後輩の食事情(5/21更新)

狂言巡

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キャンディ

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 何とはなしに制服のポケットに手を入れた飛鷹は、指先に当たったそれに馴染みの先輩から飴を貰っていた事を思い出した。自分にくれた飴だが、体調の悪い人の助けとなったとなれば、彼女も喜んでくれるだろう。引っ張り出したカフェオレ味の飴玉を、葵に差し出す。

「何よ?」
「ついでにもう一つ僕の偽善を受け取ってください。貰い物ですけど、顔色が良うないのがどうにも気になるんで」
「……気を利かせれば利かせるほど偽善に思えてくるわね気持ち悪い」
「そさやけ偽善でも何でもええですわ。それでも何か食べられて、さっさと帰って寝て元気になってくださいね」

 それだけ言い置いて、飛鷹は保健室を後にした。もういい加減帰りたい、空は真っ暗だ。足は勝手に先を急いだ。





 保健室で一人、ほんのり甘い雨を口の中で転がしながら、葵は先ほどの少年のデータを整理していた。自分とは違う意味で、なかなか人を信用しない友人が気に入っている彼。彼の容姿性格や言動、好きなモノや嫌いなモノを聞いているうちに、それが本当なのかどうか気になる事が良くあった。友人の紀美乃は、気に入ったものにはかなりの確率で美化する傾向があるので、どこまで信じて良いものかが判別が付き難いのだ。

「あの子の気持ちも、解らなくはないわ。不本意だけど」

 親は遠方に出張中で、現在は大学生の姉と二人暮らし。大人すら萎縮させるほど威圧感のある風貌だが、性格は思慮深く礼儀正しい。言動には時おり遠慮が無い。そして何より、この学校の生徒でありながら自分の事を全く知らないようだった。しょっちゅう全校集会をサボっているか、出ていても全く話を聞いていないかのどちらかだろう。

「気味が悪いくらい、面白い子がいたとはね」

 朱雀葵すざくあおい――翠薔薇すいばら学園の全ての権限を握っているとされる生徒会長クィーンは、ふっとへの字に曲げていた口元をゆるめる。ほどよく甘く、ほろ苦い飴は口内で割れ、硝子の破片のようになった。凶器のようなそれに反して、そこには女王様たる風格も消え去り、楽しそうな女子高校生がただ一人いた。
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