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第三話(3)愛す女 *

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 本当の自分がこんなにも淫らだなんて知らなかった。――例えば、サッカー選手は足を、まるで手のように器用に扱う。パラリンピックの選手も。
 セックスと、神聖なるスポーツを比較検討するのもおかしな話かもしれまいが、多恵子のなかで、友哉のペニスは確固たる意志を持った手の如く動いた。
 狡猾に。流麗に。
「――あ。あ、あぁああああーーっ!」
 出したことのない、大声が出る。股を開き、足の先を突っ張らせ。
 と、その足の指先を撫でられ、
「頑張り屋さんなんだね……多恵ちゃん」
 友哉の言うところが分からず、絶頂のさなか、硬直する多恵子に、
「かたーくなっちゃうから。力、入っちゃうんだよねうんうん。
 機会があったらオナニーの仕方も教えてあげるからうん。
 あんまり、自分を追い込まない方向で、自分を解放させるやり方を、覚えといたほうがいいね。やっぱヨガだよなー」
 そして多恵子のからだに伸し掛かり、ぴっちり上半身を密着させる。二人は、まるで、絡まる糸だ。全身で多恵子の欲動を味わおうとせん友哉が、
「ああ多恵ちゃんの、びくびく、ってする感じ気持ちいい……幸せ」
 大部分が圧倒的なる快楽に支配されながらも、1%くらいの多恵子が冷静に問いかける。――演技。それとも本音?
 恐ろしいことに友哉の腰使いは止まらない。高みにのぼりつめているさなかの多恵子に、また新しい景色を見せようとしているのだ。
 赤子のように、多恵子は大泣きした。泣き叫んだ。感覚も声も馬鹿になったみたいだった。
 信じられないマグマの渦に投じられ、その中心にいるのは他の誰でもない、自分自身――なのだった。

 帰り際、ふたりは言葉少なだった。
 建物を出ると、友哉が、
「もし――それを恥ずかしいことだと思っているのなら、それは、違う。
 人間は、さらけ出す生き物なんだよ。多恵ちゃん。
 赦し、赦されて生きていくんだ――。
 使えるものは、なんだって使ったっていい。
 頼ることが、恥ずかしいことだなんてぼくは思わない――なにも、ぼくが、こうしたサービスの提供者であること関係なしにね。
 ひとに言えない秘密なんか、誰だってあるさ。ぼくにもある。
 だけど――多恵ちゃん。
 いつかきっと、ぼくの言う意味が分かる日が来る。いまはまだ、混乱のさなかにいるかもしれないけれども。
 多恵ちゃん――ぼくは、きみのために出来ることがあるのなら、なんだってするから。
 遠慮なく、言って。ね?」
 ご丁寧にも別れ際に、行きつけのバーの名刺も渡してくれた。
 ひとり、帰宅した多恵子は、先ず、自分を追い込んだ後に、友哉の渡した名刺を見る。素敵なデザイン。フォントも色も凝っている。押しつけがましくならない程度に個性を出すこういうのには、オーナーの性格が露骨に出る。
 それでも、多恵子は。
 友哉に会うときはあくまで客の顔を貫こうと決めた。
 それは、限りない絶頂に導いてくれた友哉のサービスに対する敬意に基づいてのことであった。

 *
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