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第二部――『おれの彼女のおっぱいは世界一!』
◆3 *
しおりを挟むもうすぐ、けいちゃんの誕生日だよね。なにが欲しい?
居酒屋にて彼氏のぶんの焼き鳥を箸で櫛から外しながら最愛の彼女がそんなふうに訊くものだから。
間髪入れずに丈一郎は答えた。
『裸エプロンで綾乃がおれのことおかえりなさいって玄関で出迎えしてそのあと台所でおまえのこと立ちバックであんあんよがらせたい』
* * *
それを聞いたときの彼女の表情といったら――傑作だった。
綾乃以上に可愛い生き物を丈一郎は知らない。
泣いたり、笑ったり、ときには怒ったりとなんと、忙しいのだろう。
むくれる顔ひとつとっても丈一郎には愛おしくてたまらない。
こうして仕事をして帰る道中も、思い返して頬が緩んでしまうくらいだ。
もうすぐ綾乃に会える。
酒でも買って帰ろうか。思いついていつもお世話になっているスーパーに寄ってみた。ケーキは、要らないだろう。綾乃が用意しているはずだ。
彼女はずっと去年の誕生日のことを気に病んでいた。
丈一郎は、あの日綾乃に会う前に、彼女が一条(いちじょう)誠治(せいじ)と別れたことを知っていた。
* * *
二十日間連続で仕事をしていた状況を不憫に思った上司が、その日は午前で返してくれた。有休も振休も溜まりまくっていたから丈一郎が拒む理由はなかった。
会社を出た途端、携帯に電話があった。大学の先輩からだった。
『小池くん、誠治くんが婚約したのを、知ってる?』
『は?』目の前が暗くなった。一条誠治は、同じ大学の、学年がひとつうえの先輩であり、丈一郎の最愛の女性の彼氏であるから、知ってはいる。まさか彼が――
綾乃と婚約をしただと?
気配で丈一郎の動揺を察してか、電話の相手は『違うわよ』と笑った。
『お相手は、三沢(みさわ)財閥の令嬢よ。なんでも、生まれたときから結婚する相手が決まっていたらしいわよ。これね。まだ、内々の情報だからね。分かっていると思うけど、あなたの胸のうちだけに留めておいて』
『とすると、綾乃は……』
『決まっているでしょう』
そのあと、なにを話したのかはあまり印象にない。情報を提供してくれたことへの礼は伝えたと思う。彼女は、一条家と仲の良いお嬢様で、丈一郎の不憫な片想いのことも、一条と綾乃が恋人関係にあることも知っている。知っていたうえで、丈一郎のためにいちはやく教えてくれたのだ。
とりあえず会社のある駅から自分の住むマンションの最寄り駅へと移動し、駅近くのコーヒーショップに入ったと思う。不思議と、移動した記憶も電車に乗った記憶も残っていない。だが人間、頭が真っ白でも行動はできるものだ。
丈一郎の頭のなかには、疑問と疑念が渦巻いていた。思考能力が著しく低下していた。コーヒーの味が感じられなかった。
ただひとつ思うのは綾乃が傷ついていることへの確信、だった。
今日は、あいつの誕生日だ。あいつのために、なにか、……してやりたい。
といっても今日は平日だから。あいつが仕事を終わった頃を見計らって電話でもしてみるか。
プレゼント。
買う、……べきか。いや、買うぶんには構わないんだけれど、押し付けがましくないだろうか。下手をすれば今日失恋しているかもしれない彼女が、ほかの男の気持ちを受け入れる余裕などあるのか……?
仮に、綾乃が失恋していたとしたら、友達であるおれに言わないはずがない。
では。もし、仮に、まだ綾乃が振られていないとして、それで今日会えたとしたら、どんな顔で祝ってやればいい……?
