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父とこども

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 テオドアが帰宅するとヴィクトルとルカに迎えられた。

「おい、お前どこに行ってたんだよ!急に俺たちをここに連れてきてその上放っておくとか信じらんねー!」

 犬歯をむき出しにしてヴィクトルが嚙みついてくる。
 容姿は幼いころの自分にそっくりだが性格があまりにも違うので、テオドアはこの少年が自分の子どもという感じがあまりしなかった。それは二人のほうも同じようだが。

「ニア、お昼ご飯食べなかったみたい。部屋からも出てこないし…もしあなたがニアを傷つけたなら、僕たちはあなたを命をかけても殺すよ」

 ルカのアエテルニアとおなじ蛍石の瞳がテオドアをじっと見つめていた。
 父殺しの遺伝子は残っているようだ。胸から腹にかけてある傷跡がうずいた。

「お前たちに質問がある」
「…なに?」
「ニアは、どこか体が弱かったり、病を患っているか?」
「はぁ?なんでそんなこと」
「病は患ってない。でも、産褥で少し体が弱い。具体的にどこが悪いのかはわからないけど激しい運動はできないって。それがどうかしたの?ニア、病気なの?」
「落ち着け」

 テオドアは足元にまとわりついてくる二人をそれぞれの腕で抱き上げた。

「うわっ高ぇ!」
「病気ではない、はずだ……お前たちは昼食を食べたのか」
「食べた」
「よし、じゃあ軽食を用意させよう。俺はまだ食べていない」
「軽食って?俺果物が食べたい!」
「僕も」
「舌が肥えてて困るな。どこかの誰かみたいに厨房から果物を盗むなよ」
「そんなことしねぇよ!ニアに怒られるし…」
「はは、そうか。ニアにな…」
「あ、笑った」

 へにゃりとしたテオドアの笑みを見て、もしかしたらこいつは悪者ではないのかもしれない、と二人は顔を見合わせた。





 双子の言ったニアの体調不良が本当にただ出産のせいなのか、記憶守りの言った精神的な負担によるものなのかはわからない。白鹿のニアが黒狼の妊娠で体を壊すことはないだろうが、何しろ双子だ。普通の夫婦でも、双子の出産は危険を伴うというから出産によるものではないとも言い切れない。

「食事の用意を頼む。俺の分の軽食と子供とアエテルニアのための果物を持ってきてくれ」

 テオドアは執事に伝えてアエテルニアのいる部屋に向かった。

「なぁ」

 右腕に大人しく収まっているヴィクトルがテオドアの袖口を引っ張った。

「なんだ」
「お前、本当に俺たちの父親なのか?」
「信じがたいことだがそうだ」
「変なの。あなたもニアも親って感じしない」
「ニアもか?」

 少し驚いてテオドアが聞くと双子は顔を見合わせた。

「だって、お母さんとかお父さんって僕たちのこと、守ってくれるような人でしょ?」
「ニアは守ってくれる、っていうよりかは、俺たちが守ってあげなくちゃいけないもんなー」
「へぇ…」

 黒狼の本能というのはしっかりと刻まれているらしい。
 記憶守りの話がどこまで正しいのかわからないが、納得できることが多かったのはたしかだ。
 父は多くの名医を呼んで義母の病を治そうとしたが、どの医者も治療法どころか原因すらわからなかった。もし義母が病にかかっていたのではなく、白鹿の運命で弱っていたのなら原因がわかるはずがない。

 もしアエテルニアが義母と同じ運命に進みつつあるとしても、テオドアは父のように愛する人を失うような愚かな真似はしない。

「お前たちは、ニアが18の時にできた子供だから…いま8歳…7歳か?」
「7歳だけど、それがなんだよ」
「そうか、7歳か。ヴァルキュリアの子どもなら、もう普通の大人ぐらいの体力はあるよな」
「普通の大人がどうかはわからないけど、村では僕が一番力持ちだったよ」
「おい!俺のほうが力強いし!」
「いやいや。ヴィーは教会のおっきい机持ち上げられなかったじゃん」
「でもでもでもっ…足は俺のほうが速い!」
「でも力は僕のほうがあるよね」
「それはっ…!」
「口喧嘩はよせ。わかった。まぁ、大丈夫そうだということはわかった」
「…?」
「なんの話してるんだ、お前…」

 テオドアはアエテルニアの待つ部屋の前で二人を腕から下ろす。

「旅行に行く。俺はお前たちの面倒を見ている暇がない。自分達で自分達の面倒を見れるならお前たちも連れて行こう」
「「旅行!?」」

 驚いて固まった二人を置いてテオドアは部屋の中に入っていった。

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