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pretender
第五話(3)過去の女 *【最終話】
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いままでの知識と経験を総動員させる。
出せるすべてを彼女に伝える――緊張で友哉の手はふるえた。だがそんな煩悶をおくびにもださず、彼は、しっとりとした早帆の肌に指を滑らせる。
二十代の肌だな、と友哉は思う。触れただけで相手の女の年齢が分かるようになってしまった。二十代の肌は、無敵だ。強がりで、水分が多く、はりが強い。
ぴんと立った乳首を口のなかで転がすと彼女の表情が動いた。――いいのか、と彼は思う。
思えば、十年前のあのときは、早帆の表情を確かめる余裕などなかった。自分のことばかりで――それに、映像で得た知識が彼の妄想を逞しくした。強引なくらいにやられるのが女は好きだと思い込んでいた。あまたの肌に触れたいまの彼ならば、あれは間違いだったと断言出来るのだが。
やわらかな乳房を揉みしだき、その頂点に快楽を与える。――すこし、強引に、股の間に足を割り入れ、彼女の度合いを確かめてやる。
「……濡れてる」
敢えて、言葉で伝えるのが友哉の常套手段だ。ぐりぐりと膝頭をあまったるい液を排出するそこに押し付け、
「さーちゃんのここ、こんなになってるの……分かる?」
「許さない、って思っていたのに……」早帆の目から涙がこぼれる。「大嫌い。あたしが、どれだけ苦しい思いをしてきたと思っているの。……なのになのに。
あたしを気持ち良くするあなたなんか大っ嫌い。消えて」
そのとき、友哉は、早帆の唇を塞いだ。
彼は、絶対に、顧客にキスはしないと決めている。約束もしている。その禁を、サービスの提供者である彼自らが破ったかたちだ。
久しぶりに味わう女の口のなかはあまかった。その甘みを堪能せんと、友哉の舌が、動く。野性的に。支配的に。
いま、この場を支配するのは、大友友哉、そのひとであった。
過去も、未来もないまぜにした口づけ。熱い舌と舌を絡ませると、彼女の体温があがったのが分かる。――感じているのか。そのことが、友哉には、涙が出るほどに嬉しかった。
許してくれとは言わない。あれは、間違いだった。
確かに、女性の性を曲解するものを与え続けるあの手の映像の作成者にも世間的風潮にも問題はあるであろう。が、それをそれと割り切り、いざ女性に向き合うときは、相手の反応を確かめる男が大多数――
ではないことを、友哉は経験から知っている。
自分の犯した罪のぶんも。
自分の知らない男たちが犯した罪のぶんも、友哉は償うつもりでいる。それが、いま目の前にいる、被害者である早帆のために出来ることなのだから。
たっぷりと唾液をすすりあげ、感度を高めたうえで、彼女の全身に舌を這わせる。すこしずつ、丁寧に。
早く欲しい、と思わせるほどに、焦らすのが肝である。あまり早く挿入してしまっては、面白くない。
自然と、彼女の口が開いた。そこを友哉は舐めとった。吸い上げる。
「……っ、あぁあっ……」
その境地へと連れていかれたのが分かっていた。男を受け入れるそこは、薔薇の花のように美しく咲いていた。
もう、――入りたい。
手早く装着し、友哉は、早帆とひとつになった。
眼前に星が流れ、命の尊さを訴えくる。染めあがる夜空に星が瞬いていた。
この美しい景色を彼女も見ているのだろうか――確信を強め、彼女の秘めた奥へ、奥へと進む。
女のそこは森の中のような深淵を携えていた。待ち構えるそこで、大きく花開く。
感じたことのない興奮を感じていた。抑えきれないほどの衝動が腹の底から湧く、だがその野性で自分を見失ってはいけない。彼女は彼の顧客なのだから。
「いいよ……いっても。友哉……」
彼女が気づいた。視線が絡まる。うるんだ彼女の瞳にはもう、憎しみなど残っていなかった。
「……さーちゃん」
「過去も未来もどうでもいいから。気持ちよくしてよ……お願い」
彼女のほうも限界なのだろう。暴力的なまでに彼女を愛した。応える彼女の肉体と精神が愛おしかった。時間をかけて丁寧に愛しこめば愛しこむだけ女の身体は反応する。至極当たり前の自然の摂理を直視し、友哉は恐れを感じた。
これ以上出来ないほどに女を愛しこみ、彼女自身知らなかったであろう彼女を表出させる。――性の愉しみはここにある。
限りない情交の合間に、しっかりと彼女の身体を抱き締めた。繋ぎ合うこころとからだがただ、愛おしかった。
「――許さないから」
去り際、彼女が言い放った。
「……うん。分かってる」
「でも、今日のあなたは、よかった……正直。全部水に流してもいいって思えたくらい」
――その台詞を聞けただけで、充分だ。
一歩彼女に踏み込んだ友哉は、彼女の華奢なからだを抱き締めた。――尊い、尊い存在。人間は、生まれてきただけで意味があるのだ。