迷っているうちにいたずらにときは過ぎ。そういったプレゼントを買うには電車を乗り換える新宿で買えばよかったのに、もう、ベッドタウンに来てしまったからには、プレゼントにふさわしい代物は手に入らない。新宿に戻るのもタイムロスに感じられ、また、果たして今日会うべきなのかと頭を悩ませつつ、なにをするでもなく駅周辺をふらついていたら――見慣れた女の姿を見つけた。
場所は、壁一面が窓ガラスのスーパーで、客寄せ効果を狙ってか、外から見えるようになっている。
乱雑な手つきで買い物カゴに商品を突っ込んでいる彼女。
その動きは、丈一郎のよく知る彼女のそれとは違った。
窓ガラス越しでも分かる。彼女の表情は深刻そのもので――
瞬間的に、丈一郎は悟った。
ああ――別れたんだな、と。
思い立ったときには、足が動いた。
まっすぐに、彼女のほうへと向かっていた。
綾乃は、丈一郎と結ばれたあと、出しっぱなしになっていたケーキを見て『ごめんね』と謝った。お祝いをしてもらったのに、泣いたことも気にしているようだった。丈一郎からすれば、そんなことは大したことではないのだが。
大切なのは、自分と彼女の気持ちだ。
過去や、結果に行き着くまでのプロセスなど、構わないと断言できるくらいに。
丈一郎のこころは、綾乃と想いが通じあったことで満たされており、途中、苦しんだ彼女がどんな行動を取ったとて、気にしやしなかった。ケーキは、冷蔵庫に入れてまた食べてもいいし、なんならおれが食べてもいい。泣いたことは別に、仕方がない。彼氏に振られた直後なのだから、我慢をするほうが無茶というものだろう。
しかし。バースデーソングを歌われ、ケーキを用意してもらったというのに、それを喜びで返せなかったことが、綾乃は悲しいのだ。
だったら来年の誕生日は、もっと楽しくしてやろう、と丈一郎は思った。
悲しい記憶があるのならば、楽しい思い出で上書きしてやればいい。
そのことを明かすと綾乃がますます気に病むだろうから決して口には出さないが、丈一郎は決意した。
必ず幸せにしてやる、と。
* * *
よって。綾乃の来年の誕生日の前哨戦である丈一郎の誕生日も重要ではあった。綾乃の重荷を取り払ってやるという意味においてもだ。
だから、裸エプロン。
はだかだ。はだか……。
薄いエプロン越しにあのたわわなおっぱいを揉み揉みするのだ。それを考えるだけで、射精しそうだった。だから丈一郎は妄想をこらえた。
でも無理だった。
エプロンは、色気の感じられない水色の無地のもの。欲を言えばメイド服っぽいフリルのついた白がよかったが、この際贅沢は言うまい。
ワインの瓶の入った紙袋を片手にぶら下げ、丈一郎はメールを打つ。
『あと五分で着くから。よろしく』
返事はなかった。いつもならすぐ返信をくれるのにな、と丈一郎は思った。まあ余裕がないのだろう。
言わずもがな、裸エプロンをお披露目するのは初めてのことだからだ。
丈一郎は、気持ちを落ち着かせるようにして歩いた。通り道のコンビニでしっかりコンドームを購入。女の店員の目が気にならないといえば嘘になるが、もう慣れた。店を出ると歩道を歩く仕事帰りの会社員や大学生らしき男が目に入る。彼らがたどり着くのは、どんな家なのだろう。
いったいどんな人生を歩んでいるのだろう。
けどもと丈一郎は思う。
(このなかで、裸エプロンの彼女が待っている男は、おれだけだ……)
優越感に浸りつつ家路を急いだ。
* * *
敢えて、インターホンを鳴らした。
返事は、なかった。
鍵を回して部屋に入る。入ってすぐ右手のキッチンで、フライパンでなにか炒めていた彼女が、手を止めた。匂いからして、丈一郎の好きなオムライス……が出来上がる前の、ケチャップライスだろう。
丈一郎は、目で素早く彼女の全身をチェックした。
確かに、はだかだ。
彼女の魅力的な肢体を包むのは、ただのエプロンという布切れ一枚のみ。滑らかな背中や腰に続く曲線。お尻のカーブ。膝の後ろやふくらはぎがむき出しとなっている。見ているだけで、欲情する。
丈一郎は、頭のなかで、かばんのなかのコンドームの入っている位置を確認した。すぐに取り出せるようにしなくては。
「おかえり、けいちゃん」綾乃がようやく丈一郎に顔を向けた。すると恥ずかしげに頬を染め、「……じゃなくて。おかえりなさい、ご主人様……」
こちらに近寄る綾乃の姿を、丈一郎は生涯忘れたくないと思った。
長い髪は後ろに一本にまとめられ。
感度のいい首筋。触り心地のいい肩、そして手に繋がるラインがあらわとなっており。
