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部屋デート2【番外編】
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窓から時おり吹き込む風が軽く頬を撫でる。形のないそれは春というよりは既に次の季節の匂いを含んで、窓から見える空はまだ暮れる気配を見せない。いつのまにか昼間が以前よりもずっと、長い。
「…………」
季節の移ろいに淡く笑んで、飛鷹は視線を落とす。落とした先には穏やかな吐息を繰り返す恋人の寝顔があって、その頭を受け止める自分の膝に掛かる重みすらも堪らなく愛おしい。室内を満たす全てが夏を思わせる空気だけではないような気がして、浅く息を吸い込んだ。
「睫毛、長いなあ……」
気持ちよさそうに眠る紀美乃を起こしてしまわぬように、飛鷹はそっと射干玉色の髪に触れる。寝息は途切れる事なく静かに耳に届く。先程外した眼鏡がないせいで、更に彼女の美しい顔が見る事ができる。自分よりずっと大人びた紀美乃の寝顔は心底リラックス出来ているのか、普段起きている間に見せるどの表情よりもずっと幼い。その事が何だか訳も解らず胸を擽った。彼女のこんな表情を、一体どれ程の人が知っているだろうか。
こっそりと秘密を打ち明けられたような気がして、込み上げる嬉しさが溢れ出る。じわじわと全身に広がってゆく熱を押しやろうと頬を窓に向けて、不意に紀美乃が気を許さぬ相手の膝に頭を預ける事などありしないのだと思い至って。紀美乃の穏やかな寝顔とは反対に、飛鷹の心音はとくんと高鳴った。
「…………」
季節の移ろいに淡く笑んで、飛鷹は視線を落とす。落とした先には穏やかな吐息を繰り返す恋人の寝顔があって、その頭を受け止める自分の膝に掛かる重みすらも堪らなく愛おしい。室内を満たす全てが夏を思わせる空気だけではないような気がして、浅く息を吸い込んだ。
「睫毛、長いなあ……」
気持ちよさそうに眠る紀美乃を起こしてしまわぬように、飛鷹はそっと射干玉色の髪に触れる。寝息は途切れる事なく静かに耳に届く。先程外した眼鏡がないせいで、更に彼女の美しい顔が見る事ができる。自分よりずっと大人びた紀美乃の寝顔は心底リラックス出来ているのか、普段起きている間に見せるどの表情よりもずっと幼い。その事が何だか訳も解らず胸を擽った。彼女のこんな表情を、一体どれ程の人が知っているだろうか。
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