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pretender
第五話(1)過去の女
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(……嘘だろ)
待ち合わせ場所のホテルロビーに現れた女を見て、友哉は絶句した。『ミノリ』は偽名だったか。事前にやり取りしたメールの情報だけでは特定出来なかった。彼女は――
「久しぶりだねともくん。元気してる?」
「……ああ」咄嗟に言葉が浮かばなかった。が、主導権を握ろうとするほうの友哉が全力で思考を働かせようとする。「まさか、きみが現れるとは思わなかったよ。……驚いた」
女はコートを脱ぐと、畳んで隣の席に置き、友哉の正面に座った。
最後に会ったときと雰囲気が変わった。あれはそう、十年前――友哉が女性の性のなんたるかを知らない頃だった。
「……恨んでる?」
率直に友哉は訊ねた。女は、「どうかしら」と受け流す。
「あなたの名前をウェブで見つけたときは、本当に『あなた』なのか分からなかった……でも、『友哉』という字面、癖があるじゃない? ひょっとしてと思って申し込んでみたらまさかのまさか。あなただった。狙っていたわけではないのよ?」
友哉は、女の説明を聞きながら女の情報の収集に着手する。……独身。上品なスーツに身を包む辺り、裕福な生活を送っていることがうかがえる。――すこし、太ったか? 以前は痩せぎすだった体型がすこし、肉付きがよくなったように思える。
「『あれ』から、あなたはどうしていたの……?」
「仕事をして、結婚して、子どもを持って……ごくごく、平凡な主婦に成り下がったわ」
嘘だろう、と友哉は直感した。彼女の目の動きがそれを証明している。
ともあれ、友哉はそれには言及せず、彼女に調子を合わせた。「ここに申し込むきっかけかなにか、あったの?」
「……つまんなくって。毎日、毎日、同じ生活の繰り返しで……」言って彼女は高い天井を見上げる。ぶら下がるシャンデリアに興味を示したらしく、視線がそこで止まる。「化粧して仕事行って洗濯して掃除して。その繰り返しで。平凡なあたしの生きてる意味ってなんなのかなあって、最近、悩んでてね。それで、変化が欲しくなったの。
……ね、友哉はどうして『これ』を始めたの?」
――あなたを、傷つけたことが、理由だ。
と打ち明けるわけにはいかず、「紆余曲折あってね」と友哉は言葉を濁す。
「自分に向いているものがなんなのかを探した結果、これになった……気がつけばここに辿り着いていたね。手探りで始めて、次第に、少しずつだけれど、手応えを感じられるようになって……そうだね。喜んで貰えるのが嬉しいから、そのためにやっているようなものだよ。ぼくはまだまだだから、偉そうなことは言えないけれども」
「ともくん。変わったね。なんか、雰囲気が。昔は、もっと強気だったよね? オラオラ系の、強気な感じ」
指摘され、友哉は苦笑いを漏らす。「若気の至りだよ。本当に、お恥ずかしい……」
「でもジェントルマンなともくんも悪くないかも。……髪のメッシュ、なんか格好いいね」
「あーこれは。松潤がしているのを見て、格好いいと思って、真似した。というか、美容師さんが勧めてくれた。会社勤めしてるとこーいう髪型出来ないじゃん。つい、遊びたくなっちゃうんだよね」
それから、彼女の話を聞き出し、彼女の感じるポイントを探りにかかる。部屋に入る前に友哉は言葉での愛撫を開始している。――若干、『固い』。警戒心を抱いているさまが読み取れる。
よって友哉は無理強いをせず、自然に導く道を選択する。
問題は、部屋に移ってからだった。
二人ともシャワーを済ませ、いざ、行為に及ぼうとするタイミングで、彼女が、
「あたし、ともくんのこと、大っ嫌いよ。――復讐をするために、今日は、ここに、来たの……」
*
待ち合わせ場所のホテルロビーに現れた女を見て、友哉は絶句した。『ミノリ』は偽名だったか。事前にやり取りしたメールの情報だけでは特定出来なかった。彼女は――
「久しぶりだねともくん。元気してる?」
「……ああ」咄嗟に言葉が浮かばなかった。が、主導権を握ろうとするほうの友哉が全力で思考を働かせようとする。「まさか、きみが現れるとは思わなかったよ。……驚いた」
女はコートを脱ぐと、畳んで隣の席に置き、友哉の正面に座った。
最後に会ったときと雰囲気が変わった。あれはそう、十年前――友哉が女性の性のなんたるかを知らない頃だった。
「……恨んでる?」
率直に友哉は訊ねた。女は、「どうかしら」と受け流す。
「あなたの名前をウェブで見つけたときは、本当に『あなた』なのか分からなかった……でも、『友哉』という字面、癖があるじゃない? ひょっとしてと思って申し込んでみたらまさかのまさか。あなただった。狙っていたわけではないのよ?」
友哉は、女の説明を聞きながら女の情報の収集に着手する。……独身。上品なスーツに身を包む辺り、裕福な生活を送っていることがうかがえる。――すこし、太ったか? 以前は痩せぎすだった体型がすこし、肉付きがよくなったように思える。
「『あれ』から、あなたはどうしていたの……?」
「仕事をして、結婚して、子どもを持って……ごくごく、平凡な主婦に成り下がったわ」
嘘だろう、と友哉は直感した。彼女の目の動きがそれを証明している。
ともあれ、友哉はそれには言及せず、彼女に調子を合わせた。「ここに申し込むきっかけかなにか、あったの?」
「……つまんなくって。毎日、毎日、同じ生活の繰り返しで……」言って彼女は高い天井を見上げる。ぶら下がるシャンデリアに興味を示したらしく、視線がそこで止まる。「化粧して仕事行って洗濯して掃除して。その繰り返しで。平凡なあたしの生きてる意味ってなんなのかなあって、最近、悩んでてね。それで、変化が欲しくなったの。
……ね、友哉はどうして『これ』を始めたの?」
――あなたを、傷つけたことが、理由だ。
と打ち明けるわけにはいかず、「紆余曲折あってね」と友哉は言葉を濁す。
「自分に向いているものがなんなのかを探した結果、これになった……気がつけばここに辿り着いていたね。手探りで始めて、次第に、少しずつだけれど、手応えを感じられるようになって……そうだね。喜んで貰えるのが嬉しいから、そのためにやっているようなものだよ。ぼくはまだまだだから、偉そうなことは言えないけれども」
「ともくん。変わったね。なんか、雰囲気が。昔は、もっと強気だったよね? オラオラ系の、強気な感じ」
指摘され、友哉は苦笑いを漏らす。「若気の至りだよ。本当に、お恥ずかしい……」
「でもジェントルマンなともくんも悪くないかも。……髪のメッシュ、なんか格好いいね」
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それから、彼女の話を聞き出し、彼女の感じるポイントを探りにかかる。部屋に入る前に友哉は言葉での愛撫を開始している。――若干、『固い』。警戒心を抱いているさまが読み取れる。
よって友哉は無理強いをせず、自然に導く道を選択する。
問題は、部屋に移ってからだった。
二人ともシャワーを済ませ、いざ、行為に及ぼうとするタイミングで、彼女が、
「あたし、ともくんのこと、大っ嫌いよ。――復讐をするために、今日は、ここに、来たの……」
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