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(14)そうして、2人は決意をする

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午後のお仕事も終わり、一息ついている時でした。ルカさんがリビングへといらっしゃいました。

「イラリアさん、届きましたよ。今回のコンクールの正式な内容と応募者のリストです。僕は先に見せて貰いました」
ルカさんは、2つあるうちの片方の封筒を私に差し出します。
「あら、ありがとう御座います。早速拝見しますね」

渡された封筒から、2枚の書類を取り出しました。

成程。内容自体は以前、ルカさんからお聞きした通りですね。

今年出来た赤ブドウを使って作る新酒のコンテスト。ふむふむ、今年は国王陛下が主賓としてお越しになる関係で、優勝者のみに与えられるという賞金は中々色のついた金額でした。

もう一枚の紙には、この度参加される醸造所の方々が一覧で載っています。ちらほらと聞いた事のあるお名前が見受けられました。ただ、ある方の名前をみて私は動きを止めます。

…まさか、あの方が出場するのですか。

「これは強敵ですね」

他の参加者の方々を侮っていたわけではありません。それでも、予定通りのワインが作れれば十分に勝算があると考えていました。ですが、彼が出てくるとなれば話は別です。このままでは優勝は厳しいでしょう。

「ただ、目的はあくまで今年のブドウの出来を、皆様に知って頂くことですしね。楽しんでワインを作りましょう。大丈夫です。きっと来年販売するワインをアピールする良い機会になりますよ」

ルカさんに同意を求めますが、彼は無言のままです。ルカさんのお顔を覗き込むと、彼は険しい表情をされていました。
「あ、あのルカさん?」
「…優勝しないとダメなんです」
彼は呟くように言いました。

「え、えっと」
「優勝以外、なんの価値も無い!!」

この方の、こんな声も表情も初めてです。
「何か、あったのですか?」

ハッと我に返ったのでしょう。悔しそうな、それでいて寂しそうな表情を浮かべています。
「すいません。僕…少し頭を冷やしてきます」
そう言い残して、ルカさんはリビングを出て行かれました。

ルカさん、本当に何があったのでしょうか。ずっと温厚で優しかったルカさんが、あんなに声を荒げるなんて普通じゃありません。

私が呆然としていると、ドンっ!という大きな音が室内に響きました。
「い、いたい、、、」
「あ、アミちゃん。大丈夫?」
いつから居たのか気が付きませんでした。遊んでいたのでしょうか。アミちゃんは、机にぶつかった衝撃で床に転んでしまいました。

「お怪我は無いですか?」
「うん、大丈夫。でも」

彼女の視線の先には、床に散らばった書類や小物など。今の衝撃で机の上から色々落ちてしまったようです。

「大丈夫ですよ。お姉ちゃんが片付けますから。それより気を付けてくださいね」
「うん、ごめんなさい」
しょんぼりとリビングを出ていくアミちゃん。あら、こんな時だというのに思わず笑ってしまいます。だって、その後ろ姿が、ルカさんによく似ていたからです。フフっと、笑いながら、床に散らばったものを片付けようとしました。

「あら?」
ルカさんが机に置かれていった、もう1枚の封筒。中からは書類が飛び出しています。大切なものかもしれませんし仕舞っておこうと手を伸ばしました。
「これは、、、」


「すいません、イラリアさん。アミがご面倒をお掛けしたようで。僕が片付けますから」
ルカさんが、落ち着きを取り戻した様子で、リビングに戻ってきました。アミちゃんからお話を聞いたのでしょう。

「先程は失礼しました。すいません、取り乱してしまって」
でも、私はその声に応じる事が出来ずに一枚の紙を抱えながら、床に両の膝をついていました。

「イラリアさん。それは!?」
ルカさんは驚いて、私の元へ駆け寄ってきます。

「勝手に見てしまって御免なさい。でも、どうして私に何も言ってくれなかったんですか?」
「そ、それは。これは家族の問題ですし、イラリアさんに言ったら、ご迷惑を掛けるかもしれないって思って」

「何ですかそれ!?私はもう、貴方達を大切な人だと思っています。お願いですから、辛かったら相談してください。伝えてください。1人で抱え込まないで」
私は、思わず涙を流していました。

私の手元から、その紙がパラりと落ちました。

それは、病院から届いたものです。お父様が、かなり悪い状態である事を報せるものでした。治る見込みは決して高くないが、直ぐにでも手術を受ける必要があること。そして、その手術を受けるにあたって多くの費用が掛かること。

「ルカさんは、優勝した賞金をお父様の手術費用の頭金にしようとしていたんですよね。これだけの費用ですから、先ずは病院に手術を引き受けて頂けるように」

ルカさんは、ぽつりと話し出しました。
「ええ、病院も慈善事業ではありません。払える見込みのない手術は引き受けてくれないでしょう。だけど、手元にそんなお金はありません。いくら来年のワインが良く売れるはずだ、と説得したところで引き受けては貰えないでしょう」

ルカさんは力なく項垂れます。
「すいません。僕、馬鹿ですよね。貴方に頼ることも出来ないくせに、当たってしまった。本当に何がしたいんだっていう話ですよ」

私はグリグリと涙を拭うと、ルカさんを見上げます。
「それで、ルカさんはどうします?どうしたいですか」

ルカさんもまた、生気を取り戻した瞳で私を見つめ返します。
「勝ちたいです!絶対に…だから手を貸してください」

差し出された手を取り、私は立ち上がります。

「さあ。勝つための作戦会議を始めましょう」
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