94 / 125
第二十六章 その、薄汚い京都弁をやめないか
(2)
しおりを挟む
二月に入ると、学校に来る三年生が半数以下となる。
私大の入試がいよいよ本格的に始まるため。
連日登校するのは主に、四つの立場の人間に限られる。第一に和貴のように就職を決めたひと、第二に紗優と同じく専門学校への進学を決めたひと。第三が水野くんと同じくスポーツ推薦などで穏便に大学への進学を決めたひとか。
はたまた……。
「都っ倉さんおっはよぉー」
私の隣に座る第四の少数派である、非・就職組、またの名をフリーター組と呼ばれる、坂田くんを代表とするひとたちだ。
先日マキが座っていたのはその席であり、『失せろ』と言うべきだったのは彼のほうだったかもしれない。
別段小柄でもないのに、尋常じゃなく低い椅子に彼は座る。たまに彼の席に座るひとがいるとうわびっくりした! と腰を抜かしそうになる。イタズラとも思える自身の椅子の低さについて彼は、
こうせんと落ち着かへんのや。
……いろんな意味で豪放磊落、しかし、好きなひとの動向に目ざとい。「みっ、やざっわさぁーん! おっはよぉーオレと過ごせる素敵な朝がきょぉおーも来たでぇー!」
抱きつきにかかる彼を片手一本で華麗に薙ぎ払い、紗優は緊張の面持ちでやってきた。「今日、……やったよね」
「うん」
作ろうとしている笑顔が硬い。
「九時からなんだけどね、……休み時間に聞くのも落ち着かないと思って。昼休みに電話しようと思ってる」
「そうか。そうやよね……」
長いまつげを伏せ、唇を引き結ぶ。
「なになに? なんの話ぃ?」
「あんったには関係無い」
「まあまあ……」私を除いて三人だったらば宥めるのは和貴の役割だ。
大して傷ついた様子もなく坂田くんが自席に座ると目線が同じ高さとなった、伊達眼鏡のフレームに視線が行くのを意識しながらに、私は彼に明かす。「私、こないだ私立受けに学校休んだでしょう? その結果が出たの。電話で聞けるんだ」
「へー。紙で送ってこんのや」
「そう。受験票の番号を打ち込めばどこでも合否が分かる。便利なんだけどちょっと……怖いよね」
紗優の硬い表情を見て、なんてことのないよう明るく口にしていたが、実は緊張していた。笑ってみてそれが分かった。
「そこが、本命なんやな」
す、と伊達眼鏡を外し、ポケットに仕舞う。
あまり見せない、ステージ上の『ハル』に近い真顔だった。
「うん……その通りだよ。よく分かったね」
「宮沢さんの顔色見てすぅぐ分かった。だっていぃつも宮沢さんのことばっか見とるもんオレ」
モーションをかける彼に一瞥もくれず、紗優は私だけに伝えた。「じゃ、またお昼に来るから」
「まったなーみっやざわさぁーん」
不二子ちゃんに振られ続けるルパンのノリだ。
……不毛だ。
手を振っていた坂田くんが、私に気づいて目を丸くした。「どしたが。都倉さん顔赤うして。なんやらオレが好きでたまらんて目ぇしとる……」
二番目のセンテンス以降は無視をする。
私は自習の準備を整えながらに訊いた。
「諦めようと思ったことって、無いの?」
紗優のこと、と早口で付け足す。
「オレが、なして?」彼は勉強の心づもりがないらしく、音楽雑誌を二冊、机に取り出しつつ、寸時こちらに首を捻る。『CROSSBEAT』と『Rockin' on』、後者は洋楽中心のほう。
「言いにくいんだけど……ぜんぜん相手にされてないよ」
紗優のほうを一瞬、見やった。既に席につき、シリアスに国語の教科書を読んでいる。
「嫌よ嫌よも好きのうち。……ああ見えてな。宮沢さんはオレのことが気になってしゃーないんや」ニッカリ笑った坂田くんは内緒ばなしをするように私に顔を寄せ、「そーゆー素直に口に出せへんとこ含めてオレは好きなんや」
いえ、
どう見ても脈なしですが。
頬杖をつきつつ私は彼と距離を置く。「そういう……自信過剰なところは和貴にそっくりだよね」
ち、ち、と舌打ちに合わせて人差し指を左右に振る。
「あっまいなあ都倉はん……」
あんまり見ないなそのジェスチャー。
彼は、雑誌と教科書を合わせとんとん整える。
いや、雑誌持ってんのバレバレだし。整えても意味無いって。
「桜井はんは自信家なんかやあらしゃいませんでえ」
――意外だ。
注意をたっぷり引きつけて企み笑う、このやり方も和貴と同じなのに。
「蒔田はんも、……お互いが気の遣い合いでお気の毒どす。心当たりあらしゃいませんかぁ?」
常にふてぶてしく、俺様なマキと。
少女のように可憐で愛らしい、子リスな和貴が。
気の遣い合い……?
