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第一章 真っ暗聖女、結婚する
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「そなたは、第二王子と結婚してもらう」
え? と口から飛び出そうになるのを必死で堪えた。私は今聞こえた言葉について、どうしてこうなったんだろうと何度も頭の中で反芻し考える。
転移門を潜って王都の何処かに転がり出た私。事前に連絡が行って居たのか待ち構えて居た神官達は私の異様な姿に怯みつつも、印の浮かぶ手を捏ねくり回し、顔を見合わせ無言で頷き合った。
空気が重い。
この感じだとやっぱり違ったんだろう。がっかりさせて申し訳ないけど、早く解放されて王都見学に行きたいななどと思っていた私は、次の瞬間、ガッと肩を掴まれ、もう一度転移門に押し込まれていた。
慌てて首を捻って後方を見ると、閉まりつつある扉の向こうで魔法士が魔力を補充している姿が見える。
え? 王都見学は? 美味しいものは? 人気の洋品店は?
一気に帰れるのは嬉しいけれど、でも楽しみにしていたあれもこれも幻に消えるのかとしょんぼり肩を落とした私は、はぁ、とため息をつきながら転移門の、押し込まれたのとは反対側の扉を開けた。転移門の衛兵さんもびっくりするだろうなと思いつつ、
「やっぱり違ったみたいで……」
そう言いながら足を踏み出して気づく。ふわりと足が沈み込む。
目を落とすと、毛足の長いふっくらとした段通が足を受け止めていた。
「え?」
顔を上げると、見たこともない様な豪華な調度の並ぶ部屋に居た。
「ここは?」
答えはない、そこに扉を開けて女性達が入ってくる。先ほどの神官達と同じく私を見てぎょっとするが、すぐに気を取り直して私を取り囲んだ。
「まず、お着替えを。王がお会いになります」
混乱で言葉が出てこない、え? とか なんで? とか言っている間に、服を剥ぎ取られ、湯で磨かれ、良い香りのする香で焚きしめられ、ドレスを着せられ……顔がわからないのでメイクはされなかったけれど、手探りでなんとか纏め上げられた髪に花を飾られて、あれよあれよと言う間に謁見の間に通されて。
王から言い渡されたのが先ほどの一言。
「結婚、でございますか?」
顔を上げることが許されて居ないため、よく磨かれた床を見ながら恐る恐る問う。
「神官達は揃って、そなたが『聖女』で間違いないと言うのでな、ならば我が王家の一員となってもらうに相応しかろう」
王家の一員?
私が??
全く事態は飲み込めて居ないが、『否』が言えないのだけはよく分かった。
「ありがたく存じます」
なんとかそう答えると目の前にすっと誰かの手が差し出された。その手を取り顔を上げる。
目に飛び込んできたのは優しげな琥珀の瞳、柔らかな赤金の髪。微笑みこちらに向き合う青年の手がそっと私を支えて立ち上がらせてくれる。
先ほどの話から、彼がきっと第二王子だろうと思う。
「さあ、ここにサインを」
王に促されるまま、隣の青年がサインをした後にペンを受け取り、名を記す。
たったそれだけのことで、どうも私は結婚をしたという事になるらしい。
そんな馬鹿なと思う間も無く、今度は輿に乗せられ、回廊を抜け、二人になった。
え? と口から飛び出そうになるのを必死で堪えた。私は今聞こえた言葉について、どうしてこうなったんだろうと何度も頭の中で反芻し考える。
転移門を潜って王都の何処かに転がり出た私。事前に連絡が行って居たのか待ち構えて居た神官達は私の異様な姿に怯みつつも、印の浮かぶ手を捏ねくり回し、顔を見合わせ無言で頷き合った。
空気が重い。
この感じだとやっぱり違ったんだろう。がっかりさせて申し訳ないけど、早く解放されて王都見学に行きたいななどと思っていた私は、次の瞬間、ガッと肩を掴まれ、もう一度転移門に押し込まれていた。
慌てて首を捻って後方を見ると、閉まりつつある扉の向こうで魔法士が魔力を補充している姿が見える。
え? 王都見学は? 美味しいものは? 人気の洋品店は?
一気に帰れるのは嬉しいけれど、でも楽しみにしていたあれもこれも幻に消えるのかとしょんぼり肩を落とした私は、はぁ、とため息をつきながら転移門の、押し込まれたのとは反対側の扉を開けた。転移門の衛兵さんもびっくりするだろうなと思いつつ、
「やっぱり違ったみたいで……」
そう言いながら足を踏み出して気づく。ふわりと足が沈み込む。
目を落とすと、毛足の長いふっくらとした段通が足を受け止めていた。
「え?」
顔を上げると、見たこともない様な豪華な調度の並ぶ部屋に居た。
「ここは?」
答えはない、そこに扉を開けて女性達が入ってくる。先ほどの神官達と同じく私を見てぎょっとするが、すぐに気を取り直して私を取り囲んだ。
「まず、お着替えを。王がお会いになります」
混乱で言葉が出てこない、え? とか なんで? とか言っている間に、服を剥ぎ取られ、湯で磨かれ、良い香りのする香で焚きしめられ、ドレスを着せられ……顔がわからないのでメイクはされなかったけれど、手探りでなんとか纏め上げられた髪に花を飾られて、あれよあれよと言う間に謁見の間に通されて。
王から言い渡されたのが先ほどの一言。
「結婚、でございますか?」
顔を上げることが許されて居ないため、よく磨かれた床を見ながら恐る恐る問う。
「神官達は揃って、そなたが『聖女』で間違いないと言うのでな、ならば我が王家の一員となってもらうに相応しかろう」
王家の一員?
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全く事態は飲み込めて居ないが、『否』が言えないのだけはよく分かった。
「ありがたく存じます」
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先ほどの話から、彼がきっと第二王子だろうと思う。
「さあ、ここにサインを」
王に促されるまま、隣の青年がサインをした後にペンを受け取り、名を記す。
たったそれだけのことで、どうも私は結婚をしたという事になるらしい。
そんな馬鹿なと思う間も無く、今度は輿に乗せられ、回廊を抜け、二人になった。
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