生まれてきたことこそに、意味がある。
出生率があがり、乳児の死亡率が下がったいまとて、流産や死産は他人ごとではない。たったひとりの命を産み落とすために、父親、母親、彼らの関係者、医療に従事する人間――どれほどの人間が関わっているのか。その意味を知る人間は、自死する道を選ばない。選ぶはずがない。
様々な女性との経験を重ねるうちに、友哉は、女性の扱いに熟練していくだけでなく、生命そのものの尊さを感じるようになった。
「……許してくれとは言わない。さーちゃん。でも、ぼくは、これからも、……自分に出来ることをしていくよ」
「腰とか痛めないでね。年なんだから」
「まだまだ現役だよ。二十代だもん」
そして友哉は彼女のウエストを挟み込み、小さく鼻の頭にキスを落とした。くすぐったそうなその表情が友哉の胸を苦しくさせた。こんなにもか弱い存在に、なんという暴力をふるってしまったのだろう。謝って許される問題などではないのだ。
だから、自分に出来ることをこれからもしていく。
「……さよなら。あたしのことは忘れて」
「忘れない」と断言する友哉。「さーちゃんは、代わりなどいない、世界中でたったひとりの人間なんだよ。……忘れない」
表情を変えず、彼女はなんだか切なそうな顔で、
「元気で」
「ありがとう。さよなら……」
ひとのごった返す改札へと消えていった。やがて――見えなくなる。
出来ることはすべてやった。ベストを尽くした。
彼女のなかで、あの傷が癒えることを祈るほかあるまい。
冬空を見上げ、友哉は小さく息を吐いた。なんだか、無性に、人肌が恋しくなった。
様々な女性の顔が浮かんでは消えていく。――姑にいびられ、苦しみを打ち明けたあのひと。
レイプされた苦しみを吐き出したあの子。
主婦だと嘘をついて、友哉の技術に疑いをかけてやってきたあのひと――そう、いままでの女性のなかであのひとが一番相性がよかったと思う。仮に、いままでに寝た女性のなかで誰と一緒になるかと聞かれればあのひとを選ぶ。
けども、たらればの話だ。友哉は、いまという現実を生きている。
無自覚のうちに、ひとを傷つけることがある。
出来るのは、そう、立ち止まることなどではなく、いま自分に出来る贖罪を見出し、これからの自分を豊かにするために生きていくことなのだ。
決意を新たにした友哉は、明日に続く道を歩いていく。明日へと繋がる今日を。
今年初めての雪が、いまを懸命に生きる人間たちに音もなく降り注ぎ、友哉のコートを濡らす。季節の移り変わる瞬間を感じながら友哉は、また新たな一歩を踏み出した。
―完―
出せるすべてを彼女に伝える――緊張で友哉の手はふるえた。だがそんな煩悶をおくびにもださず、彼は、しっとりとした早帆の肌に指を滑らせる。
二十代の肌だな、と友哉は思う。触れただけで相手の女の年齢が分かるようになってしまった。二十代の肌は、無敵だ。強がりで、水分が多く、はりが強い。
ぴんと立った乳首を口のなかで転がすと彼女の表情が動いた。――いいのか、と彼は思う。
思えば、十年前のあのときは、早帆の表情を確かめる余裕などなかった。自分のことばかりで――それに、映像で得た知識が彼の妄想を逞しくした。強引なくらいにやられるのが女は好きだと思い込んでいた。あまたの肌に触れたいまの彼ならば、あれは間違いだったと断言出来るのだが。
やわらかな乳房を揉みしだき、その頂点に快楽を与える。――すこし、強引に、股の間に足を割り入れ、彼女の度合いを確かめてやる。
「……濡れてる」
敢えて、言葉で伝えるのが友哉の常套手段だ。ぐりぐりと膝頭をあまったるい液を排出するそこに押し付け、
「さーちゃんのここ、こんなになってるの……分かる?」
「許さない、って思っていたのに……」早帆の目から涙がこぼれる。「大嫌い。あたしが、どれだけ苦しい思いをしてきたと思っているの。……なのになのに。
あたしを気持ち良くするあなたなんか大っ嫌い。消えて」
そのとき、友哉は、早帆の唇を塞いだ。
彼は、絶対に、顧客にキスはしないと決めている。約束もしている。その禁を、サービスの提供者である彼自らが破ったかたちだ。
久しぶりに味わう女の口のなかはあまかった。その甘みを堪能せんと、友哉の舌が、動く。野性的に。支配的に。
いま、この場を支配するのは、大友友哉、そのひとであった。
過去も、未来もないまぜにした口づけ。熱い舌と舌を絡ませると、彼女の体温があがったのが分かる。――感じているのか。そのことが、友哉には、涙が出るほどに嬉しかった。
許してくれとは言わない。あれは、間違いだった。
確かに、女性の性を曲解するものを与え続けるあの手の映像の作成者にも世間的風潮にも問題はあるであろう。が、それをそれと割り切り、いざ女性に向き合うときは、相手の反応を確かめる男が大多数――
ではないことを、友哉は経験から知っている。
自分の犯した罪のぶんも。