そんな場面など想像もつかない。
坂田くんは解せない私の心理を読み取り、細い目を悠然と細める。
言葉遣いも手伝ってか、京都かそのあたりのひとに見えてきた。
「都倉はん。無意識は罪おますで。あんさんの好きなユングはんが言うとりますやろ」
「……どちらかといえば私はフロイト派なんだけど」
困惑しつつ肩をすくめる。
私の意識は坂田くんにだけ向かっていた。
再び、広げられる音楽雑誌にも。
「その、薄汚い京都弁をやめないか」
心臓を手で鷲掴みにされひやりとした。
そんな、凍てつかせる声色だった。
頬杖を外し、前を向く。
「和貴」
雰囲気に、気圧される。
青ざめた彼から静謐な怒りが伝わる。
いまの言葉を和貴が発したとはにわかに信じがたいが、この表情を見る限りは納得できる。
そしてその矛先は――坂田くん、だった。
彼のほうこそ、常日頃からの笑みを、絶やさず、ははん、と頬杖をつく余裕を崩さず、
「オレは、ほんとのことゆうたまでやでぇ?」
冷や汗が吹き出た。
ことを荒立てかねない、のんきな方向性を感じたからだ。
私の視線に気づき、にっこり、微笑み返す有様だった。
「せぇーっかく都倉さんとええ感じでくっついて喋っておったがに、ずけずけ入りよって。おまえにやめろゆわれる筋合いはないわ」
「――僕の噂をしていたからだよ。廊下まで筒抜けでさ」
和貴はコートも脱いでいない。
真っ赤なダッフルコートは顔色を明るくする。
にも関わらず私の目は、彼の顔色を蒼白、と認めた。
「噂されるよーなことするほうが悪いんや。オレはなんぼ噂されてもかまへんでぇ。後ろめたいことなんかなんもないからなぁ」
坂田くん。
どうしてこんな好戦的?
