光芒の食卓

狂言巡

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ジビエ

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「ヒカルちゃんさぁ」

 月矢は、空になった皿を見下ろしながら言った。今なら言えると思ったのだ。

「そろそろ、音信不通するの止めない?」
「へ?」

 月矢の言葉に、ヒカルはパチクリと目を瞬かせた。いやね、そういうの可愛いしあざといなぁなんて思ってしまうのだが、今の月矢は誤魔化されない。

「これで、わりと心配しちゃうのよ」
「月矢さんが?」
「だって今回電波も繋がらない場所だったし? 寝る前とか、どこかでうっかりトラブル巻き込まれて死んでたらどうしようなんて、考えちゃうわけ」

 その言葉に、ヒカルは持っていた箸を置いた。

「……月矢さん、食べたいかと思って」
「へ?」
「こないだ、言ってたじゃないですか。牛とか豚以外の、珍しいお肉食べたいって」

 月矢は記憶を辿った。そういえば一週間前、彼女が朝にマリトッツォを食べようと突撃訪問してきた日だ。結婚した弟や、親戚から食材が送られてくるという話に、それっぽい返しをしたかもしれない。

「いや、それは」
「それで、婿入りした弟が猟で山に入るから家事を手伝ってくれたらお裾分けするって言われて、日程を確認もせずに出かけました。ごめんなさい」
「……謝って欲しいわけじゃないんだよ」

 気まずさに顎を掻きながら月矢が言うと、それでもごめんなさいとヒカルが頭を下げる。

「月矢さんは、シフト表の写真を毎月送ってくれますもんね」
「まあな」
「私もシフトの表作った方がいいですか?」
「いや……そこまでしなくても」

 月矢は視線をずらした。

「ヒカルちゃんが、ちゃんと帰ってくる保証があればいいよ」
「保証?」
「……あのさ、一緒に住まない?」

 月矢の言葉に、ヒカルは目を丸くした。鍋に入れようとした肉が取り皿の中に不時着し、タレが周囲に飛び散った。
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