自分の知らない男たちが犯した罪のぶんも、友哉は償うつもりでいる。それが、いま目の前にいる、被害者である早帆のために出来ることなのだから。
たっぷりと唾液をすすりあげ、感度を高めたうえで、彼女の全身に舌を這わせる。すこしずつ、丁寧に。
早く欲しい、と思わせるほどに、焦らすのが肝である。あまり早く挿入してしまっては、面白くない。
自然と、彼女の口が開いた。そこを友哉は舐めとった。吸い上げる。
「……っ、あぁあっ……」
その境地へと連れていかれたのが分かっていた。男を受け入れるそこは、薔薇の花のように美しく咲いていた。
もう、――入りたい。
手早く装着し、友哉は、早帆とひとつになった。
眼前に星が流れ、命の尊さを訴えくる。染めあがる夜空に星が瞬いていた。
この美しい景色を彼女も見ているのだろうか――確信を強め、彼女の秘めた奥へ、奥へと進む。
女のそこは森の中のような深淵を携えていた。待ち構えるそこで、大きく花開く。
感じたことのない興奮を感じていた。抑えきれないほどの衝動が腹の底から湧く、だがその野性で自分を見失ってはいけない。彼女は彼の顧客なのだから。
「いいよ……いっても。友哉……」
彼女が気づいた。視線が絡まる。うるんだ彼女の瞳にはもう、憎しみなど残っていなかった。
「……さーちゃん」
「過去も未来もどうでもいいから。気持ちよくしてよ……お願い」
彼女のほうも限界なのだろう。暴力的なまでに彼女を愛した。応える彼女の肉体と精神が愛おしかった。時間をかけて丁寧に愛しこめば愛しこむだけ女の身体は反応する。至極当たり前の自然の摂理を直視し、友哉は恐れを感じた。
これ以上出来ないほどに女を愛しこみ、彼女自身知らなかったであろう彼女を表出させる。――性の愉しみはここにある。
限りない情交の合間に、しっかりと彼女の身体を抱き締めた。繋ぎ合うこころとからだがただ、愛おしかった。
「――許さないから」
去り際、彼女が言い放った。
「……うん。分かってる」
「でも、今日のあなたは、よかった……正直。全部水に流してもいいって思えたくらい」
――その台詞を聞けただけで、充分だ。
一歩彼女に踏み込んだ友哉は、彼女の華奢なからだを抱き締めた。――尊い、尊い存在。人間は、生まれてきただけで意味があるのだ。
生まれてきたことこそに、意味がある。
出生率があがり、乳児の死亡率が下がったいまとて、流産や死産は他人ごとではない。たったひとりの命を産み落とすために、父親、母親、彼らの関係者、医療に従事する人間――どれほどの人間が関わっているのか。その意味を知る人間は、自死する道を選ばない。選ぶはずがない。
様々な女性との経験を重ねるうちに、友哉は、女性の扱いに熟練していくだけでなく、生命そのものの尊さを感じるようになった。
「……許してくれとは言わない。さーちゃん。でも、ぼくは、これからも、……自分に出来ることをしていくよ」
「腰とか痛めないでね。年なんだから」
「まだまだ現役だよ。二十代だもん」
そして友哉は彼女のウエストを挟み込み、小さく鼻の頭にキスを落とした。くすぐったそうなその表情が友哉の胸を苦しくさせた。こんなにもか弱い存在に、なんという暴力をふるってしまったのだろう。謝って許される問題などではないのだ。
だから、自分に出来ることをこれからもしていく。
「……さよなら。あたしのことは忘れて」
「忘れない」と断言する友哉。「さーちゃんは、代わりなどいない、世界中でたったひとりの人間なんだよ。……忘れない」
表情を変えず、彼女はなんだか切なそうな顔で、
「元気で」
「ありがとう。さよなら……」
ひとのごった返す改札へと消えていった。やがて――見えなくなる。
出来ることはすべてやった。ベストを尽くした。
彼女のなかで、あの傷が癒えることを祈るほかあるまい。
冬空を見上げ、友哉は小さく息を吐いた。なんだか、無性に、人肌が恋しくなった。
様々な女性の顔が浮かんでは消えていく。――姑にいびられ、苦しみを打ち明けたあのひと。
レイプされた苦しみを吐き出したあの子。
主婦だと嘘をついて、友哉の技術に疑いをかけてやってきたあのひと――そう、いままでの女性のなかであのひとが一番相性がよかったと思う。仮に、いままでに寝た女性のなかで誰と一緒になるかと聞かれればあのひとを選ぶ。
けども、たらればの話だ。友哉は、いまという現実を生きている。
無自覚のうちに、ひとを傷つけることがある。
出来るのは、そう、立ち止まることなどではなく、いま自分に出来る贖罪を見出し、これからの自分を豊かにするために生きていくことなのだ。
決意を新たにした友哉は、明日に続く道を歩いていく。明日へと繋がる今日を。
今年初めての雪が、いまを懸命に生きる人間たちに音もなく降り注ぎ、友哉のコートを濡らす。季節の移り変わる瞬間を感じながら友哉は、また新たな一歩を踏み出した。
―完―
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