「いまは僕の話をしているんだけど」
「ほな。桜井の話をすっか……」
うぅーんと猫みたく腕を伸ばす。
思いっきり。
はーっと肩に手を添えつつ、ぽきぽき鳴らし、
「はっきりせいや」
一喝、だった。
大声など出さずともひとを震わせられる。
「おっまえがぐだぐだやっとるせいでなあ、あっちこちに被害が出とんじゃボケが」
迫力を持つマスターと、へらへらしてばかりの坂田くんとはちっともリンクしなかった。
この瞬間に、強烈に結びついた。
横顔が笑っているが、まるで別人の声だ。和貴の勢いを削ぐほどのものだった。
「アホの坂田になにが分かる」
珍しく和貴が声を荒げるも、横顔で見る限り実は坂田くんの笑みは変わらない。
違うのは、――声の出し方と発言内容の、たった二点。
「そや。……アホや。せやけど気持ちにはしょーじきに生きておるで」
「失うものも背負うものもないおまえになにが分かるっ」
「はん?」こき、と今度は逆の肩を鳴らした。「分かるわけないやろおまえのことなんか。いいか、オレこそおまえに分かるよーに教えたる。耳の穴かっぽじって聞けいや。いまのおまえはなぁ、戦に出るのもできひんでびびって小便ちびっとる兵隊さんとおんなじや」
「――貴様」
かばんが落ちる。
振り落としたその和貴の手が、坂田くんの胸ぐらを掴んでいた。
力の限り自分の側に引き寄せる。
坂田くんのポロシャツが伸びてしまうほどに。
「和貴、ちょっと、落ち着いて」
小さく叫んだ。
が駄目だ。和貴は坂田くんしか見ていない。
「坂田くん。言い過ぎだよ」
坂田くんも同様。
それどころか笑みを作るカーブが角度を増す。
首を締められかねない体勢なのに。
「おんまえ、頭に血ぃのぼるとダメダメやなー? ……水野んときから進歩ないわ」
つよく、和貴の瞳が見開かれた。
感情の動き、なにか思い出したのか。
それを掴み、荒っぽく、坂田くんを振り払った。
坂田くんは、座ったまま、それでも、変わらない笑顔を向け――
こめかみの血管を浮かせた和貴は、歯を食いしばることでなにかを堪えた。
「ちょっかいかけるのは紗優だけじゃ足りないんだね、坂田は」
せり上がる怒りをその押し殺しその一言だけに込め、彼は、かばんを拾い、後方の自分の席へと向かった。出遅れて、おぉーい桜井ぃーコートくらい脱げやぁーと教室に入ってきた宮本先生に言われていた。はい、と殊勝に答える姿がいつもより小さく見えた。
私は、隣の、相っ変わらずへらへら笑う彼を睨みつけた。
内容は全然掴めなかったけれど、とにかく――和貴を挑発した。
怒るのを分かっていて更に怒らせたのには違いない。
「……いぃくらかっこいいかてあんまオレに見惚れんなや」
彼をいてこましたい衝動が噴きだしたが、すんでのところで堪えた。
当の和貴が堪えたのに私が切れてどうする。
――お陰で。
昼休みに紗優が迎えに来るまで、すっかり合否のことを忘れていられた。
私大の入試がいよいよ本格的に始まるため。
連日登校するのは主に、四つの立場の人間に限られる。第一に和貴のように就職を決めたひと、第二に紗優と同じく専門学校への進学を決めたひと。第三が水野くんと同じくスポーツ推薦などで穏便に大学への進学を決めたひとか。
はたまた……。
「都っ倉さんおっはよぉー」
私の隣に座る第四の少数派である、非・就職組、またの名をフリーター組と呼ばれる、坂田くんを代表とするひとたちだ。
先日マキが座っていたのはその席であり、『失せろ』と言うべきだったのは彼のほうだったかもしれない。
別段小柄でもないのに、尋常じゃなく低い椅子に彼は座る。たまに彼の席に座るひとがいるとうわびっくりした! と腰を抜かしそうになる。イタズラとも思える自身の椅子の低さについて彼は、
こうせんと落ち着かへんのや。
……いろんな意味で豪放磊落、しかし、好きなひとの動向に目ざとい。「みっ、やざっわさぁーん! おっはよぉーオレと過ごせる素敵な朝がきょぉおーも来たでぇー!」
抱きつきにかかる彼を片手一本で華麗に薙ぎ払い、紗優は緊張の面持ちでやってきた。「今日、……やったよね」
「うん」
作ろうとしている笑顔が硬い。
「九時からなんだけどね、……休み時間に聞くのも落ち着かないと思って。昼休みに電話しようと思ってる」
「そうか。そうやよね……」
長いまつげを伏せ、唇を引き結ぶ。
「なになに? なんの話ぃ?」
「あんったには関係無い」
「まあまあ……」私を除いて三人だったらば宥めるのは和貴の役割だ。
