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誘拐

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 真緒はうきうきしてた。
 久しぶりに父親と会えるからだ。


 真緒の父はいろんなところに出張する仕事で、最近は中国にいた。
 さすがに中国に着いていくのはむりだったので、長期休暇だけ会いにいくことになってしまった。

 海外旅行の楽しみと父と会える喜びで真緒の心はいっぱいだった、そのときまでは。



 父と待ち合わせていた空港前のバスターミナルには父はいなくて、あれ、どこにいるんだろう…とそう思っていたら、目の前に黒塗り車が止まった。
 ばっととびらが開いて次の瞬間には中に引きずり込まれてた。

 悲鳴をあげる暇もなかった。

 車の中には屈強な男達がいた。
 あまりの恐怖に真緒は悲鳴をあげて暴れようとしたが、不思議な匂いのする布を鼻と口にかけて被せられて、意識を失ってしまった。



 目が覚めると、真緒は柔らかいベットに寝ていた。

(あれ、ここどこ…?)

 むくりと真緒は起き上がる。

「ん、目ぇ覚めたぁ?」

 すると、ベットの横にはサングラスをした男がいた。

「だ、だれ…?」
「俺?俺は李颯凛(リ・ソンリェン)」

 男はサングラスを外しながらそう言った。
 名前を聞きたかった訳ではなかったのだが…

「あの、僕、なんでこんなとこに…」
「感謝してよー。本当はお前臓器バラして売るはずだったのを俺が助けてやったんだよ」
「どういうこと…?ぞうき?」

 日常的に使う中国語しか知らない真緒は臓器なんて単語は知らない。
 疑問符を浮かべる真緒を馬鹿にしたように男は笑った。

「なに、お前まだわかってないの?……お前、売られたんだよ、父親に」
「う、うられた……?おとうさんに?」

 信じられない。
 真緒の父親は海外出張を任されるぐらい優秀な人だった。
 もちろん収入も少なくない。
 真緒は自分が普通より裕福な自覚もあった。

「お前の父親はな、慣れもしない国であっちこっち動き回って『俺らの領分』を犯したんだよ」
「りょうぶん…?」
「わかんないならいいよ。とにかく、俺らのルールを破ったんなら罪を償ってもらわなきゃならない。そんで俺らはお前の父親に聞いた」

 お前の会社潰されんのと、お前の子供バラさられるの、どっちがいいかってな。
 にっこりと笑顔を浮かべて男はそう言った。

「ひどい…」

 そんなこと言われたら、父は会社を選ぶに決まっていた。
 たった一人息子と、何千と社員を抱える会社。天秤にかけるまでもない。

「おいおい、ひどいはないだろ。言ったでしょ、俺が助けてやったって」

 ぐっと顔を掴まれて無理やり上向むかされる。

「臓器の分ぐらいは楽しませてね」
「え……んぅ」

 思いっきり噛み付くようなキスをされた。

 なんで自分がこんな男とキスをしているんだ、と思っているうちに唇の中に颯凛の舌が入りこんできた。

「ん、んんーー!!」

 舌を引っ込めるけど、蛇のように颯凛は真緒の舌を追いかけて捕まえる。

(やだ、なんで僕こんなやつとキスしてるの…!)

 がり、と真緒はとっさに颯凛の舌を噛んでいた。
 口に鉄臭い味が広がる。

 ばっと離れた颯凛を、なんとか息を整えてから真緒は見た。

「っ…ひ」

 颯凛の表情にはなんの感情も浮かんでなかった。

「…いたいなぁ」

 さっきよりもワントーン低い声に真緒の身体は勝手にがたがたと震えた。

「飼い主を噛んじゃだめでしょ?」
「ご…ごめんなさ…」

 顎を掴む手がぎりぎりと強くなる。
 痛みに顔を顰めるが颯凛の手は力を弱まることを知らない。

「お仕置きだよ」

 颯凛はどこからか出したロープで真緒の手を後ろ手で縛った。

 そして真緒はローションを尻に塗り込まれ、あのグロテスクなバイブを突っ込まれたのだ。

「反省したらそれ、外してあげる」
「ま、まって…ひぅ」
「静、そいつんこと見張っといて」

 そして無慈悲にも颯凛は部屋から出て行ってしまった。
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