カゾクカイダン(9/19更新)

狂言巡

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【番外編】どこかの家族

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 赤い液体が入った哺乳瓶を咥えている幼児を目撃した近隣の住人は、血を飲んでいると驚愕して通報。中身は赤い絵の具を溶かした水だった。母親は内縁の夫と心中して死後一週間は経っており、誰が与えたのかは未だ不明である。





 アルバイト先の常連客に惚れた。バツイチ子持ちでも構わない。

「紹介しよう、私の娘達だ」

 天井から吊るされた人形達と目が合った瞬間、私は逃げた。





「夫も私も人形作りで趣味で……」

 自慢気に紹介されたのは、ちゃぶ台を囲むように座らされている数体のヒトガタ。私の親兄弟そっくりで、後一人分の隙間が空いている。





 買い手がつかなかった空き家が解体されていく。食事を作っている女性も、入浴中の男性も、居間で遊んでいる女の子とおばあさんも、風呂に入っている男の子も、庭の畑で作業しているおじいさんも、全部。





「最近ね、空から石が降ってくるのよ」
「そりゃ危ないな、今度覆いでもつけるかな」
「パパ、僕も手伝うよ」

 男は絶望している。どうして死なないんだ。殺して遺棄した資産家の一家は、今日も枯れ井戸の底で和気藹々と家族団欒を謳歌している。





 仕事は深夜までかかった。風呂に入ってノンビリ寛いでいると、ポストに何かが投函された。

「早く俺の家から出てけ」

 おかしいな、この家の住人は全員片付けたはずなのに。





 田圃にそろそろ水入れるかって頃、夕方にお互い土下座しあう三人家族が二組現れては夜には消える。祖母曰く出ても出なくても稲のデキには関係ないんだって。





 とある名家は後継者を除いて皆鬼の面を被るのがしきたりだそうだ。しかし面をつけていない彼女が一番恐ろしい。





 仲良し家族と評判のご一家、それでも朝になっても昼を過ぎても夜が更けてもずっと家族全員と思われる笑い声がするのはおかしい。通報を受けた警官がみたのは、家族のバラバラ遺体。死後一週間は経っていたそうだ。





 夜逃げした例の金持ち一家なら、朝がくるまで深夜の公園で立ってるよ。何が目的は知らないけど、いつも君の自宅の方をじっと見てるね。





 夜道で幼児とすれ違った。少し迷ったが、やっぱり心配で声をかける。

「パパとママは?」

 子供が嬉しそうに小さな熊のキーホルダーを掲げる。そうじゃなくてねと言いかけた途端、カラフルなクマがニヤリと人間のように笑い、独りでに動いた手は肌色で指が五本。逃げる事しか思い浮かばなかった。





 私は霊が視えるし話せる。気分と都合次第で相談に乗る事も少々。今日は幽霊少年に言伝を頼まれた。

「お父さんにあの中に入ってる骨はママじゃないって教えてあげて」
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