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図書室
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「自分の身に起きた恐ろしい話はこれと言ってないのだけれど、奇妙な話なら聞かせられると思う。前にね、棚の向こうに見えた二つの目と目が合った事があるんだ。……分かってる、それじゃあよくある光景よね。もう少し、話を進めていけばわかるから」
その青い目玉が合った時、真っ先に思った。
「誰だっけ」
自分は委員会活動中であり、貸し出された本を所定の棚に返さなくてはいけない。カートに乗せられた数冊の書籍を指定の場所に返せば、棚の向こうの生徒と目が合っていた場所は埋まる。
するとそいつは、自分にぴったりついてくるようにして移動してくるのだ。次に戻す本の置き場所である本棚に向かうと、必ずその青い瞳と目が合う。服も、髪の毛すら見えない。見えるのは目が二つだけ。ちょっと面白くなってきた。誰であるかは知らないが、図書室でろくに本も読まずに図書委員をからかうとはいい度胸をしている。後輩ならとっ捕まえて注意してやろうかと思ったし、先輩なら注意した後に先生に報告しようと考えたのである。
そうなれば、やるべきは犯人の特定だ。早歩きをしてみたり、突然の立ち止まってみたり、背伸びをしたりといろいろ試してみた。僅かでもペースとそいつのペースをずらして、目以外の特徴を掴もうとしたのである。しかし、大きな目の生徒はいつまでもついてくる。
必ず棚の反対側からこちらを覗くので姿はそれ以上見えないし、声を一言も発しない。次第にその遊びに飽きて、大人しく本を仕舞い出した。しかし目の生徒はまだ遊びを止めていないらしく、本を仕舞うためにちょこちょこと動き回るこちらの様子を大きな目で見つめながら、ちょこちょこと動き回っていた。 面倒な生徒もいたものだ。誰だかは分からないが、こんな生徒がいるから注意をするようにと図書委員会の定例会議で連絡するべきであるなと往来の生真面目さがそう考えさせた。
気付けば、残り一冊まで貸し出し図書を片付けていた。これを片付ければ、ひとまず仕事は終了だ。後は図書室の入口で貸出の手続きをするだけである。貸出の机は人を隠せる場所などないし、書棚が一望できる。入口も絶えず見張る結果となるのだから、今自分で遊んでいる生徒が誰かも分かるかもしれない。そのせいか、ちょっとだけ意地の悪い楽しみを覚えてしまった。図書室で遊ぶヤツがいけないのだと自分を正当化する事も忘れない。
最後の本は一番下の棚のものであった。手元にある本と棚の分類を再度確認し、まるでその本が納められるのを待っているように空いている箇所を見つけた。一番下の棚に本を仕舞うためにしゃがむと、先程から自分で遊んでばかりいる目が、一番下の棚と床の間の隙間から、上目遣いでこちらを見つめてきた。
「香那、少しよいか」
「なんですか?」
そこで藤野先輩が図書室の入口から顔を出した。聞くと、新刊図書が来たから運ぶのを手伝ってほしいと言う。一番下の棚に本を仕舞って図書室を出た。すると何を言ったわけでもないのに、
「あれは悪いものではないゆえ詮索せんでもよい」
先輩は笑っていたが、香那はあの真っ青な目玉が未だ忘れられない。
その青い目玉が合った時、真っ先に思った。
「誰だっけ」
自分は委員会活動中であり、貸し出された本を所定の棚に返さなくてはいけない。カートに乗せられた数冊の書籍を指定の場所に返せば、棚の向こうの生徒と目が合っていた場所は埋まる。
するとそいつは、自分にぴったりついてくるようにして移動してくるのだ。次に戻す本の置き場所である本棚に向かうと、必ずその青い瞳と目が合う。服も、髪の毛すら見えない。見えるのは目が二つだけ。ちょっと面白くなってきた。誰であるかは知らないが、図書室でろくに本も読まずに図書委員をからかうとはいい度胸をしている。後輩ならとっ捕まえて注意してやろうかと思ったし、先輩なら注意した後に先生に報告しようと考えたのである。
そうなれば、やるべきは犯人の特定だ。早歩きをしてみたり、突然の立ち止まってみたり、背伸びをしたりといろいろ試してみた。僅かでもペースとそいつのペースをずらして、目以外の特徴を掴もうとしたのである。しかし、大きな目の生徒はいつまでもついてくる。
必ず棚の反対側からこちらを覗くので姿はそれ以上見えないし、声を一言も発しない。次第にその遊びに飽きて、大人しく本を仕舞い出した。しかし目の生徒はまだ遊びを止めていないらしく、本を仕舞うためにちょこちょこと動き回るこちらの様子を大きな目で見つめながら、ちょこちょこと動き回っていた。 面倒な生徒もいたものだ。誰だかは分からないが、こんな生徒がいるから注意をするようにと図書委員会の定例会議で連絡するべきであるなと往来の生真面目さがそう考えさせた。
気付けば、残り一冊まで貸し出し図書を片付けていた。これを片付ければ、ひとまず仕事は終了だ。後は図書室の入口で貸出の手続きをするだけである。貸出の机は人を隠せる場所などないし、書棚が一望できる。入口も絶えず見張る結果となるのだから、今自分で遊んでいる生徒が誰かも分かるかもしれない。そのせいか、ちょっとだけ意地の悪い楽しみを覚えてしまった。図書室で遊ぶヤツがいけないのだと自分を正当化する事も忘れない。
最後の本は一番下の棚のものであった。手元にある本と棚の分類を再度確認し、まるでその本が納められるのを待っているように空いている箇所を見つけた。一番下の棚に本を仕舞うためにしゃがむと、先程から自分で遊んでばかりいる目が、一番下の棚と床の間の隙間から、上目遣いでこちらを見つめてきた。
「香那、少しよいか」
「なんですか?」
そこで藤野先輩が図書室の入口から顔を出した。聞くと、新刊図書が来たから運ぶのを手伝ってほしいと言う。一番下の棚に本を仕舞って図書室を出た。すると何を言ったわけでもないのに、
「あれは悪いものではないゆえ詮索せんでもよい」
先輩は笑っていたが、香那はあの真っ青な目玉が未だ忘れられない。
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