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(19)カルロの憂鬱
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~城内資料室~
食品部門の副責任者である、カルロ。彼は資料室にて過去の売り上げや各種データを洗い出していた。
【奇跡のワイン】を失ったことで、実際にどれだけの損害が出るのかを自らの手で正確に導くために。
しかし、計算を進めていくほど、彼の表情には影が差してきた。
「おかしい。思ったよりも…」
そう、思ったより国が被る被害額が少ないのだ。
勿論、変わり種で最高の味わいを持つ、そんな商品をリリースできなくなったため国や城としてのブランドを加味すれば損害はもっと増すだろう。しかし、あくまで実損という観点から見れば、その被害額は想像以上に少なかった。
あのワインは、イラリアが実験的に作っていたもの。栽培面積も製品数も他のものと比べれば驚くほど少ない。数年の間畑が使用できなくなると云われているが、前例がない以上は憶測に過ぎないと反論されるか?
冷静に数字でみれば…
「これをネタに、一気に追い詰めてやろうと思ったんだがな」
それはクーラの事を指しているわけでは無い。あんな小物などどうでもいいと、カルロは考えていた。
「本丸は、やはりグリアムか」
煙草に火を着けくゆらせるカルロ。険しい表情は一層深まるばかりだ。
グリアムは一体何を考えている?
10年以上前、彼の下で働いていたからこそ分かる。以前の奴なら女に熱を上げて、こんな馬鹿げた人事を下すようなことはしなかったはずだ。
どうも奴の術中に嵌まっている気がしてならない。
カルロは、以前起きた事件について思い出す。
あれは数年前の出来事だ。
あの時は、グリアムの命令により麦酒作りを担当する部門の副統括責任者を、明らかに素人と分かる若い女に任命したのだ。おまけに優秀だった当時の副統括を追放までしてだ。やはりというべきか、その女のせいで国としては痛手を被った。誰もが、厳しい処分が下されると思っていた。しかし、実験的に製造販売を行っていた製品の為、想像以上に被害額は少額で済んだ。
結果的にその女の処分は数か月の謹慎というものだけ。女は今もなお、副統括のポジションで業務を行っている。
相変わらず馬鹿げた指示を出す、そんな奴の下で働くことは苦痛だったのか、優秀な人材程やる気をなくして指示待ちになっている。その指示が如何に疑問を呈するものであってもだ。
今回の件によく似ている。
だとすれば、ワイン部門もその機能を失ってしまう日が来るというのか。
それだけは避けなければならない。王の方針でリリースできなくなった製品は例年数多く存在する。ワインはそんな中で安定的に利益を出せるアイテムだ。これが販売できなくなったことを考えると、それだけで恐ろしい。
チラッと腕時計を確認すると、もういい時刻だった。
今から他部門の上層部の連中も含めて、今回の奇跡のワインに関する報道機関へ公開する内容を精査しなければならない。とはいっても、内容は既に決まっている。馬鹿げたミスを露呈させては流石に笑えない。だから、この度はブドウの成熟が芳しくなかったためにリリースを見送るという内容にした。この内容で事前にお伺いを立てたところ、異議を唱える者はいなかったので恐らくは問題ないだろう。
カルロは席を立つと、会議室へと向かった。
会議自体は、予想通りというべきか滞りなく行われた。
この内容を記者の連中に送る。恐らく向こうからの質問も、予想の範囲内に収まるものだろう。余りに反響が大きいようなら会見を開けばいい。そこまでいけば、後はほとぼりが冷めるのを待つだけだ。
きっと上手くいく。カルロは自分にそう言い聞かせた。
しかし数日後。最悪の事態が訪れる事となった。
「ふざけんな。どっから漏れたんだよ…」
城の前には十数人の記者が押し寄せていた。
「「お伺いしたいのですが、今年奇跡のワインがリリースできないのは責任者の方が通常では考えられないような失敗をしたからとの情報が入っています!どうなのでしょう?!」」
「「我々に伝わってきた情報とは相違していますが、隠蔽されたという認識で宜しいのでしょうか?お答えください!」」
門番が強引に入ってこようとする記者達を止めているので、これ以上入ってくるのは不可能だ。
しかし、問題はそこじゃない。一番厄介なのは我々が虚偽の情報を流したという不信感だ。一度出来た猜疑心は募っていく。国の大きな財源である以上、彼らのネタとしては十分な部類だろう。
一体どこから漏れたんだ。この事を知っているのはワイン部門の人間と一部の上の連中だけだぞ。
こんなことをして一体誰が得をするのだ。
一枚岩になって対応しなければならない時に、俺自身が疑心暗鬼になっていくことを実感させられていた。
食品部門の副責任者である、カルロ。彼は資料室にて過去の売り上げや各種データを洗い出していた。
【奇跡のワイン】を失ったことで、実際にどれだけの損害が出るのかを自らの手で正確に導くために。
しかし、計算を進めていくほど、彼の表情には影が差してきた。
「おかしい。思ったよりも…」
そう、思ったより国が被る被害額が少ないのだ。
勿論、変わり種で最高の味わいを持つ、そんな商品をリリースできなくなったため国や城としてのブランドを加味すれば損害はもっと増すだろう。しかし、あくまで実損という観点から見れば、その被害額は想像以上に少なかった。
あのワインは、イラリアが実験的に作っていたもの。栽培面積も製品数も他のものと比べれば驚くほど少ない。数年の間畑が使用できなくなると云われているが、前例がない以上は憶測に過ぎないと反論されるか?
