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01 チュートリアル

03 Baltroy (ファースト・ケース)

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 いくつか後ろ暗そうなところをやんわりと当たってみたが、昼間なこともあって何も出てこない。ベーグルサンドを二つ買って席に戻る。ヴェスタがまだ端末を見ていた。すごい集中力。

「おい、昼飯」

 後ろから肩をポンと叩くと、彼ははっと顔を上げた。髪は出る前と同じ濃い青だった。ベーグルを渡したら少し緑よりになって色が明るくなった。何で変わっているんだろう? 体調? 体温?

「あの、少し質問があるんですけど」
「何?」
「あなたの検挙率は群を抜いていますよね。これは何か特別なことがあるんですか?」
「……なんもねえよ。ただ仕事が長いってだけさ」

 後ろを誰かが足早に通り過ぎていった。通り過ぎ様に、ぼそっと「豚の子だから」と言った。俺にわからないと思うなよ。

「タルマイ、暇そうだな。俺のためにちゃんとファイル整理してくれよな」

 周りからクスクスと笑い声が聞こえた。タルマイは駆け気味に部屋を出た。

「ほかには?」
「いや。大体わかりました。午後は何をすれば?」
「そしたら、各メーカーから先週各地に納品されたレプリカントの一覧が来てる。このフォルダ。こっからしらみつぶしにレプリカントの状況を確認すんだ。こいつが手間だけど一番早い。タレコミなんか待ってても無駄だ。件数が少なすぎる。まずオーナーにコール、応答なしならメッセージで応答要求」
「これ? このリストですか」
「大手五社、あと零細がこのフォルダにまとまってる」
「一週間でどのくらい?」
「大した数じゃねえよ。ソートして。ほら。支配率がここにあるから、こっからここまでが保護対象。な。一社20もない」
「はい。わかりました」
「先にまずベーグルを食え。何より自己管理」
「はい」

 どうなんだろうな。AI支配率がゼロのレプリカントは、AIでの補完や調整が効かないから本人の能力次第だ。ヒューマンと全く同じ。裏切るし反抗する。今のところ従順だが……。

 髪がますますエメラルドグリーンに近くなっている。これも面倒だから帽子でも被せないといけないかもしれない。いや、かえってイメージが固定しないから尾行に向くかな。

「食べました! ごちそうさまでした! ではかかります」
「待て待て! まず俺がやって見せるから」

 ヴェスタに席を変わらせる。リストの最初から。

「これがメーカー、こっちが運送会社、最後にあるのが納品先。発注者IDにコール。えーと、今勤務中か。メッセージでコール要求。この時のコールは相手方には政府の人権保護局からのコールだって表示される。次のやつ。コール。これは在宅だな。出るかも。見てろよ。出た。こんにちは。こちら連邦レプリカント人権保護局捜査官A492090rpです。先週レプリカント一体が納品されたと思いますが、今本人は出られますか?」
「あ、はい。おーい、おいでー」

 女の声が聞こえた。すぐにモニタにも発注者の男の隣に、人形のような女が映り込む。

「どうしました? 私に御用ですか?」
「捜査官の人が話したいって」
「はい。もう結構です。発注者の方に確認ですが、返品の意思はありますか?」
「ないですね。よく作ってもらったと思います」
「ご協力ありがとうございました。何かレプリカントに関する相談事がありましたらこちらにご一報ください」

 コール終了。

「俺たちは絶対に名前を名乗らない。IDカードを見ろ。自分の職員番号があるだろ。それを名乗る。職員かどうかはその職員番号を問い合わせればわかるってわけだ」
「どうして名前を名乗らないんですか?」
「恨まれやすい仕事だからさ」

 ヴェスタを後ろから見ていると、最初の何回かは噛んだり次に話すことを忘れたりしたが、すぐに流れるようにコールできるようになった。大体はちゃんとレプリカントが家にいて、まずまず幸せなスタートを切っているようだった。

「こんにちは。こちら連邦レプリカント人権保護局捜査官、C571098rpです。先週レプリカント一体が納品されたかと思いますが、本人と話せますか?」
「……あー……無理です。ちょっと」
「理由を伺っても?」
「えー……と、今、寝込んでいて……」

 怪しい。ヴェスタの横から入る。

「ブリングで寝ているところを映してもらっていいですか?」
「いや、ちょっと」
「一年以内の病気や大怪我の場合は返品保証が受けられます。手続きしていますか?」
「……」

 コールがあっちから切断された。

「行くぞ。お前ついてるな」

 公用車を局の前に回す。ゴーグルを付けてヴェスタにもほうり、ツールボックスを持って飛び乗る。車の中でツールボックスから防弾シールドを取り出し、彼につけてやる。

「次からは自分でつけろ」
「はい」

 公用車に座標を設定すると、十分ほどでバニーノの家に着いた。家の前でブリングの画面を見ながら狼狽うろたえている男がいた。オートキャリアを待っていたのだろう。

「バニーノさん。レプリカント人権保護局A492090rpです。お話を伺いたいのでご同行願えますか」

 男はひたいに手をやって目を瞑った。





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