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道草【椛と暁】
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イルミネーションがきらきらと瞬いている。クリスマスから年末にかけて明らかにその目的を替えつつも、デザインディテールその他もろもろ換えられる事なく公園を彩る電飾。それは年末に入ってもチカチカと目に眩い色鮮やかな光を放っていた。いっそここまでくると潔いかもしれないと、紅葉とヒカルは顔を見合わせると呆れを存分に含んだ失笑を漏らした。
「クリスマスの時とは多少装飾が違うようだが……」
「パッと見じゃ見分けつかないですね」
テレビのニュースや雑誌で取り上げられるような、有名なイルミネーションではない。田舎の風情を残しつつも何処か途中で諦めたような都会化の雰囲気も持ち合わせた街の取り組みなのだからこれが精いっぱいというところか。けれど、とりあえず頑張りました感が何処か微笑ましく紅葉とヒカルは跨っていたバイクを降りると、人気も疎らにイルミネーションだけがチカチカと光るだだっ広い公園に足を向けた。
「寄り道をしていると遅刻するぞ」
一応紅葉はそう忠告してみるが、公園に向かう赤いブーツは止まらない。最初から公園へ向かうヒカルの行動を制止するつもりなどなく、今の注意だってただ今後の予定を確認するために漏らしたに過ぎない。彼女もそれが理解っているのだろう、特に気にした様子もなかった。
「二年参りをするつもりだったのは私達だけです、遅刻にはならないでしょ」
「それもそうか」
途中で見つけた自販機で購入した、缶コーヒーを紅葉は掌の中で玩ぶ。特に喉が渇いていたわけではなく、寒そうに指先を擦り合わせるヒカルに、ホッカイロ代わりにと缶のコーンスープを買ってやった。その時のついでだ。ちらりと横を見れば、ヒカルは躰の芯から寒かったのかいつの間にやらプルタブを開け、口をつけていた。ほわりと温かそうな靄がヒカルの口元から立ち昇る。
これから向かう先の神社はきっとたくさんの人で賑わっているだろうに、この公園には見渡せる限りぽつりぽつりとしか人がいない。少し寂しいこの閑散とした空気が何処か愛しくて離れがたかった。それでも、あまり長居をしてしまえばソハヤたちとの待ち合わせに遅れてしまうと、鈍る心を奮い起こして紅葉が腰掛けていたベンチから腰をうかそうとしたその時。ずっと時計の長針を追い掛けていたヒカルが、紅葉の襟首を引っ掴みぐっと引き寄せた。
突然の事に目を瞬かせる紅葉と鼻がくっつきそうな至近距離でヒカルが悪戯気に笑い、すぐに瞼を伏せる。ほんの一瞬、柔らかな唇が己のそれに重なってすぐに離れていく。ごーんと一際大きな鐘が鳴り、何処かで鳴らされた爆竹の音に重なって歓声が聞こえた。年が明けたのかと紅葉は一人納得する。
「あけましておめでとうございます」
「ああ……」
「もう、挨拶は大事ですよ」
まだ首に腕は回されたまま、鼻の頭がくっつきそうな程に近くでヒカルがしてやったりという風にニンマリ笑った。頬が寒さで紅くなっていたけれど、この紅さは寒さのせいだけではないだろう。けれど、それ以上に自分も真っ赤になっているのをヒカルは自覚していたから自ら地雷を踏むような馬鹿な真似はしなかった。紅葉はすぐ側にある細い躰を息を詰めない強さで抱きしめると、ヒカルの耳元でモゴモゴと呟いた。
「あ、あー……その、今年もよろしく……」
――来年も、同じ言葉を伝えられますように。
「クリスマスの時とは多少装飾が違うようだが……」
「パッと見じゃ見分けつかないですね」
テレビのニュースや雑誌で取り上げられるような、有名なイルミネーションではない。田舎の風情を残しつつも何処か途中で諦めたような都会化の雰囲気も持ち合わせた街の取り組みなのだからこれが精いっぱいというところか。けれど、とりあえず頑張りました感が何処か微笑ましく紅葉とヒカルは跨っていたバイクを降りると、人気も疎らにイルミネーションだけがチカチカと光るだだっ広い公園に足を向けた。
「寄り道をしていると遅刻するぞ」
一応紅葉はそう忠告してみるが、公園に向かう赤いブーツは止まらない。最初から公園へ向かうヒカルの行動を制止するつもりなどなく、今の注意だってただ今後の予定を確認するために漏らしたに過ぎない。彼女もそれが理解っているのだろう、特に気にした様子もなかった。
「二年参りをするつもりだったのは私達だけです、遅刻にはならないでしょ」
「それもそうか」
途中で見つけた自販機で購入した、缶コーヒーを紅葉は掌の中で玩ぶ。特に喉が渇いていたわけではなく、寒そうに指先を擦り合わせるヒカルに、ホッカイロ代わりにと缶のコーンスープを買ってやった。その時のついでだ。ちらりと横を見れば、ヒカルは躰の芯から寒かったのかいつの間にやらプルタブを開け、口をつけていた。ほわりと温かそうな靄がヒカルの口元から立ち昇る。
これから向かう先の神社はきっとたくさんの人で賑わっているだろうに、この公園には見渡せる限りぽつりぽつりとしか人がいない。少し寂しいこの閑散とした空気が何処か愛しくて離れがたかった。それでも、あまり長居をしてしまえばソハヤたちとの待ち合わせに遅れてしまうと、鈍る心を奮い起こして紅葉が腰掛けていたベンチから腰をうかそうとしたその時。ずっと時計の長針を追い掛けていたヒカルが、紅葉の襟首を引っ掴みぐっと引き寄せた。
突然の事に目を瞬かせる紅葉と鼻がくっつきそうな至近距離でヒカルが悪戯気に笑い、すぐに瞼を伏せる。ほんの一瞬、柔らかな唇が己のそれに重なってすぐに離れていく。ごーんと一際大きな鐘が鳴り、何処かで鳴らされた爆竹の音に重なって歓声が聞こえた。年が明けたのかと紅葉は一人納得する。
「あけましておめでとうございます」
「ああ……」
「もう、挨拶は大事ですよ」
まだ首に腕は回されたまま、鼻の頭がくっつきそうな程に近くでヒカルがしてやったりという風にニンマリ笑った。頬が寒さで紅くなっていたけれど、この紅さは寒さのせいだけではないだろう。けれど、それ以上に自分も真っ赤になっているのをヒカルは自覚していたから自ら地雷を踏むような馬鹿な真似はしなかった。紅葉はすぐ側にある細い躰を息を詰めない強さで抱きしめると、ヒカルの耳元でモゴモゴと呟いた。
「あ、あー……その、今年もよろしく……」
――来年も、同じ言葉を伝えられますように。
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