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29-キスは、丁寧、濃厚、熱烈に。

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 一瞬で頭のなかが真っ白になった。
 『大悟のリードでセックス』?
 その言葉が、白い頭のなかで木霊する。

 その木霊がすうっと鳴りを潜めた頃、活動を停止していた脳細胞が息を吹き返したのか、俺の脳裏に鮮やかな映像が広がった。

 白いシーツの上にそっと横たえられる俺と、俺を横たえる腕をそのままに俺へと覆いかぶさる大悟の姿だ。
 二人とも、すでに服など着ていない。解けそうにないほど強く視線を絡め合い、あがりそうな息を堪えて緊張を漲らせている。
 大悟の背中に浮きでた広背筋から、外腹斜筋がきれいに連なっているのが見てとれる。ゆっくりと伏せられていくその背中に、肩甲骨がはっきりと浮きあがった。

 一昨夜に実物を見てしまったせいか、その妄想は、あのとき思い巡らせた大悟の脱衣シーンよりもやけにリアルだった。ただの妄想だとわかっていても、息が詰まるほどときめいてしまう。せっかく大悟が宥めてくれた頬も、ふたたびカッカと熱を孕みだした。


 俺がそうして、勝手な妄想にひとりでぽうっとしていると、大悟がさらに顔を寄せてきた。
「幸成。キス、したい」
 大悟の少し上擦った掠れ声に、ドキリと心臓が跳ねる。
 この前は、まともにキスできなかった。せっかく重ねた唇を、俺が振り解いてしまったからだ。

 したい。キスしたい。大悟とキス。
 そう意識した途端、すでにあがっていた息も、緊張に半ば渇いた唇も、何を言おうとしてたのか半開きのままだった口元も、大悟を見あげる角度までが、気になって仕方がなくなった。

 リードされるのって、どうすればいいんだっけ?
 頭のなかでは『大悟のリード』というキーワードが群れを成してぐるぐる踊ってる。そのせいか、これまでキスやセックスをどんな風にしてきたのか、参考にしようにも比較データがまるきり思い出せなくなっていた。

 こんなに息を荒くして、変に思われないだろうか。知らずあがってしまった顎を、浅ましいと思われなかっただろうか。
 いろんなことが気になりすぎて、渇いた唇を舐め潤すどころか、半開きの唇を閉じることさえ躊躇われた。

 だって、こんなに近いんだ。少しでも動いたら、きっと全部伝わってしまう。
 たかがキスひとつにこんなにも緊張してるってことが、キスだけじゃなくその先まで、俺が思いきり意識してるってことまでも。
 けど、動かないままでもバレるんじゃないか? 自分からキスしたいのを懸命に我慢して、大悟のリードを待ち侘びていることが。


 動いても動かなくても、バレれば恥ずかしいことこの上ない。
 いったいどうしたらいいんだ、と、結局身動きもとれずにいると、大悟がゆっくり身を屈め、その距離がさらに近くなった。

 来る。触れる。大悟の唇が……。
 合図し合ったわけでもないのに、見つめ合っていた互いの視線がふいと同時に外れ、それぞれの唇へとおりた。期待のしすぎで、渇いた唇がちりちりしてる。二人の吐息が混ざり、唇の表面を撫でていく。

 形のいい唇が目の前に迫る。触れる前から、『この唇が好きだ』と思う。
 触れたい。この唇に。
 触れられたい。この唇で。
 早く。早く……。

 キス直前の緊張に耐えきれず、俺はそっと目蓋を閉じた。


 一瞬、蝶の羽が触れたんだとと思った。それほどやわらかなタッチだった。
 そっと触れられたそこから、ビリビリと電気が走る。幾度かついばまれ、そのたびに走った電気を、次の電気で散らされた。
 その体感に耐えかねた唇が戦慄いて、半開きのそれをさらに開いていく。

「ああ……」
 溜め息のように漏れたその声は、どちらのものだったのか。

 次の瞬間、強く抱き込まれ、髪を後ろへ引かれ仰のくほど上を向かされた。そっと触れるだけだった大悟の唇が、押しつけ、覆い、食んで、吸いあげ、引っぱり、齧る。
 奔放に弄ばれた俺の唇は、ものの数瞬で腫れぼったくなってしまった。
 ジンジンと痺れだしたそれを治めたくて唇をくっと結ぶと、閉じたその上をぬるりと熱いものが撫でていく。

 大悟に、唇を舐められた。そう認識しただけで、背筋にふるりと震えが走った。なのに、何度もそれを繰り返されるから、脚までガクガクし始める。
 自然と唇から力が抜けて、結んでいたのがふわりと解けた。その隙間を、するりするりと大悟の熱い舌がひらめいていく。唇の内側の薄い粘膜と、歯の表にも大悟の熱の洗礼を受けた。

 じわりと唾液が溢れ、口のなかに溜まっていく。それを喉の奥へと無意識に送ったら、コクリと思いの外大きな音量で鳴ってしまった。


 その音を聞き咎めたのか、大悟が顔をあげる。
 見つめられているのは感じたが、すぐに目を開けることはできなかった。キスがやんだあとも、口元に漂う快感を処理しきれずにいたからだ。

「ゆきなり、キス、嫌じゃなかった?」
 囁くような大悟のその声にそっと目蓋を持ちあげると、俺の顔を覗き込む大悟の不安そうな瞳と目が合った。
「嫌じゃないよ。なんで?」
 どうしてそんなことを聞くんだろう。大悟とのキスが、嫌なわけがないのに。

「この前は、嫌がられたから」
「え、あ、あれはっ、おまえがっ」
 あのときは、大悟のつらそうな顔が気になって、キスに集中できなかっただけだ。
 本当は、ずっとしたかった。ずっと、ずっと。大悟とキス、したかったんだからな。

「ゆきなり。目が潤んで、エロい顔になってる」
「ッ、なっ」
 確かに蕩けた顔を晒してる自覚はあった。
 けど、そう言う大悟だって相当にエロい。ふちがほんのり朱く染まった目元とか、濡れた唇とか。いつもの清廉な色気とは違う、淫らな色気が滲みだしていた。

 そんな大悟に、こんな風にうっとりと見つめられたら……心臓に悪いよ。


「キス、もっとして、いいか?」
 顔を寄せてきた大悟が、唇に触れるか触れないか、ギリギリのところで囁いた。大悟の吐息だけが唇を撫でてきて、もどかしくてたまらない。

 俺がもっとキスしたがってることなんて、わざわざ聞かなくても、それこそ『見てればわかる』ことだろう。
 大悟が、こんな意地悪をするなんて。
 これまで抑え込まれてきた本当の大悟を、もっとちゃんと知りたいと思う。同時に、あと少しで触れてもらえるその距離が悩ましくてしかたがなかった。

「して。キス、して、」
 『焦らすなよ、ばか』と言うつもりだったのに、口を突いて出たのはそんなおねだりだった。
 そのことを恥ずかしいと思う余裕もなくて、大悟のポロシャツの背中をきゅうっと引っ張り、もう少しも待てないんだと主張する。

「じゃあ、口をあけて」
 疼く唇を押しつけたいのを我慢して、大悟の吐息を食べるみたいに口を開くと、今度は焦らすことなく熱い舌を押し込まれた。
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