上 下
17 / 27

(16)しばしの別れ

しおりを挟む
「…というのが、私の作戦です。どうでしょうか?」

あの後。私とルカさんは、どうしたらコンクールで勝てるのか作戦を練っていました。

「成程。難しいかもしれませんが勿論全力でやらせて貰います。というか、僕が巻き込んでしまっているわけですし、本当に申し訳ないです」
「もう。それは言わないで下さい」
ハハッ、っと申し訳なそうに頬をかくルカさん。

「しかし、大胆というか思い切った作戦ですね」
「勿論、味も重要ですが他にインパクトが無ければ数あるワインの中に埋もれてしまうのは必然です」
「確かに、70近い醸造所が参加する中で目立つのは難しそうですね。それだけあると、どうしても昨年の上位入賞者にばかり注目がいきますし。このくらいの博打を打たなければ勝てないでしょうね」

私はコクリと頷きます。
「ええ。この度の賞金につられてか、例年と比べて参加者はかなり増加したようですしね。ブースに来て貰うだけでも一苦労です」
「これほどの参加者数になるとは、少し驚いています」
私たちは城下町から離れた場所に住んでいるので分かりませんでしたが、若しかしたら今回の賞金について城下町を中心に噂になっていたのかもしれません。

ですが、今は。
「大事な点としてコンクールは、一般来場者の方々の投票数で決まるという事ですね。専門家よりも一般の方に向けて分かりやすく訴えかける。それが重要だと私は思います」
「ええ。だからこそ、この作戦はきっと上手くいはずです」

私はコーヒーを一口飲むと、今後についてルカさんにお伝えします。
「さて、それではお父様の事も心配ですし先ずは病院に行ってきてください。緊急性が高いことは、病院からの知らせを見れば明白です」

「え、大丈夫なんですか?その…他の作業とか。ブドウの収穫とか」
「それは私に任せて下さい。ブドウ以外の果物にも、ある程度の見識はありますから。ブドウの収穫についてですが、私の見立てでは丁度1週間後といったところです。逆に、今を逃すとコンクール迄は城下町に伺う事が難しくなると思います」

ルカさんは少し考えてから頷かれます。
「分かりました。ありがとう御座います。ただ、何があるか分かりません。人手を要する可能性もありますから、近場の仲間にも状況を説明して有事の際には駆け付けて貰えるようにしておきます」

今度は、私が少し考えてしまいました。
「それは、とても心強いのですが、皆様もお忙しいのでは?」
「そうですね。ただ、こんな風に誰かが困っている時には手を貸し合う。そうやって僕たちは乗り切ってきました。一種の協定みたいなものです」

ルカさんも今日まで、そうやって誰かを支えてきたのですね。
「あら。それは素敵な関係ですね」
「よし!そうと決まれば直ぐに動く必要がありますね。かなり急ですが、明日の朝には城下町に向かいます。アミにも、父に会わせてあげたいので一緒に連れていきますよ。」
「ええ、それが良いですね」

少しの沈黙の後、私とルカさんはお互いの視線を合わせます。
「では、しばしの別れですね。ここを、宜しくお願いします」
「お父様に宜しくお伝えください。私も私の為すべきことを為して、お待ちしています」

どちらから申し出たわけではありません。気が付いたら、私たちは握手を交わしていました。

「それでは準備がありますので、これで。おやすみなさい。イラリアさん」
「おやすみなさい。ルカさん」

笑顔を残して、リビングを去る彼の背中を見送ります。

そんな彼を見て私は思いました。

絶対に勝たせてあげたいと。


そして、こんな時に不謹慎ですが明日から数日間、ご飯をどうしようかと。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか? ありがとうございます

安奈
ファンタジー
サイラス・トートン公爵と婚約していた侯爵令嬢のアリッサ・メールバークは、突然、婚約破棄を言われてしまった。 「お前は天才なので、一緒に居ると私が霞んでしまう。お前とは今日限りで婚約破棄だ!」 「左様でございますか。残念ですが、仕方ありません……」 アリッサは彼の婚約破棄を受け入れるのだった。強制的ではあったが……。 その後、フリーになった彼女は何人もの貴族から求愛されることになる。元々、アリッサは非常にモテていたのだが、サイラスとの婚約が決まっていた為に周囲が遠慮していただけだった。 また、サイラス自体も彼女への愛を再認識して迫ってくるが……。

嫌われた妖精の愛し子は、妖精の国で幸せに暮らす

柴ちゃん
ファンタジー
生活が変わるとは、いつも突然のことである… 早くに実の母親を亡くした双子の姉妹は、父親と継母と共に暮らしていた。 だが双子の姉のリリーフィアは継母に嫌われており、仲の良かったシャルロッテもいつしかリリーフィアのことを嫌いになっていた。 リリーフィアもシャルロッテと同じく可愛らしい容姿をしていたが、継母に時折見せる瞳の色が気色悪いと言われてからは窮屈で理不尽な暮らしを強いられていた。 しかしリリーフィアにはある秘密があった。 妖精に好かれ、愛される存在である妖精の愛し子だということだった。 救いの手を差し伸べてくれた妖精達に誘われいざ妖精の国に踏み込むと、そこは誰もが優しい世界。 これは、そこでリリーフィアが幸せに暮らしていく物語。 お気に入りやコメント、エールをしてもらえると作者がとても喜び、更新が増えることがあります。 番外編なども随時書いていきます。 こんな話を読みたいなどのリクエストも募集します。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

お姉さまとの真実の愛をどうぞ満喫してください

カミツドリ
ファンタジー
「私は真実の愛に目覚めたのだ! お前の姉、イリヤと結婚するぞ!」 真実の愛を押し通し、子爵令嬢エルミナとの婚約を破棄した侯爵令息のオデッセイ。 エルミナはその理不尽さを父と母に報告したが、彼らは姉やオデッセイの味方をするばかりだった。 家族からも見放されたエルミナの味方は、幼馴染のローレック・ハミルトン公爵令息だけであった。 彼女は家族愛とはこういうものだということを実感する。 オデッセイと姉のイリヤとの婚約はその後、上手くいかなくなり、エルミナには再びオデッセイの元へと戻るようにという連絡が入ることになるが……。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

処理中です...