異世界転移が珍しくない世界に巻き添え召喚！

朝【転移者と小人】

「シルク様、起きて下さい」

　ぺちぺちと、頬に小さな手が当たった。

「朝です」

　薄く目を開ければ、シルクの顔のすぐ横で小人がニコッと笑った。

「今日もありがと、カイル君」
「それが僕の役目ですから……」

　傷つけないように小さな頭を慎重に撫でてやれば、カイルがくふっと満足そうに笑う。彼を雇ったのはつい先月の話だ。掌サイズの人型スマートフォンーーではなく、小人族の召使い。たまたま通りかかった店頭で意気投合し、契約に至ったのだった。毎朝一生懸命に起こしてくれる小人族の彼は時間も予定もしっかり管理してくれて、まだ異世界に慣れないシルクにとってあっという間に重宝する存在に成った。

「カイル君、今日は列車は？」
「通常通りです。シルク様の使う路線に遅延も運転見合わせもありません」
「そっか」

　適当に身支度を整えてパンをトースターに放り込む。起きる時間はギリギリで間に合うような時間だ。以前は寝過ごす事が怖くて少し早めに目覚ましをセットしていたのだが、今ではカイルが必ず起こしてくれるので起きなければならない寸前まで寝ていられるようになった。バターを塗ったトーストを頬張るシルクに、彼女の四分の一サイズで同じ物を食べるカイルが今日の天気を告げる。

「晴れ時々曇り、最高気温は３２℃です」
「今日も暑くなりそうだね」

　支度が終わって時計を見ればちょうど出る時間になっている。机の上に座っていたカイルをシルクはひょいと持ち上げて、彼の定位置である胸ポケットに入れた。

「カイル君、今日もよろしくね」
「はい、ノワール様」

　胸ポケットから顔を出した小人が小さく笑った。