上 下
23 / 24

23.簡単なお仕事

しおりを挟む
 他種族国と一触触発状態であることは分かっていたが、ここまで種族差別が酷いとは思っておらず、真一は自身の見通しが甘かったことに歯噛みした。
 冒険者ギルドは獣人族領にもあるため、種族差別がないと油断していた。
 職員はまだしも他の冒険者があのように絡んでくることは容易に想像できるはずであった。

「マロン、悪かったな」

 真一は項を掻きつつ、マロンに謝った。

「んー? あんな奴らの言うこと、ぜーんぜん気にしてないよ。ボクには真一がいてくれるからねっ?」

 マロンはにししと歯を見せて笑う。
 そんなマロンを見て、真一はほっと息を吐いた。



 二人は街周辺に出没する魔物の討伐クエストを受注していた。
 大体の街では治安維持のために常設されているクエストである。

 サヴォーナの街周辺に出没する魔物はウルフ系、スライム、ゴブリン程度と低ランク冒険者でも無茶をしなければやっていけるレベルのクエストと言える。

 二人は若い冒険者達を尻目に、人が少ない西側の森付近へ来ていた。
 東側街道とそこに隣接している南北は比較的冒険者が多いため魔物は少なく、安全に狩りをすることができる。
 一方西側には森林が広がっており、比較的強い魔物が多く分布していた。
 王都から中途半端に離れているサヴォーナには戦闘力の高い冒険者が少なく、西側は放置されがちになってしまっているそうだ。

 邪魔がなく狩り放題な西側は、真一とマロンにとっては優良な狩場であった。

 ブォンブォンとモブ魔物を切り払うマロン。
 それを躱せるくらいの知能を持った魔物や戦闘力を持った魔物を真一が側面からスピードを武器に殺していく。
 またスライムも真一の陽炎でしか魔石をとることができないため、真一の担当である。

 正面から戦って鍛えると言っていた真一であったが、今回はマロンのギルドランクを上げることを優先して討伐数を稼ぐように動いていた。
 またレイアが抜けた後はマロンとの二人旅となる。二人で魔物を狩ることも非常に多いと考えられるため、連携の練習も兼ねていた。
 それでも《隠密》は使わずに戦っているが。

 夕方頃、持ち込んだ革袋が討伐証明部位でパンパンになったところで二人は冒険者ギルドに戻った。



 カランコロンとドアベルを鳴らして冒険者ギルドに入ると、受付嬢がチラと真一達を見て、すぐに興味を失ったように手元の書類に目が移った。
 かと思うと、すぐにバッと目を見開いて二人、いやマロンをガン見した。真一はやはり視界に入っていないようだ。

 真一とマロンは共に大きめの革袋を背負っており、両方ともパンパンである。
 真一は未だ存在に気づかれていないが、マロンが背負ったパンパンの革袋に受付嬢やギルド内の冒険者達の視線は釘付けになっていた。

 真一は受付に行き、静かに声をかけた。

「クエストクリアの査定をお願いします」
「ひィッ!? いつの間……あ、いや、か、かしこまりました!」

 真一は頬を引き攣らせつつ、マロンと共にカウンターに革袋を置いた。

「えぇっと……こ、これは……?」
「討伐証明部位です。ご確認お願いします」
「えぇっ!? もしかしてこれ、全部ですか……?」
「その通りですが?」
「か、かしこまりました。量が多いため少々お時間をいただきますがご了承下さい」
「分かりました」

 受付嬢は革袋の中身を見て一瞬放心し、同僚に肩を叩かれていた。
 その後、泣きそうになりながら同僚と共に素材の査定を行っている。

 ギルド内では多くの冒険者がこそこそと小声で喋っており、羨望、疑問、嫉妬、様々な視線が真一とマロンに向けられていた。
 実際はモブ魔物ばかりであるので、ある程度の能力を持った冒険者が二人もいればこの程度造作もないことである。
 しかしそんな能力を持つ冒険者はわざわざモブ魔物掃除の依頼など受けないため、E、Fランク帯でこのような大量は滅多になかった。

 また微妙な位置にあるサヴォーナには、そのある程度の能力を持つ冒険者は非常に少なく、更にはギルド内で管を巻いている冒険者はその中でも底辺に位置する。
 そんな人間たちからしたら、登録早々のFランクの獣人族が大量の素材を持ち込むということは中々に認めたくないことであった。

 真一はそれに気付きつつもガン無視を決め込み、マロンは気づいていないのか全く気にする様子もなく、ギルド酒場で注文した果実水を呷りながら今日の夜ご飯何食べよっかなどと楽しげに話しながら査定結果を待っていた。

 今回のクエストクリアによってマロンはEランクへと昇格した。またポイント的にDランクも間近だそうだ。
 一方真一はDランクのままで、Cランクまではまだまだポイントが必要ということであった。今回の依頼もランク差が合ったためそこまでポイントは入っていない。

 真一はギルドから出る時に何人かから殺意のこもった視線を背中に感じつつ、実力的にも特に問題なさそうであったので気にしないことにした。



 レイアと合流し宿で夕食を取った後、真一がそろそろ体を拭こうと思っているところへレイアがやってきた。

「裏ギルドで依頼が来ていた。シン、手伝いを頼む」
「明日じゃ駄目なのか?」

 体を拭いて寝ようと思っていたところであった真一は、嫌そうな顔を隠しもせずにレイアに聞いた。

「できれば今日から動きたいんだ。強制はしないが、誰のお陰で魔技マジックアーツを使えるようになったのかなぁ?」

 レイアはニヤニヤとしつつ腕を組んで真一を見下ろした。

「…………分かった。すぐに準備する」
「ふふん、流石はあたしの部下だ」

 真一は苦虫を噛み潰したような顔をしつつ、装備を身に付けた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...