耳に当てて目を閉じる。
「ルル様?」
何かの魔法道具なんだろうか、ルルタはしばらくそのまま何事かを聞き取っているようだった。
「うん、まずい事になってるね」
ルルタは眉根を寄せて、心底嫌そうにそう言った。
私は慌てて視線を巡らせるが、どこにも女神の姿は無い。
「シア様?」
『メイナ、良く聞きなさい』
私は姿の見えないままの、女神の真剣な声に、思わず膝をついた。
『危機が迫っています。こうなるまで気づかなかったのは、私の落ち度。せめて最後の力であの村へ送ります。……貴女の騎士と共に逃げてください』
「逃げるって、シウナクシア様! 急にどうして?」
『ああ、メイナ。私の聖女。……どうか無事で』
女神の声が段々と小さくなり、私の視界いっぱいに光が満ちて、弾けた。
そうして、転移の門を通った時のような不思議な浮遊感に包まれて……。
「メイちゃん、メイちゃん!」
懐かしい声がする。村に帰りたいとばかり考えていたから、幻聴が聞こえているんだろうか。
私は、幻でもいいからしばらくこのままこの声を聞いていたいと思った。
「メイナ!」
ところが、耳元で大きな声で呼ばれて、私は思わず飛び起きる。
「あれ、ここは?」
私は辺りを見回した。聞こえた声は幻ではなかったようで、見知った顔があった。
「ケイおばさん!」
そこには、小さな頃から私たち孤児や村の子達の面倒をみてくれていた女性、ケイが心配そうに私を見ていた。
そうだ、女神が『村へ送る』と言っていた。じゃあここは本当に、私の生まれ育った村……。
「とりあえず、おかえりメイナ」
村では毎日のように聞いていた声に、私は安堵が全身に広がってゆくのを感じた。
「『女神の間』が光り出したから来てみたら、メイちゃんとその子が居たんだよ」
その子、と言いながらケイが私の後方を指差したのでそちらを見て、私は息を飲んだ。
「ルル様!」
そこにはルルタが目を閉じ横たわっていた。慌てて口元に耳を近づけてみると、規則正しい呼吸の音が聞こえて、私はほっとする。
続いてルルタの額に触れて体の状態を確認。意識を失っているだけで異常はないようだった。
「ルル様が無事でよかった」
「その人、メイちゃんの旦那さんかい?」
旦那さん、なんて言われて私はどう返して良いか戸惑う。そういえばそうなのだけど、違うような?
「ええ、そうです」
割り込んできた声。私の横に、いつの間にか起き上がったルルタが居た。
「ルル様、起き上がって、大丈夫ですか?」
「うん、体は大丈夫。……急に転移したみたいだから、驚いてはいるんだけどね」
そう言い微笑むルルタの横顔をケイがじっと見る。
「随分と男前を捕まえてきたねえ」
私が照れつつも頷くと、ケイは私の背中をばんばんと叩いて嬉しそうに笑った。
『真っ暗聖女』と呼ばれていた私のことを、ずっと心配していてくれた一人だったから、結婚したということを喜んでくれているのだろう。
その気持ちが嬉しい、と同時にいつかガッカリさせる事になるかと思うとちょっと申し訳なかった。
「それにしても、なんでこんな事になってるのかな?」
ルルタに聞かれて、私は女神の言葉を思い出す。
「ここへ飛ばされる直前に、私、女神様に『危機が迫ってるから、騎士と一緒に逃げて』って言われたんですけど」
「危機が? ……ちょっと待ってね。確かめてみる」
ルルタは、胸元の宝石をあしらった飾りを外し、耳に当てて目を閉じる。
「ルル様?」
何かの魔法道具なんだろうか、ルルタはしばらくそのまま何事かを聞き取っているようだった。
「うん、まずい事になってるね」
ルルタは眉根を寄せて、心底嫌そうにそう言った。
0
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる