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第2章:性的虐待の連鎖は僕で終わりです。【オーナー:聖史】

01-《王様の耳》へようこそ。え……僕の秘密ですか?

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 みなさん、ようこそいらっしゃいました。《王様の耳》スタッフ一同、心より歓迎いたします。
 ミキヤくん。先ほどはお疲れ様でした。素敵な内緒話をありがとう。晴文くんと、どうぞお幸せに。

 ああ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。僕が《王様の耳》オーナーの聖史きよしです。以後お見知り置きを。


 え……若すぎ、ですか?  秘密サロンのオーナーとして……ということですよね。よく言われます。
 ですが、どうぞご安心ください。これは見た目だけのこと。僕は、成長すべき時期に成長できなくて……いまでも実年齢に見た目が追いついていないだけなんです。これでもとっくの昔に成人した身です。

 おや……みなさん、まだ不安そうですね。
 では、ここへ来られるまでにスタッフからありました説明を、再度僕からさせていただきましょう。きっと《王様の耳》が安心できるサロンだと、納得していただけるでしょう。


 《王様の耳》は無料の私設サロンです。僕にとってはどうしても必要な場所で、僕が僕のために作りました。ただし、僕の所有する情報網から選出されたメンバーのみが入店を許される完全会員制となっております。

 失礼ながら、選出にあたり身辺調査をさせていただきました。なぜなら、このサロンへの参加条件が、『人には言えない秘密の話』を抱え、メンバーとその秘密を共有し、メンバーの秘密をも秘密として保持することのできる者、というものだからです。

 え……情報網についてですか? それは……申し訳ありません。企業秘密です。


 みなさんは、『王様の耳はロバの耳』という話をご存知かと思います。王様の耳がロバの耳だと知った理髪師が、口止めをされたけれど堪えきれず、大地に穴を掘り、その穴に向かってその秘密を口にしてしまう……という話です。

 この話、ギリシャ神話が元になっていることはご存知ですか? 本来は、もう少し長い物語なんです。


 田園の神と芸術の神が、竪琴の弾き比べをしたときのことです。その場にいたすべての者たちが、芸術の神の圧勝を認めました。
 しかし、ただひとりだけ、その結果に異論を唱えた者がおりました。それは、かつての自分の強欲さに嫌気がさし、田園の神の素朴さに心酔していた王様でした。

 芸術の神の怒りを買った王様は、耳をロバの耳に変えられてしまいました。王様の希望によってひた隠しにされたその秘密は、理髪師によって大地の穴へと漏らされまます。やがて、その大地に生えた葦が育ち、吹聴したせいで、王様の秘密は国民の知るところとなりました。

 王様は、怒りのあまり理髪師を処刑しようとしますが、踏みとどまってその罪を赦しました。王様の改心を知った芸術の神は、自らの怒りもおさめ、王様の耳を元に戻したのです。


 ここ《王様の耳》は、その神話になぞらえてつくりました。素直に自分を表現するための場所。また、すべてを赦し、赦されるための場所なのです。

 ここに集う人々は、みんな秘密を抱えています。言いたいけれど言えない。それでも、誰かに聞いてほしい。そんな人たちばかりです。ここでは秘密を口にしてもいいんです。ひとりで耐えることはありません。ここで秘密を口にすることで苦痛の荷をおろし、また秘密の明日を生きてください。


 当然のこととして、個人情報は保護されます。同席させていただくスタッフももちろん身上調査済みで、各々が秘密を抱えており、メンバーたる資格を有する者たちばかりです。
 また、これも当然のことですが、メンバーのみなさんには、秘密保持の義務が生じます。《王様の耳》で見聞きしたことは、なにとぞ口外なさいませんよう、心からお願いいたします。

 ……もし口外してしまったら、ですか?
 ご自身の秘密を口外する分には、まったく問題ありません。秘密を抱える身ではなくなるため、メンバーの資格がなくなるだけのこと。
 しかし、ここで知り得た他のメンバーの秘密は、どうぞ厳守願います。万が一、メンバーの秘密を洩らすようなことがありましたら、……それなりの措置がなされる、とだけ申しておきますね。

 僕のネットワークは、広く深く張り巡らされています。表の世界でも、裏の世界でも、メンバーへの支援は惜しみません。この会場のみなさまとも末永くよりよい絆で結ばれることを心より祈っております。


 ……僕ですか?
 ええ……もちろん、僕にも秘密がありますよ。易々とは口にできないような秘密がね。それを吐露するために《王様の耳》が存在していると言っても過言ではありません。
 は? いま、ここでですか?
 ……いいでしょう。それでみなさんが安心できるというのであれば……。

 では、みなさん、どうか僕の秘密の共有者となってくださいね。
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