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第六章 真っ暗聖女、初めてのデート!
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その後、元の服への着替えの手伝いが終わると、ラウミはすっと姿を消した。
代わりに私の隣にはルルタが。
「これでやっとちゃんとデートができるよ」
「すみません、院長が」
「それはメイが謝る事じゃないから」
二人で揃いのフードを被り、私は再びルルタの腕に掴まって、今度は菓子店を覗く。
城でも今まで見た事がない可愛いお菓子といっぱい出会えたけど、ここに並ぶお菓子達はまた別種の可愛らしさ。
「空に浮かぶ雲に見立てたお菓子だって」
白く、ふわふわのそのお菓子は、この店だけの特別な物らしい。
それが空の色の箱に入っている姿は、一目で私を虜にした。
「侍女達の分も、買っても良いでしょうか?」
「メイは優しいね、じゃあ、その分も入れて後で届けてもらうよ」
「ありがとうございます!」
本当は村のみんなにも持っていってあげたい。子供達はきっと喜ぶだろうから。
帰る時には、これだけじゃなくて、いろんな美味しいものや素敵なものを持って帰ろう。
「じゃあ、次のお店に行ってみようか?」
「はい! 次は魔法道具のお店が良いです」
「魔法道具ね、じゃああっちかな」
私はそうしてルルタと一緒に数軒を回り、段々と疲れてきた所で小さな食事店へ。
ルルタは慣れた様子で、店員に何かを握らせ奥の個室へ。
私は部屋に入るなり、置かれている椅子に腰を落ち着けて、思わず長く息を吐いた。
「疲れたでしょう? ここでゆっくり休んで、それから帰ろうか」
「ありがとうございました。とっても楽しかったです」
ワゴンで運ばれてきたお茶とお菓子が、小さなテーブルの上に並べられていく。
お菓子の一つ一つは小さく、全てが違う色や形で、見ているだけでも楽しめる。
「はい、どうぞ」
ひと口大のそのお菓子をフォークに刺して、ルルタが笑顔でこちらに差し出してくる。私はきょとんとした顔になって、それから言葉でないと伝わらないと気づき、問いかける。
「ルル様、何を?」
「ん? 疲れてるだろうから、手伝おうかなと思って」
その手を引っ込める気はないらしく、笑顔のままでルルタは、「はい、どうぞ」と繰り返した。
もしかして、もしかすると、これは。
私はおずおずと口を開いた。
開いたけど、見てわかるのかなと心配になった所で、ふわりと舌に酸味と甘みが広がった。
咀嚼するまでもなくふわり溶ける。
「ルル様、私、自分で食べられますから」
「僕が食べさせたいんだ。駄目かな?」
その、ちょっと悲しそうな表情はズルい。
聖騎士団の皆さんが見たらきっとびっくりするんだろうなと思いながら、私は心を無にして二つ目を飲み込んだ。
「では、ルル様もどうぞ」
負けじと私もルルタに菓子を差し出す。ルルタは一瞬目を見開いて、それから零れてくる髪を片手で押さえて口を開け、菓子を受け入れる。
私は、小鳥に給餌をしているのだと自分に言い聞かせた。
「美味しいね、ありがとう」
至近距離の笑顔に負けを悟る。ゆるやかに空気が甘く蕩けて、息もできないくらい。
どうしよう、私は……。
それは、気づいてはいけない思い。
私は逃げるように顔を伏せ、そのままどうして良いかと机の木目を睨みつけて……。
次の瞬間、私は女神の聖堂に立っていた。
代わりに私の隣にはルルタが。
「これでやっとちゃんとデートができるよ」
「すみません、院長が」
「それはメイが謝る事じゃないから」
二人で揃いのフードを被り、私は再びルルタの腕に掴まって、今度は菓子店を覗く。
城でも今まで見た事がない可愛いお菓子といっぱい出会えたけど、ここに並ぶお菓子達はまた別種の可愛らしさ。
「空に浮かぶ雲に見立てたお菓子だって」
白く、ふわふわのそのお菓子は、この店だけの特別な物らしい。
それが空の色の箱に入っている姿は、一目で私を虜にした。
「侍女達の分も、買っても良いでしょうか?」
「メイは優しいね、じゃあ、その分も入れて後で届けてもらうよ」
「ありがとうございます!」
本当は村のみんなにも持っていってあげたい。子供達はきっと喜ぶだろうから。
帰る時には、これだけじゃなくて、いろんな美味しいものや素敵なものを持って帰ろう。
「じゃあ、次のお店に行ってみようか?」
「はい! 次は魔法道具のお店が良いです」
「魔法道具ね、じゃああっちかな」
私はそうしてルルタと一緒に数軒を回り、段々と疲れてきた所で小さな食事店へ。
ルルタは慣れた様子で、店員に何かを握らせ奥の個室へ。
私は部屋に入るなり、置かれている椅子に腰を落ち着けて、思わず長く息を吐いた。
「疲れたでしょう? ここでゆっくり休んで、それから帰ろうか」
「ありがとうございました。とっても楽しかったです」
ワゴンで運ばれてきたお茶とお菓子が、小さなテーブルの上に並べられていく。
お菓子の一つ一つは小さく、全てが違う色や形で、見ているだけでも楽しめる。
「はい、どうぞ」
ひと口大のそのお菓子をフォークに刺して、ルルタが笑顔でこちらに差し出してくる。私はきょとんとした顔になって、それから言葉でないと伝わらないと気づき、問いかける。
「ルル様、何を?」
「ん? 疲れてるだろうから、手伝おうかなと思って」
その手を引っ込める気はないらしく、笑顔のままでルルタは、「はい、どうぞ」と繰り返した。
もしかして、もしかすると、これは。
私はおずおずと口を開いた。
開いたけど、見てわかるのかなと心配になった所で、ふわりと舌に酸味と甘みが広がった。
咀嚼するまでもなくふわり溶ける。
「ルル様、私、自分で食べられますから」
「僕が食べさせたいんだ。駄目かな?」
その、ちょっと悲しそうな表情はズルい。
聖騎士団の皆さんが見たらきっとびっくりするんだろうなと思いながら、私は心を無にして二つ目を飲み込んだ。
「では、ルル様もどうぞ」
負けじと私もルルタに菓子を差し出す。ルルタは一瞬目を見開いて、それから零れてくる髪を片手で押さえて口を開け、菓子を受け入れる。
私は、小鳥に給餌をしているのだと自分に言い聞かせた。
「美味しいね、ありがとう」
至近距離の笑顔に負けを悟る。ゆるやかに空気が甘く蕩けて、息もできないくらい。
どうしよう、私は……。
それは、気づいてはいけない思い。
私は逃げるように顔を伏せ、そのままどうして良いかと机の木目を睨みつけて……。
次の瞬間、私は女神の聖堂に立っていた。
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