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好み

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 アンバーは食べる事が好きだ。そういう時は、出来る事なら誰かと一緒が良い。カラオケや飲み会、話に花を咲かせながら飲んだり食べたりするのも好きだからだ。酒と料理と会話が楽しめる宴は何度やっても飽きない。
 ――でも。粗末でもないが上等でもない敷物を敷いて、二人で腰を下ろす。そして、お気に入りの地球人パールが風呂敷から出したのは弁当箱。朱塗りの重箱ではなく、木の色そのままの曲げわっぱだ。おにぎり、卵焼き、昨日の夕飯の残り物。嬉しい。パールといるからか。そんな彼女が作った物だからか。単純な自分を嗤ってくれてもいい。今の自分は朝からテンションが上昇し続けているから、あっさり許してしまえるだろう。

「パール、次はコレが食べたい!」
「はいどうぞ……あーん……?」

 パールは乞われるままに、タコの形のウィンナーを箸で挟んでアンバーの口元に運んだ。こうして、彼女と一緒なら、簡単なおかずや安い酒、何だって美味しく感じてしまう。ぎこちない会話はむしろ好都合だ。漂う空気感や触れ合う視線がよりじわじわと心に沁み渡り、故郷の星でも地球でも今まで感じた事のない高揚感が沸々と湧き上がってくるのだ。これまで経験した事のない不思議な感覚は、簡単に御する事が出来なくて酷くもどかしい。
 アンバーにこんな気持ちを抱かせるのは、地球中どこを探したってパールただ一人だけで、一緒にいればいる程、抱く愛情に包まれる温度が高くなっていく。彼女と目が合うたびに、声を交わすたびに、同じ空気を共有するたびに。好きだという気持ちが溢れて仕方がない。それが幸せだと感じてしまう自分はどうしようもなく恋の奴隷トリコだった。
 アンバーの好物は肉料理で、嫌いな物は甘い物(野菜は最近克服した)。でも、甘酸っぱいこの空気は、いつまでも食べていたいと思った。
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