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冒険者学校入学編
52.図書室
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放課後、『闘気』をどう構築していくのか構想が行き詰っており、参考になる資料はないかと思い学校の図書室に足を向けていた。
図書室という名前ではあるが独立した建物になっており非常に大規模であり、もはや図書館と呼んでもいいのではないかと思う。
セントラル冒険者学校の図書室は国の研究者や貴族なども利用しているらしく、恐らくこの国で最も書物が集まっている場所なのではないだろうか。
そんな超立派な図書室だが…… 利用者は全然いなかった。
閉館時間なのかと思い司書に聞いてみたが、ただ単に利用者が少ないだけらしい。
図書室とは名ばかりで、利用者のほとんどは国の研究機関で生徒はほとんど来ないらしい。
僕は前世では本が大好きで、学生時代古本屋でバイトしていたくらいだ。
社会人になってからは読書の時間が中々取れず、通勤時間くらいしか本が読めなくなってしまっていたが……
図書室は静寂に包まれており、久々にゆっくりと本が読めそうだなと少しわくわくしてきた。
フラフラと本棚を眺め、ふと目に入った過去の英雄に関する伝記を手に取る。
英雄と呼ばれるほどの強者がどのような能力を持っていたのか、どのように戦っていたのかは参考になるだろうと思案し、本を持って読書スペースに向かう。
読書スペースには大きな窓から適度な光が注いでおり、窓の外には綺麗に整備された庭が見えた。最高の読書環境だ。
そしてそこには、机の上に二つの重そうな膨らみを乗せつつ、美しい水色の長髪をかき上げて読書をしている先客がいた。
「あっ! シリウス様!?」
「アリアさん! 利用者がいるなんて珍しいと思ったら、アリアさんだったんですね」
「は、はい! 静かに本が読める図書室がお気に入りなんです! シリウス様は…… 伝記、ですか?」
「はい。鍛錬の参考になるかなと思って、過去の英雄たちの歴史を学んでみようかなと」
「ほぇぇ…… 流石シリウス様です……」
適当に手にとった本なのだが、アリアさんはキラキラとした瞳でこちらを見てくる。
「アリアさんは何の本を読んでいるんですか?」
「私は…… えっと…… そのぉ……」
アリアさんが読んでいる本をちらりと見ると、毒薬とか爆薬とか物騒な文字が目に入った。
「あ! あのあの、これは……」
「アリアさんも強くなるために勉強しているんですね! 仲間ですね!」
気まずそうな顔をしていたアリアさんに笑顔を向ける。
冒険者になるためには戦闘手段はいくらあっても困ることはない。
その勉強を放課後にも積極的にしているのだ、偉いと思う。
「あ! 仲間…… ですね……」
何故か頬を赤らめて嬉しそうにはにかむアリアさん。
「あぁ、読書の邪魔をしてしまいすいません。僕も一緒に読んでもいいですか?」
「は、ははははい!! 是非!! 隣で一緒に読書しましょう!!!」
アリアさんは凄い勢いでイスを引いてくれた。優しいな。
アリアさんの隣に座り、並んで読書をはじめる。
静寂に包まれる空間に、紙がめくられる音が時たま聞こえる。
程よく差し込む陽の光がとても心地良い。
あー、ゆっくりと本を読める、幸せな時間だなぁ。
暫く読み進めていたが、ふといつの間にか隣からページがめくられる音がしなくなっていたことに気づく。
チラと隣を見ると、アリアさんと目が合った。
「あ!! あわあわわ……」
アリアさんは目が合うと、焦って目線を外して本を読み始めた。
何かあったかなと思いつつも、アリアさんは必死に本を読んでいるようなので気にせずに読書に戻る。
――ペラ…… ペラ……
――……チラッ
隣からなんか気配を感じ、チラリと視線を隣に移すと、またもやアリアさんと目が合った。
「!? あわわわわ……」
またもやすぐに視線を外される。
「? どうかしました?」
「な、なんでもありません……」
「顔が赤いですが、もしかして体調が……」
「い、いいいえ!! 大丈夫です! 元気です!」
「そうですか? 無理はしないでくださいね」
「はい、ありがとうございます……」
アリアさんは顔が赤いまま、一心不乱に本を読み始めた。
まぁ何もないならいいんだけど…… 僕も続きを読むかな。
◆
読書に夢中になってしまい、気がついたら窓の外が暗くなりはじめていた。
この伝記に出てくる過去の英雄たちは結構無茶をしており、ストーリーとしても普通に面白かった。
『闘気』の着想にはあまり役にはたたなさそうであったが……
パタンと本を閉じ隣に目をやると、アリアさんもちょうど本を閉じており、視線が交わった。
「僕はそろそろ帰ろうと思いますが、アリアさんはどうします?」
「わ、私ももう帰ります!」
「では、一緒に帰りましょうか」
「は、はい!!」
本を元あった棚に返却し、二人で図書室を出て寮に向かって歩き出した。
「そういえばアリアさん、出会った頃からずっと様付けですよね。同級生なのに様付けもむず痒いので、よかったらシリウスって呼んでいただけませんか?」
「えっ!? えええ!? シリウス様を呼び捨てなんて恐れ多いです……!!」
アリアさんがあまりに恐縮しており、思わず苦笑いが漏れる。
でも同級生だし、上下関係みたいで嫌なんだよなぁ。
「そっかぁ…… アリアさんはそんなに距離を取りたかったんですね…… 寂しいですが、仕方ないですね……」
「え!? いやその!! ううぅ…… シリウス……くん……」
「ふふ、ありがとうございます」
計画通り!
