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05 追跡

10 Baltroy (追跡)

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 どこに行くかな。俺なら。病院を、たぶん通気孔から抜け出す。そして外に出て、街から出るだろう。まだ街にいるなら連邦捜査局が見つけてる。金はなくても体力はあるだろうからな。走ってでも出る。そして?

 がらんとした職場の土曜日のデスクで街の地図を開いた。病院の位置を見る。近い下町はどこだ。防犯カメラがほとんどないようなところ。金を稼がなきゃならないだろ。永遠に生きるんだろ? 「無限に金が要る」んだよ。個人紐付きのブリングもない。偽名しか使えない。マリーンの時と同じだ。

 もうこの件は連邦捜査局の事件になってるから、俺には追う権利がない。意味もない。ただの個人的な興味。俺と同じ人間がどうなるのかって言う。少しあの男について知らなければならない。俺たちがいた施設を出てどうなったのか?

 エッシャー児童養護施設にコールする。捜査官としての身分は使えない。ただの卒業生としてだ。もう人も何もかも変わっているだろう。

『はい? エッシャー児童養護施設です』
「80年にそちらを卒業した、バルトロイ・エヴァーノーツです」
『80年? 少々お待ちくださいね。イリーナ!』

 イリーナ! 懐かしい。まだいたんだ。あの頃は入ったばかりの職員だった。

『うそ! バルトロイなの?』
「イリーナ」
『大きくなったわね! なんだか感動しちゃう。私のこと覚えていてくれたの?』
「覚えてますよ。聞きたいことがあって」

 イリーナは俺のことをよく覚えていた。わけありのハイブリッドだったからかな。そしてゴーシェのことも。

『ゴーシェはね、別な施設にいたんだけど、他の子供たちからのいじめがひどくてうちの施設に来た子だった。そう、あなたと同じでハイブリッドでね』
「親は?」
『ごめんなさい。規則で言えないのよ』
「彼は卒業した後どうなったんですか?」
『あなたの方が少し早く出たものね……。あの子の場合は親元に戻れなくて、どこかの寮に入ったと聞いたわ』

 掴みどころがない。次。ゴーシェの働いていた空調設備の会社にコールする。

「レプリカント人権保護局のA492090rpです。ゴーシェさんの件について追加で伺いたいんですが」
『ああ。ニュースで見ました。あんなことするなんてね』
「普段の生活とか、交友関係をご存知の方はいらっしゃいませんか」
『いやあ………あの人変わってたから。ちょっと距離を置くって言うかね。悪いけど……。あ、経歴書ならまだありますよ。送りますか?』
「お願いします」

 職権濫用だ。まあいいか。一応犯罪者を追跡してるんだ。すぐにピンと書類が届く。
 経歴の初めは建築系のカレッジになっている。そして建築系の職場を三箇所変えて、空調設備の会社に入社していた。五年目。この経歴を追ってみる。前の会社にコール。でもやはり友人は出てこない。その前も、その前も。感じは良い人だったんだけどね、と一様に電話に出た人々は言った。打ち解けた感じは最後までしなかったね。

 人となりが全く分からない。ゴーシェの戸籍を呼び出してみる。親の欄は無記載。すごいな。俺のでさえ入ってるのに。住所はゴーシェを捕まえた家。なんの手がかりにもならない。まるでこうなるのがわかっていたみたいだ。

 今日は帰るか。ヴェスタとも話さないといけない。また何か思いつくかも知れないし。





 家に戻ると、ヴェスタは大人しく待っていた。

「見つかった?」
「だめだった。手がかりがない。まあ、連邦捜査局も探してるんだろうからこっちは趣味みたいなもんだ」

 レッダが夕食を並べる。もうそんな時間。

「さっきの話の続きしてもいい?」
「うん」
「……ザムザが言ってたんだ。連続勤続可能年数ていうのがあるから、早めに結婚とか子どもとか考えないとって。俺知らなかったし……」
「うん」
「バルとちゃんと一緒にいられた方がいいなって……」

 真っ当だ。ヴェスタとはなんだかんだで三年一緒にいる。結婚したっておかしくないし、これが四年前なら俺の方が結婚したがっただろう。結婚すれば、あの女が諦めると思ってたから。

「子どもが欲しいんなら、結婚は別のやつとした方がいい」
「………バルは子ども、欲しくないの?」
「まあ、そういうことだな」
「なんで?」
「俺は………」

 つまんない個人的なことだ。そんなことでヴェスタがしたいことをやめさせたくない。

「いらないんだ。とにかく。だから、もしお前が」
「じゃあ、俺もいらない」
「ヴェスタ」
「でも、結婚するのだけは考えてみてくれない? 結婚しても今と変わらないなら、結婚したっていいだろ?」
「俺と結婚したら子どもが持てない。お前を縛るだけの結婚なんかできないよ」
「いいの! ちょっとは考えてみてよ! 俺……バルと生きていきたいんだよ」
「だめだ。少し頭を冷やせ」

 ヴェスタの髪はスカイブルーになっていた。大きな青緑色の目からぽろぽろと涙が溢れ出す。

「……あのな」

 ヴェスタはぱっと背を向けると、そのまま自分の部屋に入ってしまった。













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