あの、魔性の膨らみはブルーの布地に覆われており。
丈一郎が触れて以来成長したそこは、こんなに大きいんだぞ、と存在を主張している。
エプロンの丈は膝の半分ほど。むき出しの下半身が、エロい。
ここで、茂みに突進して舐めてやったらいったい彼女はどんな反応をするだろうか。と邪な気持ちを持つ自分を発見する。
丈一郎は、靴を脱ぎ、かばんを床に置き、玄関にあがると、そんな綾乃を抱きとめた。
彼女の頭のてっぺんの匂いを嗅ぐ。「ただいま……、綾乃」
帰宅してすぐシャワーでも浴びたのか。綾乃の頭は、とてもいい匂いがした。
綾乃が、おずおずと顔をあげて丈一郎に訊く。「ご主人様……お風呂にしますか、それともご飯にしますか」
「愚問だ」と丈一郎は切り捨てた。
直後、綾乃を持ちあげ、ベッドへと急行する。え、ちょ、けいちゃん、と言われようが知ったことか。
この日を、おれがどれほど待ち望んだと思っている。
綾乃をうつ伏せにベッドに乗せると、彼女の髪を束ねていたゴムを外す。それを口に咥え、邪魔なスーツのジャケットを脱ぎ捨てる。
そして、ほぼはだかの綾乃に後ろから覆いかぶさり、エプロン越しの胸を揉みしだく。いつもは優しくスタートする丈一郎だが、このときばかりは激しかった。いっ、あっ、と綾乃の悲鳴が漏れる。
瞬時、丈一郎は我に返る。「……ごめん。綾乃。痛い?」
「……う、ううん。平気。気持ちいいよ……」首を振る綾乃。
「まじで痛かったらちゃんと言ってね。おれ、今日、自分を制御できるか自信がない」
「いつも、……制御なんかしてないじゃない」
「じゃあ、普段、おれがどれほど我慢してるかを教えてあげるよ、今夜――」首を後ろにひねる綾乃に丈一郎は笑いかける。そして、耳に熱い息を吹き込み、
『初めてだろ、バックでされんの』
* * *
そもそも、予定とは狂わされるためにあるのかもしれない。
キッチンに手をつかせた彼女を後ろから攻めるはずが完全に、計算外。
裸エプロンの綾乃を見た瞬間、自制心が吹っ飛び、気がつけばベッドに運んでいた。
現在、意味をなさないエプロンの下に手を潜りこませ、両のおっぱいを愛しまくってる最中。
もうすぐ綾乃はいく。
このままいけば。絶対に。
柔らかなおっぱいに男の骨ばった指を揉み込ませ。
同時に、敏感すぎる乳首も丹念に労ってやる。
乳房と乳首を激しく揺らせば、綾乃は分かりやすく反応する。
「ああっ、けいちゃん、あたし、あっ……」
その台詞を聞いて。
丈一郎は、手を止めてみる。
「え。あっ。あ……?」途方に暮れた綾乃の様子が伝わる。こんなことは、初めてだ。
綾乃のやや乱れた髪を耳にかけ、丈一郎は彼女の首筋に舌を這わす。
「いかせないよ、綾乃、今日は……」下半身がぎちぎちだというのに。丈一郎は、笑みすら浮かべて言ってのける。
「最初になかで、ちゃんといかせてあげる」
* * *
つき合って半年もの月日が経つわけだが。
丈一郎があの体位を回避していたのは、この日のためであった。彼女からも特になにも言われなかったということで、一条とも『まだ』であることが予測され、丈一郎は優越感すら覚えたのだった。
寸止めを食らわされた彼女は、丈一郎が彼女のお尻を持ち上げても、抵抗感を示すどころか、「は、やく……」とあえぐ始末。
可哀想なことをしていると思う。
そのぶん、いっぱい気持よくしてやるから、と丈一郎は微笑む。
ぬぷ、ぬぷ、と彼女の潤い、やわらかなそこが丈一郎の剛直を飲み込んでいく。「ひ。あ……」
思った通り、彼女からはいつもとは違う種の声が漏れる。
『気持ちいい』という感情が、彼女のからだを通して伝わってくるようだ。
丈一郎は、敢えて引き抜いてみる。「いあっ!」と綾乃が叫んだ。
なんとも、愛おしい……。
「欲しいの?」と丈一郎は訊いてみた。「じゃあ……、言葉にして言わないと、分かんないよ」
つんつん、と穴を突いてやると、ひあっ、とまた綾乃が叫んだ。
「あ、あ、あ……」
そのまま性器で大陰唇もなぞってやる。見ずとも、濡れているのがよく分かった。
これ以上は可哀想かもしれない。
だが、丈一郎の判断よりも、彼女の発言のほうが先だった。お、願い、……と綾乃のかすれた声に続いて。
「ご、……主人様の、おっきなもので、綾乃のこと、いっぱい、突いてください」
* * *
入りきったときに、彼女のなかが激しく収縮した。いったのだ。
「挿れただけでいっちゃったの? ……本当に、エロいな、綾乃は……」
乳首をひねりつつそう言ってみれば、また綾乃が小さく叫んだ。全身が、敏感になっている。
