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(8)マリアージュ

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正直に申し上げますと、テイスティングは最低レベル。という事を想定してカリキュラムを組んでいたので、思ったよりも早く終わりました。そこで、本日は少し早めに切り上げる事にしました。

「しかし、イラリアさん。教え方がお上手ですね」
「あら、お褒めに預かり嬉しいです」
現在、ルカさんは夕食のお料理を作ってくれています。私はアミちゃんと一緒に机に座って、お料理が出来るのを待っていました。アミちゃんは学校に通っていますが少々離れた場所に在る為、出発は早く帰りは夕食前と多忙な生活を送っているようです。

「良いな―。私もお姉ちゃんとお勉強したい」
「良いですよ。お姉ちゃんは、算数と理科が得意なので教えてあげます」
「本当に!やった。」
私の手を握り締めて、ご自分の頬にぐりぐりと押し付けています。本当に可愛いです、今度一緒に遊びに行きたいです。

「よし完成。アミ、運ぶのを手伝ってくれ」
晩御飯が出来ました。私は見ていただけなので恐縮ですが。

わあ、朝ごはんに引き続き美味しそうです。メインは牛肉のローストですね。何かソースが掛かっています。
「ちょっと豪勢にしました。実は、今朝早くに知り合いが子牛を分けてくれまして」
それではいただきます。と、食べようとした時です。

「あ、そうだ。イラリアさん」
「何でしょうか?」
「実はメインの子牛の料理なんですが。僕なりに先ほど飲んだワインと合うように作ってみました。良かったら合わせてみて下さい」
あら、それは嬉しいご提案です。嬉々としてワインを用意します。
「ああ、アミはこっちのブドウジュースと一緒に食べてごらん」

「では、早速頂きます」
私は子牛にソースをつけて口に入れました。

美味しい。脂身の少ない部位で、ほんの僅かにパサついた感じもしますが柔らくて旨味が強いです。そして、このソースはイチジクをメインに作ったものですね。イチジクの甘みが、お肉の旨味を高めています。もう直ぐ食事を飲み込む、このタイミングでワインを口に含みます。

その瞬間。

僅かにパサついたお肉の中にワインが染み込み最高の食感に昇華されました。そしてソースのイチジクを中心にして、様々な果実の風味が一気に口から鼻孔へと突き抜けます。

「これは…」
私は思わず無言になってしまいます。不安げな表情を浮かべるルカさん。
「すいません、お口に合いませんでしたか?」
「…このワインをここまで活かすなんて私には無理でした。お肉が僅かにパサついたのも狙っていたのですね」
「ええ、元々脂肪が多い部位ではないので熱を通すと固くなりやすいですし。だったら、それを利用してみるのも面白いかなと思いました。口に液体を含むことで完成する。そんな皿を構想しました」

アミちゃんを見ると、凄い勢いでお肉とブドウジュースを頬張っています。

少し悔しいです。美味しいワインを作ることは当然ですが、私の業務にはマリアージュ。つまりどんな食事と一緒にワインを呑めば、より美味しくなるのかを提案する、というものもありました。城内のコックの方々と相談しながら、様々な皿を国王をはじめ上役の方々に試して頂きお褒めに預かりました。なのにこの皿を食べた瞬間まるで…

『正解はこれだよ』

と、答えを教えて貰った気持ちになったのです。先ほど初めてこのワインを飲んだばかりの方にです。

ルカさんは無言の私に少しだけオドオドしています。
「ええと、もしかしてお褒めに預かれています?」

本当に凄いです。味覚もそうですが、このワインの香りの中心をイチジクと定める辺り、かなり嗅覚のバランスに優れた方の様です。そして僅かな時間でこれほどの料理の構想力。

これなら、もしかして…

「ルカさん!」
「は、はい!」

「提案があります。ワインコンクールについてです」

こうして私は、一つの作戦を彼と共有するのでした。
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