冷静に数字でみれば…
「これをネタに、一気に追い詰めてやろうと思ったんだがな」
それはクーラの事を指しているわけでは無い。あんな小物などどうでもいいと、カルロは考えていた。
「本丸は、やはりグリアムか」
煙草に火を着けくゆらせるカルロ。険しい表情は一層深まるばかりだ。
グリアムは一体何を考えている?
10年以上前、彼の下で働いていたからこそ分かる。以前の奴なら女に熱を上げて、こんな馬鹿げた人事を下すようなことはしなかったはずだ。
どうも奴の術中に嵌まっている気がしてならない。
カルロは、以前起きた事件について思い出す。
あれは数年前の出来事だ。
あの時は、グリアムの命令により麦酒作りを担当する部門の副統括責任者を、明らかに素人と分かる若い女に任命したのだ。おまけに優秀だった当時の副統括を追放までしてだ。やはりというべきか、その女のせいで国としては痛手を被った。誰もが、厳しい処分が下されると思っていた。しかし、実験的に製造販売を行っていた製品の為、想像以上に被害額は少額で済んだ。
結果的にその女の処分は数か月の謹慎というものだけ。女は今もなお、副統括のポジションで業務を行っている。
相変わらず馬鹿げた指示を出す、そんな奴の下で働くことは苦痛だったのか、優秀な人材程やる気をなくして指示待ちになっている。その指示が如何に疑問を呈するものであってもだ。
今回の件によく似ている。
だとすれば、ワイン部門もその機能を失ってしまう日が来るというのか。
それだけは避けなければならない。王の方針でリリースできなくなった製品は例年数多く存在する。ワインはそんな中で安定的に利益を出せるアイテムだ。これが販売できなくなったことを考えると、それだけで恐ろしい。
チラッと腕時計を確認すると、もういい時刻だった。
今から他部門の上層部の連中も含めて、今回の奇跡のワインに関する報道機関へ公開する内容を精査しなければならない。とはいっても、内容は既に決まっている。馬鹿げたミスを露呈させては流石に笑えない。だから、この度はブドウの成熟が芳しくなかったためにリリースを見送るという内容にした。この内容で事前にお伺いを立てたところ、異議を唱える者はいなかったので恐らくは問題ないだろう。
カルロは席を立つと、会議室へと向かった。
会議自体は、予想通りというべきか滞りなく行われた。
この内容を記者の連中に送る。恐らく向こうからの質問も、予想の範囲内に収まるものだろう。余りに反響が大きいようなら会見を開けばいい。そこまでいけば、後はほとぼりが冷めるのを待つだけだ。
きっと上手くいく。カルロは自分にそう言い聞かせた。
しかし数日後。最悪の事態が訪れる事となった。
「ふざけんな。どっから漏れたんだよ…」
城の前には十数人の記者が押し寄せていた。
「「お伺いしたいのですが、今年奇跡のワインがリリースできないのは責任者の方が通常では考えられないような失敗をしたからとの情報が入っています!どうなのでしょう?!」」
「「我々に伝わってきた情報とは相違していますが、隠蔽されたという認識で宜しいのでしょうか?お答えください!」」
門番が強引に入ってこようとする記者達を止めているので、これ以上入ってくるのは不可能だ。
しかし、問題はそこじゃない。一番厄介なのは我々が虚偽の情報を流したという不信感だ。一度出来た猜疑心は募っていく。国の大きな財源である以上、彼らのネタとしては十分な部類だろう。
一体どこから漏れたんだ。この事を知っているのはワイン部門の人間と一部の上の連中だけだぞ。
こんなことをして一体誰が得をするのだ。
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