エプロン越しに、おっぱいのカーブをさわさわとなぞってみる。
ぎゅう、と彼女のなかが締まる。……感じているんだ。
はだかのおしりも触れるか触れないかのタッチで撫でてみる。切れ切れの声が綾乃の口から漏れる。
「……おしり。好きなの、ここ?」探り当てた丈一郎が言ってみると、声もなく綾乃は首を振る。
だが、答えは瞭然だ。
よって、行為継続。びくびくと彼女のなかが締まるから面白いものだ。
綾乃は、全身が性感帯みたいなものだが、格別に弱い場所がある。そこを探り当てるのが、丈一郎には楽しくてたまらない。
胸と、おしりを同時に撫でてやると、また彼女のなかが締まった。
軽く、いったみたいだ。
「……可愛いよ、綾乃」丈一郎は、綾乃のつむじにキスを落とす。「どうして、……こんなに可愛いんだろうな、綾乃ちゃんて」
言いながら腰を揺らし、ごりっ、と彼女のなかを刺激してやる。と、ああん! と彼女が叫んだ。
可愛い声出すのな。
いつでも射精可能な状態というのに、丈一郎は笑みを絶やさない。
ここで、声を低くして綾乃に訊いてみる。
「……バックってどんな感じよ。なんか違う?」
「あ……、」綾乃が唾液を飲み込む音を聞く。「なんか、……い、つもと違うところ当たって、す、ごく、気持ち、い……」
「これから、もっと気持ちよくしてあげる」
言うなり、手をおっぱいへと移動させ。そして情交突入。
聞いたこともないような綾乃の声が聞けた。
顔が見れないのは惜しい。けども後ろから犯していることに対する形容しがたい征服欲に満たされつつ、丈一郎は腰を振った。
「……らめっ、また、わたし、いっ……」
途中また綾乃は、いった。勿論、それでも丈一郎が動きを止められるはずもなく。
昔、ラジオで男性芸能人同士が下ネタトークをしていたときに聞いた、『ろくに喋れない状態の女に、おにぎり、って言わせる』という、少年時代からの憧れをようやく実践した。
丈一郎にとって、この年の誕生日は、いろいろな願望が叶えられた日となった。
* * *
眠る彼女を見つめる彼の眼差しは優しい。
彼女が起きたら、シャワーを浴びて、またセックスして。
彼の手にはプレゼントの箱が握られている。先週末、彼女と一緒に買いに行ったものだ。
『誕生日プレゼントは、わたしが選んでもいいかもしれないけど、せっかくだから、けいちゃんが気に入ったものにしたいの。だからね、一緒に選びに行こ?』――彼女らしい、気遣いだった。
箱のなかのキーケース。大切に使おうと思う。
週末ごとに自分のマンションに戻ってスーツとワイシャツと下着を取りに行き、この彼女のマンションに住まう生活が続いているが――そろそろ引っ越しを考えようか。
ここは、賃貸のマンションゆえ、防音が完璧とは言いがたい。あの声を誰にも聞かせたくない。
綾乃が乱れる姿を知るのはおれだけだ。ほかの誰でもない。
荒れ狂うほどの狂気に近い情愛を彼は自身のなかに感じる。こんな自分を知られたら、嫌われてしまうだろうか。そんな一抹の不安も感じつつ、やはり、彼は彼女の肢体に溺れてしまう。
裸エプロン一枚で眠る彼女。腰に手を回し、紐を外し、エプロンを取り除いてやる。
彼女の裸体は、常に、彼の目に眩しかった。
シミひとつなく綺麗で。肌が白くて。シルクのように触り心地がよくて。
ちゃんと、手入れをしているのを知っている。薔薇の香りのするローションを塗っている姿を面白がって彼がつけてやると結局愛撫になってしまってそのままベッドへ直行。二度手間になったのもよい思い出だ。
かたちのよいおっぱいが規則正しく彼女の呼吸に合わせて上下している。
彼は、ベッドに乗り、彼女に覆いかぶさると先ず舐めた。
「ん、あ……」艶のある声が彼女から漏れる。
舌で、下から上へと舐めあげた。もう一度、声。
丸みを下から持ちあげるように掴み、再び舐める。それだけじゃ止まらず。
起きているときと同じように、吸いあげてしまう。反対の手も駆使して。
「いっ、……けいちゃん、あっ……」意識が完全に覚醒しているか定かではないが。
このままだと、いく。
彼は、意識的にスピードを早めた。すると、彼女の到達は間もなくだった。
「あっ、あ、あ……」切れ切れの声をこぼし、からだを小刻みに痙攣させる綾乃。
そんな彼女を、彼はうえから見下ろした。
そして、どんな芸術家が丹精込めて創作した石膏像よりも美しい彼女を、彼は腕のなかに抱きしめ、彼のなかの真実を伝えた。
「綾乃。……愛している」
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