ニヤリと笑う僕を、アリアさんは少し困ったような嬉しいような複雑な表情で見つめ、微笑んだ。
図書室という名前ではあるが独立した建物になっており非常に大規模であり、もはや図書館と呼んでもいいのではないかと思う。
セントラル冒険者学校の図書室は国の研究者や貴族なども利用しているらしく、恐らくこの国で最も書物が集まっている場所なのではないだろうか。
そんな超立派な図書室だが…… 利用者は全然いなかった。
閉館時間なのかと思い司書に聞いてみたが、ただ単に利用者が少ないだけらしい。
図書室とは名ばかりで、利用者のほとんどは国の研究機関で生徒はほとんど来ないらしい。
僕は前世では本が大好きで、学生時代古本屋でバイトしていたくらいだ。
社会人になってからは読書の時間が中々取れず、通勤時間くらいしか本が読めなくなってしまっていたが……
図書室は静寂に包まれており、久々にゆっくりと本が読めそうだなと少しわくわくしてきた。
フラフラと本棚を眺め、ふと目に入った過去の英雄に関する伝記を手に取る。
英雄と呼ばれるほどの強者がどのような能力を持っていたのか、どのように戦っていたのかは参考になるだろうと思案し、本を持って読書スペースに向かう。
読書スペースには大きな窓から適度な光が注いでおり、窓の外には綺麗に整備された庭が見えた。最高の読書環境だ。
そしてそこには、机の上に二つの重そうな膨らみを乗せつつ、美しい水色の長髪をかき上げて読書をしている先客がいた。
「あっ! シリウス様!?」
「アリアさん! 利用者がいるなんて珍しいと思ったら、アリアさんだったんですね」
「は、はい! 静かに本が読める図書室がお気に入りなんです! シリウス様は…… 伝記、ですか?」
「はい。鍛錬の参考になるかなと思って、過去の英雄たちの歴史を学んでみようかなと」
「ほぇぇ…… 流石シリウス様です……」
適当に手にとった本なのだが、アリアさんはキラキラとした瞳でこちらを見てくる。
「アリアさんは何の本を読んでいるんですか?」
「私は…… えっと…… そのぉ……」
アリアさんが読んでいる本をちらりと見ると、毒薬とか爆薬とか物騒な文字が目に入った。
「あ! あのあの、これは……」
「アリアさんも強くなるために勉強しているんですね! 仲間ですね!」
気まずそうな顔をしていたアリアさんに笑顔を向ける。
冒険者になるためには戦闘手段はいくらあっても困ることはない。
その勉強を放課後にも積極的にしているのだ、偉いと思う。
「あ! 仲間…… ですね……」
何故か頬を赤らめて嬉しそうにはにかむアリアさん。
「あぁ、読書の邪魔をしてしまいすいません。僕も一緒に読んでもいいですか?」
「は、ははははい!! 是非!! 隣で一緒に読書しましょう!!!」
アリアさんは凄い勢いでイスを引いてくれた。優しいな。
アリアさんの隣に座り、並んで読書をはじめる。
静寂に包まれる空間に、紙がめくられる音が時たま聞こえる。
程よく差し込む陽の光がとても心地良い。
あー、ゆっくりと本を読める、幸せな時間だなぁ。
暫く読み進めていたが、ふといつの間にか隣からページがめくられる音がしなくなっていたことに気づく。
チラと隣を見ると、アリアさんと目が合った。
「あ!! あわあわわ……」
アリアさんは目が合うと、焦って目線を外して本を読み始めた。
何かあったかなと思いつつも、アリアさんは必死に本を読んでいるようなので気にせずに読書に戻る。
――ペラ…… ペラ……
――……チラッ
隣からなんか気配を感じ、チラリと視線を隣に移すと、またもやアリアさんと目が合った。
「!? あわわわわ……」
またもやすぐに視線を外される。
「? どうかしました?」
「な、なんでもありません……」
「顔が赤いですが、もしかして体調が……」
「い、いいいえ!! 大丈夫です! 元気です!」
「そうですか? 無理はしないでくださいね」
「はい、ありがとうございます……」
アリアさんは顔が赤いまま、一心不乱に本を読み始めた。
まぁ何もないならいいんだけど…… 僕も続きを読むかな。
◆
読書に夢中になってしまい、気がついたら窓の外が暗くなりはじめていた。
この伝記に出てくる過去の英雄たちは結構無茶をしており、ストーリーとしても普通に面白かった。
『闘気』の着想にはあまり役にはたたなさそうであったが……
パタンと本を閉じ隣に目をやると、アリアさんもちょうど本を閉じており、視線が交わった。
「僕はそろそろ帰ろうと思いますが、アリアさんはどうします?」
「わ、私ももう帰ります!」
「では、一緒に帰りましょうか」
「は、はい!!」
本を元あった棚に返却し、二人で図書室を出て寮に向かって歩き出した。
「そういえばアリアさん、出会った頃からずっと様付けですよね。同級生なのに様付けもむず痒いので、よかったらシリウスって呼んでいただけませんか?」
「えっ!? えええ!? シリウス様を呼び捨てなんて恐れ多いです……!!」
アリアさんがあまりに恐縮しており、思わず苦笑いが漏れる。
でも同級生だし、上下関係みたいで嫌なんだよなぁ。
「そっかぁ…… アリアさんはそんなに距離を取りたかったんですね…… 寂しいですが、仕方ないですね……」
「え!? いやその!! ううぅ…… シリウス……くん……」
「ふふ、ありがとうございます」
計画通り!
ニヤリと笑う僕を、アリアさんは少し困ったような嬉しいような複雑な表情で見つめ、微笑んだ。
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