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柔らかな密室【やや不穏】

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 部下が去った後の部屋は、ついに手負いの船長たった二人になってしまった。血を流しすぎた所為だろう、眩暈がする。何か食べられるなら元気になるのに……。立ち上がって方々探したが、めぼしい物は残っていない。

「風呂場になら肉があるじゃないの」

 フリージアは幽かに笑う気配を見せて、不謹慎な事を言う。本気か否か判らない口調で、余計にコロンは眉根を顰めた。

「貴方の方が血を流しているでしょう。何か食べた方がいいんじゃないですか」
「私、肉が嫌いなの」
「お肉NGですか!? じゃあどうやって血を補充するんですか」
「小松菜を食べるわ」
「小松菜……」

 当然という口調で言う所為で、冗談かそうでないか掴みどころがなさすぎる。フリージアは遠い目つきで、ベッドに腰掛け、両膝に腕を下ろしてジッと其処に座っていた。残念ながら野菜はおろか肉もなく、辛うじて残っていたナッツとクッキーの瓶詰めを探し出してきた。フリージアの横(ほかにまともに座れる場所がなかっただけだ)に腰掛けて、ナッツを避けつつクッキーを食べ始めたコロンに、フリージアの片手が差し出される。「寄越せ」という事だろう。

「ナッツは食べられるんですね」
「ナッツは肉じゃないもの」

 揶揄いも効いた様子がなく、肩透かしを喰らった。フリージアの手にナッツを乗せると、ピンと指で弾いて口に放り込む。目も見えていないのに器用なものだ。視覚を突然奪われても、フリージアは初対面時と少しも変わった様子がなかった。微風程の動揺も感じさせないところは、流石の貫録だといえる。ポリポリと歯で噛み砕く微かな音が聞こえて、咀嚼するとまた手が差し伸べられる。コロンは、何だか野良の動物を餌付けをしているようで、悪い気はしなかった。
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