大して傷ついた様子もなく坂田くんが自席に座ると目線が同じ高さとなった、伊達眼鏡のフレームに視線が行くのを意識しながらに、私は彼に明かす。「私、こないだ私立受けに学校休んだでしょう? その結果が出たの。電話で聞けるんだ」
「へー。紙で送ってこんのや」
「そう。受験票の番号を打ち込めばどこでも合否が分かる。便利なんだけどちょっと……怖いよね」
紗優の硬い表情を見て、なんてことのないよう明るく口にしていたが、実は緊張していた。笑ってみてそれが分かった。
「そこが、本命なんやな」
す、と伊達眼鏡を外し、ポケットに仕舞う。
あまり見せない、ステージ上の『ハル』に近い真顔だった。
「うん……その通りだよ。よく分かったね」
「宮沢さんの顔色見てすぅぐ分かった。だっていぃつも宮沢さんのことばっか見とるもんオレ」
モーションをかける彼に一瞥もくれず、紗優は私だけに伝えた。「じゃ、またお昼に来るから」
「まったなーみっやざわさぁーん」
不二子ちゃんに振られ続けるルパンのノリだ。
……不毛だ。
手を振っていた坂田くんが、私に気づいて目を丸くした。「どしたが。都倉さん顔赤うして。なんやらオレが好きでたまらんて目ぇしとる……」
二番目のセンテンス以降は無視をする。
私は自習の準備を整えながらに訊いた。
「諦めようと思ったことって、無いの?」
紗優のこと、と早口で付け足す。
「オレが、なして?」彼は勉強の心づもりがないらしく、音楽雑誌を二冊、机に取り出しつつ、寸時こちらに首を捻る。『CROSSBEAT』と『Rockin' on』、後者は洋楽中心のほう。
「言いにくいんだけど……ぜんぜん相手にされてないよ」
紗優のほうを一瞬、見やった。既に席につき、シリアスに国語の教科書を読んでいる。
「嫌よ嫌よも好きのうち。……ああ見えてな。宮沢さんはオレのことが気になってしゃーないんや」ニッカリ笑った坂田くんは内緒ばなしをするように私に顔を寄せ、「そーゆー素直に口に出せへんとこ含めてオレは好きなんや」
いえ、
どう見ても脈なしですが。
頬杖をつきつつ私は彼と距離を置く。「そういう……自信過剰なところは和貴にそっくりだよね」
ち、ち、と舌打ちに合わせて人差し指を左右に振る。
「あっまいなあ都倉はん……」
あんまり見ないなそのジェスチャー。
彼は、雑誌と教科書を合わせとんとん整える。
いや、雑誌持ってんのバレバレだし。整えても意味無いって。
「桜井はんは自信家なんかやあらしゃいませんでえ」
――意外だ。
注意をたっぷり引きつけて企み笑う、このやり方も和貴と同じなのに。
「蒔田はんも、……お互いが気の遣い合いでお気の毒どす。心当たりあらしゃいませんかぁ?」
常にふてぶてしく、俺様なマキと。
少女のように可憐で愛らしい、子リスな和貴が。
気の遣い合い……?
そんな場面など想像もつかない。
坂田くんは解せない私の心理を読み取り、細い目を悠然と細める。
言葉遣いも手伝ってか、京都かそのあたりのひとに見えてきた。
「都倉はん。無意識は罪おますで。あんさんの好きなユングはんが言うとりますやろ」
「……どちらかといえば私はフロイト派なんだけど」
困惑しつつ肩をすくめる。
私の意識は坂田くんにだけ向かっていた。
再び、広げられる音楽雑誌にも。
「その、薄汚い京都弁をやめないか」
心臓を手で鷲掴みにされひやりとした。
そんな、凍てつかせる声色だった。
頬杖を外し、前を向く。
「和貴」
雰囲気に、気圧される。
青ざめた彼から静謐な怒りが伝わる。
いまの言葉を和貴が発したとはにわかに信じがたいが、この表情を見る限りは納得できる。
そしてその矛先は――坂田くん、だった。
彼のほうこそ、常日頃からの笑みを、絶やさず、ははん、と頬杖をつく余裕を崩さず、
「オレは、ほんとのことゆうたまでやでぇ?」
冷や汗が吹き出た。
ことを荒立てかねない、のんきな方向性を感じたからだ。
私の視線に気づき、にっこり、微笑み返す有様だった。
「せぇーっかく都倉さんとええ感じでくっついて喋っておったがに、ずけずけ入りよって。おまえにやめろゆわれる筋合いはないわ」
「――僕の噂をしていたからだよ。廊下まで筒抜けでさ」
和貴はコートも脱いでいない。
真っ赤なダッフルコートは顔色を明るくする。
にも関わらず私の目は、彼の顔色を蒼白、と認めた。
「噂されるよーなことするほうが悪いんや。オレはなんぼ噂されてもかまへんでぇ。後ろめたいことなんかなんもないからなぁ」
坂田くん。
どうしてこんな好戦的?
