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秋桜の話
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「見せたいものがあるの」
そう美澄に言われて、華煉が連れて来られたのは、ただ広い校舎裏の隅にある、忘れ去られたような野原だった。狭い野原は、どこか荒っぽい雰囲気だが、きちんと手入れは行き届いている。辺り一面に、コスモスの花が咲き乱れていた。
「…………」
柔らかな風に揺れる、白、淡い紅、濃い紅が織りなす自然の絨毯を見て、藍晶は小さく息を飲んだ。
「綺麗でしょ?」
その隣に立つ美澄が、華煉の顔を覗き込むようにして話しかけてきた。それにはっとして、我に返って首肯で返す。
「私も、最近見つけた。校内にこういう場所があるんだって、驚いちゃった。誰が管理してるんだろうね? 何となく想像はつくけど」
笑いながら、美澄はコスモスに視線を戻した。一輪ではやや地味めな花かもしれないが、一面に揃い咲いていると圧巻である。長い茎が揺れる様を見て、華煉は僅かに目元を細めた。
「いい場所、知っているのね」
柔らかな秋の夕日を受けるコスモスを暫らく眺めた後、華煉が小さく呟きを落とす。気付いた美澄は、花びらを撫でる手を止めて華煉を振り返った。
「誰にも教えないつもりでいたんだけど、今日、華煉さんの誕生日だから。私からのプレゼントだと思って」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
愛想に欠ける感謝の言葉に、美澄の方がまるでサプライズを受けたように嬉しそうに笑い声を上げた。秋の桜と謳われる可憐な花を見て、華煉は久しぶりに心が凪のように落ち着いている事に気付いた。受験勉強、親族間のトラブルへの対応、生徒会の引継ぎ作業など、最近は特に忙しい時期を過ごしていたから尚更だ。
うつむけば涙が零れてしまいそうなで、華煉はしっかりと前を見据えた。熱を持った肌が恥ずかしいけれど、美澄はちょうど別の場所を見ていたので安堵した。忙殺されていた自分にこんな優しい景色を見せてくれた美澄に感謝を抱きながら、来年のこの日にも、この花を見たいという約束をもちかけようと心に決めたのだった。
そう美澄に言われて、華煉が連れて来られたのは、ただ広い校舎裏の隅にある、忘れ去られたような野原だった。狭い野原は、どこか荒っぽい雰囲気だが、きちんと手入れは行き届いている。辺り一面に、コスモスの花が咲き乱れていた。
「…………」
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