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「3」 ムスタカス家の子息

(1) お初の怪

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それは、ある月も陰る雲の多い真夜中の事であった。それは、来たのだ。


バチャバチャ、ドターン!バチャバチャ、ドターン!ガタガタ、ガンー!


サンリク伯爵家の屋敷の奥で大きな音が聞こえてくる。不思議な事に召使いは出て来ない。音が聞こえているはずなのに。


「役に立たない使用人ばかりだ。私なら、首にするのだ。だっ!」


1人、激怒しているのは、ジュリエッタ・ハベロ子爵令嬢だ。契約を破ろうとした為に罰を受けて大人しくなっていたのに。自分のエネルギーを発散出来なくてイラついております。

だから、剣を手に部屋を飛び出した。婚約者候補は辞退しましたが、ミリエネッタ令嬢付きの見習い事務官で住み着いています。


「夜中に騒がしいのだ。そんな奴は、ジュリエが思い知らせてやるのだ。感謝するのだ!」


ビチャーンと何かが灯りの無い暗闇の中を飛んでくる。それが、ジュリエッタの顔に張り付いてしまったのだった。


「うぎゃあああああああ!気持ち悪いのだ、取って欲しいのだ。取るのだ、誰か。誰かあああああああー!!」


ジュリエッタ、その感触の不快感に鳥肌たてて叫びながら走り回った。助けて、早く助けてーー!


「いい加減になさいー!」


まさしく、天の声。その瞬間に、ジュリエッタは救われたからだ。


ペリペリペリペリ、ポーン!


彼女の顔や寝着の上に貼り付いた物は一瞬で剥ぎ取られるのだ。ジュリエッタは、女神にさえ思える相手を涙目で見上げて礼を言う。


「ミリエネッタお嬢様だー、ありがとうなのだ。ジュリエは、トッテモ怖かったのだ!」


何時もの簡素な仕事着姿のミリエネッタ令嬢は、哀れな少女を立たせる。


「ごめんなさいね、ジュリエッタさん。この子は、悪戯が好きなの。度が過ぎたのが。」


ドボドボドボドボーン、バシャバシャ!


暗い廊下を走って来る波。ここは、海だったのか。怯えるジュリエッタをミリエネッタ令嬢が抱きすくめる。


「この屋敷での戯れは、私が許しませんわよ。良いのですか、イーグル・ムスタカス様?」

「ゴポゴポ、冷たいなー。助けて欲しいのに、優しくしてよううううー!」


波の中から立ち上がる海坊主。ジュリエッタは叫びミリエネッタ令嬢にしがみつく。怖いよー。


「ジュリエッタさん、心配なさらないで。この方は、人間ですから。ご紹介致します。」

「いいえ、必要ないのだー!(嫌いじゃ)」


海坊主は、海水を吐きながらゲタゲタと笑う。その実体は、貴族の子息であった。

イーグル・ムスタカス氏22才は、富豪の跡取りである。だから、お金は有る。無いのは、平穏な日々だ。
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