上 下
35 / 229
02 潜入捜査

14 Vesta (チーム)

しおりを挟む
 ここを特定できる何か。少し建物から距離を取って背を向ける。時間を見る。そろそろバグが撮影するはず。でもちゃんと正面から撮ってくれるとは限らないから……。

「ヴェスタ、どうしたの?」
「何でも……なんだか変わったところだなと思って」
「そう? もう行きましょうよ」

 ファビアに手を引かれて作業場所に来させられる。撮れたかな? 後で確認してみないといけない。鳥小屋にはたくさんの落ち葉が入り込んでいる。箒で掃き出すけど、手がかじかんでつらい。

「寒いね。手が冷たくて……箒、握っていられないや」
「昨日は朝でも12度あったけど、今8度だからね。急に落ちたよ」

 カッシュが箒を使いながら言った。

「すごい! わかるの?」
「うん。温湿度がわかるんだ。血糖値も測れるよ。俺のオーナーは糖尿病の人だったから」

 懐かしむような口調だった。カッシュはオーナーが亡くなっている。

「測ってあげてたの?」
「うん。毎食後かな。体拭いたりさ、熱を測る時に温度計測の機能は便利だった……あんなに早く死んでしまうと思ってなかった」
「カッシュは捨てられたとかじゃないんだもんね」
「そう。三年、オーナーの介護をしたかな……。もっとずっと一緒にいられると思っていたのに、合併症で急に死なれてしまって。介護職は就こうと思えばすぐにできたけど、やる気がなくなってね」

 ここにきたら何かやりたい事が見つかるんじゃないかと思った、とカッシュは言った。

「でもそんなに甘くないね。毎日何のために生きているのかわからなくなるよ。レプリカントなんて、オーナーから離れたら無用な存在なんだな」
「そうね。もうどうにでもなれって感じ」

 ファビアが言うと、ハイドラも相槌を打った。ハイドラの髪は暗褐色のまま。

 なんだかみんながこんなことばかり言っている。どうしてなんだろう?

 その日のセミナーは第三種になったレプリカントがつく職業について。政府の斡旋なのに労働環境の良くないところや危険な仕事、過酷な仕事が多い事。結局、自己判断できるアンドロイド扱い。ヒューマンの道具でしかない……という内容。

 セミナーの内容は正しい。バルは「レプリカントだと隠したいやつもいる」と言っていた。レプリカントだとわかると差別されるから。好きな職にはつけなかったり、就けても待遇に差があったり。

 俺も捜査官だけどバルや他のヒューマンの人たちとは扱いが少し違う。捜査官IDがCで始まるのは俺だけ。ヒューマンはAかB。給与も少しみんなより低いし昇格もしない。初日に一人でいた時最初にかけられた言葉は「よう、セクサロイド、初夜はどうだった?」だった。レプリカントであるだけで嫌なことは沢山ある……。

 でも俺はレプリカントじゃなかったら、バルのそばにはいられなかった。バルのそばにいるための条件がレプリカントであることなら、俺はどんなに嫌な目にあってもレプリカントでいるだろう。

「バル」

 セミナーが終わって夕食までの空白の時間だ。そっと建物の影から話しかける。仕事中?

『おう。ちょっと待ってろ』

 ささやき声。胸があったかくなる。足音。シュンと扉の開く音。どこかの部屋にバルが移動したのがわかる。

「ごめんね。まだ仕事してたよね」
『いや。大丈夫。俺も話したいと思ってた。まあ、まず話してみな』
「今日、建物がバグに入るようにしてみたつもりだったんだけど、うまく写ったかなって」
『写らなかったな。バッテリ食うけど、こっちから動かしてやらないといけないかもしれない。お前はちゃんと写ってたぞ。だっせえ制服』
「ふふっ」

 やっぱりだめか。被写体が俺の設定だから、今のままでは背景がうまく写らない。

『まあいいよ。建物のことは。ザムザが調べてるはずだ。こっちはラライサ・マデルと話してみたんだ。あの、25件目の爆破事件で捕まえたレプリカント』
「あの金髪で肌が黒い子?」
『そう。あれなあ、他にもレプリカントが一緒にいたのに、ラライサだけを攫ってるんだ。お前なら何か思い付かないかなと思って』
「ぱっと見ではレプリカントだってわからない感じの子だよね」
『そう』
「一緒にいたレプリカントたちは? 友達?」
『友達ってか、まあ、同じオーナーでずっと一緒に生活してたみたいだな。誘拐された時もみんなでいた。ちょっと一人になった隙にラライサだけ連れ去られた』
「他のレプリカントたちもヒューマンと見分けがつかない?」
『うん。詳細はまだ見てないけど、画像だけなら小綺麗なヒューマン。ラライサとおんなじだ。オーナーは周りには全員ヒューマンだと言ってたらしい』
「うーん……」

 なんでラライサだけをさらったのか? なぜ他のレプリカントは放置したのか?

「レプリカントだけを攫いたかったんだよね、ReLFは」
『そう。レプリカント解放戦線だからな。ヒューマンを攫ってもしょうがない』
「ラライサだけ、絶対にレプリカントだってわかってたってことなんだよね。他の四人はヒューマンなのかレプリカントなのか確信がなかった」
『そうか……そうなんだろうな』
「何でわかってたのかな? それが分かれば……」

「ヴェスタ。こんなところで何しているの?」

 はっと顔を上げると、ファビアがこっちを睨みつけていた。

「話し声がしたみたいだけど」
「あ……独り言だよ。少し」
「少し?」
「……」

 言い訳がとっさに出てこない。詰問するような口調。

「ファビアこそどうしたの」
「あなたを探しに来たの。もう夕食でしょ。食堂にみんなで行きましょう」

 さっとファビアが身を翻して建物の中に入り、振り返ってまたこっちを見た。早く入れって感じ。仕方なく続いて建物の正面を見上げた時、ふと扉の上の不自然な空白に気がついた。普通のお店なんかなら、看板がかかっていたり店名が書いてあるような空間。

「ヴェスタ、早く。みんな待ってるのよ」
「うん」

 今は仕方がない。また隙を見てちゃんと調べないと。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...