「いまは僕の話をしているんだけど」
「ほな。桜井の話をすっか……」
うぅーんと猫みたく腕を伸ばす。
思いっきり。
はーっと肩に手を添えつつ、ぽきぽき鳴らし、
「はっきりせいや」
一喝、だった。
大声など出さずともひとを震わせられる。
「おっまえがぐだぐだやっとるせいでなあ、あっちこちに被害が出とんじゃボケが」
迫力を持つマスターと、へらへらしてばかりの坂田くんとはちっともリンクしなかった。
この瞬間に、強烈に結びついた。
横顔が笑っているが、まるで別人の声だ。和貴の勢いを削ぐほどのものだった。
「アホの坂田になにが分かる」
珍しく和貴が声を荒げるも、横顔で見る限り実は坂田くんの笑みは変わらない。
違うのは、――声の出し方と発言内容の、たった二点。
「そや。……アホや。せやけど気持ちにはしょーじきに生きておるで」
「失うものも背負うものもないおまえになにが分かるっ」
「はん?」こき、と今度は逆の肩を鳴らした。「分かるわけないやろおまえのことなんか。いいか、オレこそおまえに分かるよーに教えたる。耳の穴かっぽじって聞けいや。いまのおまえはなぁ、戦に出るのもできひんでびびって小便ちびっとる兵隊さんとおんなじや」
「――貴様」
かばんが落ちる。
振り落としたその和貴の手が、坂田くんの胸ぐらを掴んでいた。
力の限り自分の側に引き寄せる。
坂田くんのポロシャツが伸びてしまうほどに。
「和貴、ちょっと、落ち着いて」
小さく叫んだ。
が駄目だ。和貴は坂田くんしか見ていない。
「坂田くん。言い過ぎだよ」
坂田くんも同様。
それどころか笑みを作るカーブが角度を増す。
首を締められかねない体勢なのに。
「おんまえ、頭に血ぃのぼるとダメダメやなー? ……水野んときから進歩ないわ」
つよく、和貴の瞳が見開かれた。
感情の動き、なにか思い出したのか。
それを掴み、荒っぽく、坂田くんを振り払った。
坂田くんは、座ったまま、それでも、変わらない笑顔を向け――
こめかみの血管を浮かせた和貴は、歯を食いしばることでなにかを堪えた。
「ちょっかいかけるのは紗優だけじゃ足りないんだね、坂田は」
せり上がる怒りをその押し殺しその一言だけに込め、彼は、かばんを拾い、後方の自分の席へと向かった。出遅れて、おぉーい桜井ぃーコートくらい脱げやぁーと教室に入ってきた宮本先生に言われていた。はい、と殊勝に答える姿がいつもより小さく見えた。
私は、隣の、相っ変わらずへらへら笑う彼を睨みつけた。
内容は全然掴めなかったけれど、とにかく――和貴を挑発した。
怒るのを分かっていて更に怒らせたのには違いない。
「……いぃくらかっこいいかてあんまオレに見惚れんなや」
彼をいてこましたい衝動が噴きだしたが、すんでのところで堪えた。
当の和貴が堪えたのに私が切れてどうする。
――お陰で。
昼休みに紗優が迎えに来るまで、すっかり合否のことを忘れていられた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる